編集力で魅了するカイシャ「東京ピストル」

社長は小説家!? 実はマジメな東京ピストルのお仕事内容

「Web制作会社に話を聞きに行くぞ!」とスタートしたこの連載。3回目にしてもう趣旨を間違えてしまったかもしれません。編集部のみなさま、ごめんなさい。

9月某日、東京・駒場東大前。ツクツクボウシの声と、雨上がりの生あたたかい湿りが残る日本近代文学館にて、取材は始まりました。

「僕、今度は小説書いてるんだよね。OKAMOTO'Sとのキャンペーンで処女作を…」

この日取材をしたのは、「東京ピストル」の代表である草彅洋平さん。あらゆる話題を打ち返すことから「トークのイチロー」という異名を持つ、ユニークでキュートな名物社長さんです。

東京ピストルのお仕事は、紙媒体やWebサイトのデザイン、編集・執筆、雑誌『TOmagazine』の制作・発行、イベント運営、ブランディング、空き物件の運用、グラノーラ専門店「GANORI」の展開(現在は分社化したようです)‥‥etc。ちなみにこの日の取材場所は、彼らが運営するカフェ「BUNDAN COFFEE&BEER」。とにかく業務範囲が手広い東京ピストル(しかも社長は小説家デビュー!)、どこからどう紹介すればいいのか! ということで、率直な疑問からぶつけていくことにしました。

 

Company Profile

(株)東京ピストル

組織形態:株式会社

事業内容:広告全般・大学関連・企業CIロゴ、カタログ、書籍、グッズ、Webサイトなどのデザイン制作ならびに編集。新規プロジェクトの企画、アドバイス。各種イベントの企画、運営、グッズの企画・販売。

スタッフ数:スタッフ数:10名(2015年10月現在)

設立:2006年

 

草彅洋平 Yohei Kusnagi

編集者/代表取締役

(株)イデー退社後、2006年に(株)東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、Webから紙媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表。広告から書籍まで幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。

 

桜井ユウ Yu Sakurai

編集者/取締役

「組織への帰属意識が希薄」というのが、メンバー全員に共通する特徴。にも関わらず、こと東京ピストルという枠組みにおいては共同戦線を張っているという。そんなところにいわゆる会社とは違う「集団」としての強みを持っていると感じます。

 

ーー東京ピストルさんっていつも我々の常識を超えてくる印象なのですが、きっとクライアントさんにとっても、謎集団なのでは‥‥?

草彅:そうなんだよね。リリー・フランキーさんが言うように「いただいたお仕事を断らない」をモットーに10年やってきたら、こうなっちゃったよ。でも結果として仕事内容よりも「草彅って変なヤツがいるらしいぜ」っていう印象が先に来るらしくって‥‥冗談じゃないよね。超困ってます!

ーー困ってたんですね‥‥。

草彅:みんな、すごくマジメに仕事してますからね。今は社員が10人いて、うち9人は編集者。ひとりは経理です。僕らは編集者集団だから、Webのコンテンツ制作をしたり、紙媒体の編集やゼロからの立ち上げもするし、最近はLINEアカウントの運用なんかもやってます。

ーーあれ、9割が編集者だったんですか。数年前は、デザイン会社というイメージがありました。

草彅:もともとは、僕とデザイナーで立ち上げた会社だからね。当時は東京ピストル“らしい”デザインなんかも追求したりしてました。でも、今の時代って、強烈な個性を求めなくなったよね。特にWebデザインはグローバル化していって、クセがなくて誰もが使いやすいものが主流になってる。そんな時代で、ウチの特徴やカラーをあえて保っておく必要もなくなってきたな、と。アノニマスな時代になってきたから、今は案件ごとにパートナーを選定して、ウチの編集者と一緒に制作しています。

ーー外部パートナーだとクオリティのコントロールが難しいと思いますが、東京ピストルさんの制作物はいつも素敵なデザインです。

草彅:ずっと一緒に組んでいるデザイナーが多いからね。東京ピストルに在籍していたデザイナーが、いま福岡でデザイン会社を経営しているんです。地方へ移住したかったけど、東京の仕事も受けていきたい。そこでウチが橋渡ししながら一緒に仕事する業態になりました。

ーーその関係性は面白いですね。それと、東京ピストルさんはdot by dotさんと一緒に、自分たちのオフィスをシェアオフィスとして開放されていますが。

草彅:「HOLSTER」ですね。東京の面白いフリーのクリエイターが集まる場所を作ろうとシェオフィスを始めたんだけど、自分たちの仕事に必死で運営に本気出せなかったから、最初は利用者が増えなくて大変でしたよ‥‥。でも今は満室になりました! 入居してくれているデザイナーと仕事する機会も増えましたよ。

 

