[デジタルプロモーション:The Gun Shop]「ノーデジタル」の拡散

いまやデジタルプロモーション=Webを使ったプロモーションのことではなく、イベント、屋外広告や交通広告などのOOH、プリントメディア、TVに至るまで何かしらデジタルを使っている。クライアントも「拡散させたいんだけど‥‥」と口を揃えておっしゃる。そんな中、今回は趣向を変えて、その風潮を見つめなおすような事例を紹介したい。

カンヌライオンズ2015の優れた作品の中に、すごく心を打たれたプロモーションがあった。「The Gun Shop(Guns With History)」だ。これは、米国の非政府組織SUPGVが銃の危険性を伝えるために行った施策。彼らはニューヨークに2日間限定でガンショップをオープン。実際にさまざまな銃を販売した。店内の様子は隠しカメラで撮影。「護身用の銃を探している」と次々と入ってくる客に店主が丁寧に銃の説明をする。

「人気はこのタイプだね。この銃は両親の部屋で、5歳児が9カ月の弟を銃殺した事件で使われたのと同じ銃だよ」

このショップにある銃はすべて、そういった“いわくつき”の銃ばかりなのだ。客はショックを受ける。その表情からすごく伝わるものがあるし、心に響く。この動画は瞬く間にWeb上で拡散され、さらにTVなどでも取り上げられ、物議を醸しだした。

このプロモーションはまったくデジタルを使っていない。しかし、結果的に動画はデジタルで拡散し、かなりのビュー数を叩き出して大きな話題となった。企画を考える時、まるでおまじないのように「デジタル拡散」を唱うクライアントに翻弄され、デジタルありきで考えすぎてはいないだろうか?そこにとらわれすぎて本来伝えたいことを見失っていないだろうか? デジタルを一切使わなくても、人の心に響けば自発的に広まっていく。本来はそこを目指すべきだ。自戒も含めて。

 

【Digital Promotion】The Gun Shop

 

簡単に手に入ってしまう米国の銃社会において、銃の怖さを考え直してもらおうと実施されたキャンペーン。米国ニューヨークに2日間限定の店舗を開店し、客が銃を手に取ると、オーナーがその銃にまつわる歴史を語る。銃には使用された場所、日付、撃った人間の氏名、これにより死傷した人数が書かれたタグがついている
ナビゲーター:築地ロイ良
(株)BIRDMAN代表、クリエイティブディレクター。インタラクティブを中心に、あらゆるメディアを使って人を動かす提案ができる。国内外にて100以上の賞を受賞。まずは何をどうやって伝えたら人の心に響くのかを考えないと。めちゃくちゃ当たり前なことだけど、手法から考えちゃう人が多い。 @roy_birdman
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