中田英寿を起用し新ブランドの確立に成功した「デサントゴルフ」のデジタル戦略

コアなゴルフファン層に訴求したい

「デサントゴルフ」は、ゴルフウェア業界で国内シェア1位を誇るデサントが新たに立ち上げたゴルフウェアブランドである。2014年11月の記者発表会では、中田英寿氏がブランドアンバサダーを務めることでも話題を集めた。現在も継続中の本プロジェクトをはじめ、広告プロモーションおよびブランディングのすべてをグラウンド(GROUND)が手がけている。

プロジェクトの始まりは2013年秋にさかのぼる。30~40歳代の中上級者に向けて、新しいゴルフブランドを構築したいと、デサントからグラウンドのもとに依頼があったという。

「クライアントの思いは、ゴルフファンのど真ん中といえる層に“新ブランドを定着させたい”ことだと解釈しました。そこで、時代にあったコミュニケーションを取り入れながら、強いブランド体験を提供できるようにしたいと考えたのです」(グラウンド・野尻氏、以下同)

そこで施策の中心となったものが、中田氏がゴルフに取り組む姿をFacebookやYouTubeで配信するプロジェクトであり、オウンドメディアを駆使したプロモーションとなった。

01 DESCENTE GOLF(デサントゴルフ)とは? 2014年11月25日に記者発表された、ゴルフウェアメーカーの(株)デサントが立ち上げた新ブランド。2015年の春夏コレクションから本格的な展開を開始し、9月1日からは秋冬コレクションがスタート。ブランドアンバサダーにサッカー元日本代表の中田英寿氏を起用するとともに、FacebookやYouTubeなどと連携したオウンドメディアを軸にしたプロモーションを行っている。

 

目的

・30~40歳代のゴルフ中上級者に向けて、新ブランドの認知と定着化

・中長期的かつ総合的なプロモーションの実施

成果

・ゴルフウェアマーケットにおいて短期間でのブランド確立に成功

・ブランド認知の向上とユーザーからの継続的な反響

 

スタートは「デジタルありき」にあらず

「30~40歳代のゴルフ中上級者層は、WebやSNSのリテラシーが高い層です。このブランドが従来とはまったく異なる、先進的なブランドだと伝えたい場合、WebやSNSを効果的に活用して、トレンドに沿ったコミュニケーションを行っていくのは自然な流れです」

つまり、もともとはデジタル施策ありきで発想されたプロジェクトではなかった。ターゲット層への適切なアプローチを突き詰めた結果として、ここではWebやSNSを軸にしたブランド展開が導かれたのである。また、主眼がブランド構築であるからこそ、ショップなどデジタルのほかにブランドと人々が接触する部分も、同時に企画制作が進められていた。

02 ブランド確立に向けて用意されたプロモーションツール 本施策の主軸は、中田英寿氏のトレーニングの模様を追いかけたオウンドメディア(ブランドサイト/Facebook/YouTubeなど)であるが、それだけではない。ユーザーが目に触れるさまざまなシーンにおいて、ブランドイメージを貫いたプロモーションが手がけられている。デジタル施策と並行して、屋内外のそれぞれのツールについてもグラウンドが中心となって企画、制作されている。

 

こうした展開の文脈を可能にしたのは、さまざまなメディアを駆使し話題のキャンペーンを数多く世に送り出してきた、グラウンドのクリエイティブ力とノウハウがあってのことだ。

「私たちへの依頼の多くは、今回のような新しいブランドやプロジェクトの立ち上げに関するものです。数年前までは、マスメディアを中心にした派手なキャンペーンも多かったですが、最近では全体の約7、8割がデジタルが絡んだ案件になってきています。スマートフォンの普及率が急速に上昇し、人々の情報取得のあり方が劇的に変わったことが要因です」

「新たなブランドは、時代の変化を敏感に察知できたものに」という意図は、デサントの経営陣の心を強く突き動かす。デサントがいち早く決断し、既存のゴルフウェア市場とは一線を画した強いブランド観が提供されていく。