OFFICE & PEOPLE

ゆったりと時が流れるBUNDANに活気のあるオフィスHOLSTER。

どちらも“らしさ”に溢れています

 

写真左上は「BUNDAN COFFEE&BEER」の店内。本好きにはたまらない空間だ。その他の写真はすべて同社のオフィスであり、シェアオフィスとしても開放されている「HOLSTER」の様子

 

「他と同じことやってもしょうがない!」スタイルの浸透

ーー先ほど、東京ピストルらしさを追求する時代ではなくなってきたとおっしゃっていましたが、でもやっぱり「東京ピストル」は一つひとつの案件に強烈な個性を感じます。クライアントとはどんな関係で、どのようにお仕事を受注してるんでしょう?

草彅:僕らはフォーマット化された仕事も引き受けますが、基本コンサル的な案件が多いんです。打ち合わせでも、まず「草彅さんどう思う?」っていう相談からスタートすることが多い。「バズってたあのキャンペーンのように」などと話を切り出す方もいらっしゃいますが、そんな時には「他と同じことやってもしょうがない。それとは違うもの、オリジナルな企画を立てましょう!」と提案してますね。

ーーそれは草彅さんだから成せる技なのでは?

草彅:最初はそうかもしれないけど、そのスタイルでやってると、意思とか想いの近しい社員が集まって、会社が育ってくると思いますね。

ーー確かにピストルの皆さんは、それぞれ編集者としての意志のようなものを感じます。

草彅:僕の企画力と雑誌とWebの『TO』は、世間からの評価も高いですし。でもまだ失敗と軌道修正の繰り返しですよ。ま、これまでもずっと、『こち亀』みたいな人生を歩んできたわけですから。これからも、人と違う面白いものづくりの方に突っ込んでいきますよ!

 

 

 

 

 

CREATIVE

媒体を問わず、東京ピストルの色がにじみでるさまざまな作品を紹介します

TOweb

東京23区のうち、毎号1つの区を特集するハイパーローカルなシティカルチャーガイド『TOmagazine』のWeb版。「TOweb」では23区という枠組みを超え、東京都全域を対象にした情報を伝えている。スマホファーストの観点から、デザインの美しさと可読性、UIの機能性を合わせ持つように設計を行った。動画コンテンツ「TVカテゴリ」のほか、多種多様な執筆陣による「COLUMN」も公開予定

 

GAPオリジナル『CITY GUIDE』

全国5都市のカフェや街頭と、GAPの店舗で配布されたフリーのガイドブック。「春に何か新しいことを始めたくなるようなシティガイド」というオーダーから、実際に携帯して使える、外へ出て街を探索するための手助けとなるような全国5都市のガイドブックを制作。その街や暮らす人々が持つストーリーを拾いながら、1冊にまとめた。フリーペーパーとは異なる過剰なまでの情報量が、読む人々をワクワクさせる仕掛けになっている

 

OKAMOTO'S 6thアルバム『OPERA』プロモーション

ロックバンドOKAMOTO'Sの6枚目となるニューアルバム『OPERA』は、主人公が「カギ・ケータイ・サイフ」を失くし、奇しくも“現代版・三重苦”を背負ってしまった1日をテーマにして楽曲が構成された新世代のロック・オペラともいうべきアルバム。スペシャルサイトの制作のほか、草彅氏がストーリーを小説として書き上げ、11月に河出書房新社より発売されるという奇想天外なプロモーションを展開

 

「パン田一郎」LINE公式アカウント

『フロム・エー ナビ』のキャラクター「パン田一郎」LINE公式アカウントの運用に関する企画やコンテンツ制作を担当。自然言語処理技術でユーザーのメッセージを解析し、「パン田一郎」との会話を楽しむことができる。一方通行になりがちな企業のLINE公式アカウントとしてではなく、会話できることでエンターテインメントへと昇華させた新たなマーケティングの形を提示するLINE公式アカウント

 

◎取材後記 東京ピストルは「編集力」で遊べる会社!

 

「東京カルチャーを知りたいなら草彅に会いに行け!」。そんなセリフを、東京に憧れた大学時代に耳にしたことがあります。東京カルチャーの中心でこち亀のように走り回る草彅さんはいつも、文学や映画のことを夢中になって語っています。その奮闘記のようなブログ(http://www.houyhnhnm.jp/blog/kusanagi/)は必見。 そして、東京ピストルで働く編集者たちそれぞれの文化遍歴の奥深さよ。オウンドメディア大流行による編集者大量発生時代において、彼らのようなゴリッとした存在は拝みたいくらいに貴重であります。そんな今の東京カルチャー中心地に想いを馳せて、この原稿を書いていたのでありました。

 

Text:塩谷舞(しおたん)
1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan
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