 

ブランドを体現する存在の重要性

このプロジェクトは、大きな二つの決断があったからこそ実行できたと野尻氏は語る。一つは前述したメディア展開の主軸をデジタルとしたこと。もう一つが、ブランドアンバサダーに中田英寿氏を起用したことである。確かに中田氏は類いまれなアスリートだが、プロゴルファーではない。

「WebやSNSは、国や地域を限らず毎日の発信が可能なメディアです。そこで、グローバルに活躍する存在であること。また、日々接する場だからこそ共感できる存在でもあること。こうした両面を兼ね備えた方の協力が欠かせないと判断しました。中田さんは先進的なイメージも持ちあわせながら、アスリートとしての魅力がある。まさしく新たなブランドイメージを体現していただける方だったのです」

中田氏の起用は、業界内外にセンセーショナルな話題を呼んだだけではない。ゴルフ未体験の中田氏がトレーニングを重ねていく過程をドキュメンタリーコンテンツとして配信することで、ブランド観とともに、ユーザーに対して「一緒にゴルフを上達していこう」という共感を引き出すことにも成功した。

03 HIDETOSHI NAKATA SWING TIMELINE ブランドサイトに用意された映像アーカイブ。映像は、広告らしさを出さず、中田英寿氏が練習する臨場感を大切にしながら、その軌跡を追いかけた内容で、週に一度のペースで公開される。そのほかに、テキストや画像を使った更新も頻繁に行われている。Facebookでの投稿だけに終わらず、より詳細な内容がブランドサイトで閲覧できる仕組み。そして、Facebookのすべての投稿をグラウンドが監修。YouTubeにも専用アカウントが設けられている。

 

成果を導き、継続性を見据えた展望

本施策の目的は実に明瞭だ。一過性のプロモーションを実行し商品を売ること、ではない。「デサントゴルフ」という強いブランドを作ること。そして、多くの人が憧れ、「デサントゴルフのウェアを着て、ゴルフをやりたい」と思うこと。そのためには、ブランドの発信源であるブランドサイトとFacebook、YouTubeとの連動性には細心の注意を払っていると野尻氏は語る。ユーザーとブランドがもっとも密接に相対する場所でもあるからだ。

「ブランドの醸成と、結果としてゴルフウェアを買っていただけることが、私たちのミッションです。このブランドのプロモーションの成否に大きな責任を感じています。特にWebやSNSはデータが取得できるメディアですので、予算に対するKPIをクライアントと共有し、実際に達成することを繰り返しています。それらを指して“成果”だといえますが、私たちの求めていることは、単純にPVやファン数といった数値だけではありません。目には見えないブランド力を育むことを追求しています」

ブランドとユーザーとの結びつきを証明するのが、ほぼ毎日更新されているFacebookのエントリー(投稿)だ。日々の投稿内容によって、連動するWebコンテンツの当日のPV数を大きく押し上げることがほとんどだそうだ。Facebookから続きが見られるブランドサイトへの遷移の割合も、非常に高いという。ユーザーとの継続的で深い関係性は、刹那的な運営で生まれるものではないことの証左といえる。

04 さまざまなアングルからブランド体験できるコンテンツ ブランドサイトには、ほかにもデサントゴルフを着用してツアー参戦中のプロゴルファー渡邉彩香氏にフォーカスしたコンテンツや、アマチュアゴルファーを撮影したポートレート、2015年秋冬コレクションの商品ページなどを用意。あらゆる角度からデサントゴルフのブランド体験を実感できるメニュー構成も支持され、開設1年も経たずにゴルフファンを中心に、急速にファン数の増加をもたらしている。

 

Interview with>>
「デサントゴルフ」のオウンドメディアをはじめとしたプロジェクト全体の企画、制作を手がけるグラウンド(株)のCEO、野尻大作氏
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