
福岡の地元ネタがマスメディアにまで拡散!? 日本全国に認知を拡げた老舗企業の知恵
10日で92万PVを生んだバズ施策
「くばら あごだしチャレンジ」は、福岡県の調味料食品メーカー、久原本家グループが手がけた期間限定のキャンペーン施策である。昨年11月10日からの10日間、400メートルという長いスマホサイトを公開(01)。

創業120年を誇る久原本家グループが手がけたスマホサイト。2015年11月10日~19日の10日間限定で、400メートルという長さをスクロールできた人のなかから1名に、毎日5万円をプレゼントするキャンペーンを展開。「日本最長400メートル」が話題を呼び、PVが92万8,132、応募総数は5万3,519通を記録した。応募は終了したが、現在もコンテンツにチャレンジすることが可能
この長さを完走(スクロール)できた人のなかから、1日1名に賞金5万円をプレゼントするという奇抜な企画は、TwitterなどのSNSや、テレビのニュース番組など一般のメディアにも大きく取り上げられた。400メートルというアイデアはセンセーショナルだが、ほかにも限られた予算で、地方の一企業が短期間で全国的に認知を拡げるアプローチとして、この施策には学ぶべきことが多い。
「私たちの“くばら”ブランドは、福岡県では商品がスーパーマーケットに置かれていてブランドも知られているのですが、九州以外では一部の店舗でしか取り扱いがありません。今後の事業展開を視野に、商品よりもまずは企業ブランドを全国的に拡げていきたい狙いがありました」(久原本家・齊藤珠美氏)
「全国でのブランドの認知向上が目的ですが、大手企業のような潤沢な広告予算ではないので、マスメディアを使った大々的な広告は難しい。そこで、知恵を絞ってWebでの話題化を狙う必要がありました」(電通九州・毛利慶吾氏)
マスコミも注目! 前代未聞の企画
施策のスタートは昨年8月。鍋シーズンを前に新商品プロモーションに用意されていた予算は、福岡県を中心に放映するテレビCMの制作・投下費用分だけだった。そこから捻出できた限定的な予算だけで、企業ブランドの認知向上も画策することになった。

九州全域には、新商品のためのテレビCMを放映。並行して、鍋関連商品の主戦場となる11月にあわせて、今回の施策を敢行。Twitter広告による誘引施策も図りながら(A)、一気にネット上で話題が拡散。Twitterのトレンド入りなども果たす(B)。これらの反響は、Yahoo!ニュースやLINEニュースのほか、全国のテレビや新聞への掲載にまで波及した(C)
伝えたい要素は「あごだしのくばら」。あご(=とびうお)のダシづくりに実直に取り組むメーカーが国内に存在することを知らせたい、という目的を達成するための企画が練られた。
「このサイトの主な狙いはシンプルです。長い体験時間ずっと“あごだしのくばら”というヘッダのコピーを見て覚えてもらうこと。そして、情報の消費速度の速いこの時代に、ユーザーの記憶にメッセージを強く残すため、とことんフィジカルな体験をしてもらうことです」(電通九州・毛利氏)
そこで、とびうおが最長400メートルも跳躍するという事実にフォーカス。この身体能力を持つとびうおだからこそ、余分な脂肪のない上質なダシが製造できるというメッセージとして、日本最長のスマホサイトが誕生したというわけだ。
「ユーザーが話題にしたくなることと商品の宣伝したい要素は、元来、相容れません。自由な気風が流れる社風で、社内の理解も得られやすく、今回は商品を前面に出さず、潔い構成で命運を託すことにしました」(久原本家・齊藤氏)
成功の秘訣は「話題化に徹したこと」
このサイトは、キャンペーン終了後の今でも体験版にアクセスできる。ゴール到達までに、iPhone 6で3,864画面、所要約20~30分‥‥(03)。

延々とつづく荒波の海をスクロール。距離の確認は可能で(A)、40メートルごとに「あご」(とびうお)に関する雑学コンテンツが出てくるほかは(B)、ずっと海。ゴールすると、応募フォームへ(C)。また、ゴールしたユーザーには、メールで感謝の画像が送付される(D)。 「企画チームは荒海でのあご漁にも一度参加しました。あご漁は荒波のタイミングでないと行われないそうで、海の画像選択で実体験が活かされました」(電通九州・毛利氏)
だが、ずっと海画面、ひたすらスクロールという“忍耐の強要”を企画の軸として貫いたからこそ、好評を呼んだ。体験した人からのさまざまな反応が、それらを証明する(04)。

Twitterのハッシュタグ「#あごだしチャレンジ」には、チャレンジしたユーザーの声が多数寄せられた。その内容は悲喜こもごも。ツイートのはしばしから企画を面白がるユーザーの姿が浮かんでくる。 「話題化のために、技術的な穴を設ける仕掛けも用意したりしました。タイムを競ったり交代でトライするなど、さまざまな遊び方で楽しんでくれました」(電通九州・毛利氏)
「ツイートのほか、“企画の妙”を褒める声も多数寄せられました。こうした反響は、“あごだし”や“くばら”のことがユーザーにも届いたという成果を強く実感できるものでもありました」(久原本家・齊藤氏)
応募が困難であること。これは、応募総数が目的でないからこそ、できたことでもある。
「プレゼントに当選したいゴール到達者は、周りに広めたくないはずなので、“いかに応募されず、シェアしたくなるか”が企画の核となります。実現を後押しした、クライアントの英断と懐の深さが、全国的な話題化という結果をもたらしました」(電通九州・毛利氏)
さらに実現の裏側には、あごだしづくりに実直に取り組む企業というスタンスを、施策の細部に盛り込めたことにも触れておきたい。
「ふざけた企画に思われるかもしれませんが、雑学ネタやゴール後のメールについても、誠実で真摯なトーンを意識しています。“あごだしに真面目に向き合う企業”が“くばら”だと伝えたかったからです」(久原本家・齊藤氏)
初回の成功が「次」の成功も呼ぶ
成果は目覚ましい。10日間でPVが92万強、目的でなかったはずの応募総数も5万通を超えた。Webニュースは100件以上、首都圏を含むテレビには4番組のほか、新聞にも取り上げられた。
今回の話題化の成功は、今後への確かな手応えと新たな課題への気づきにもつながった。
「心がけたのは優れたWebコンテンツでなく、“イベント”や“流行”をつくること。それを手元にあるスマホという身近な舞台で実現したことも成功の近道でした」(電通九州・毛利氏)
「一方で、あまりネットに親しんでいらっしゃらないお客様には、本施策がピンときづらかったことも肌身で知りました。その意味で、話題化の指標をどう置くべきかを考えさせられる体験にもなりました」(久原本家・齊藤氏)
夏までには、第二弾のチャレンジ施策を公開する予定とのこと。もちろん、期待したくなる。
「“あごだしチャレンジ”というTwitterのハッシュタグができて、多くのユーザーにあごだしやくばらを覚えていただけました。“あのくばらが、次は何を!?”という地点からリスタートできること自体が、知名度のない企業には相当な資産。覚えてもらったからこそ、二回目に意味が出てくるのです」(久原本家・齊藤氏)


左から(株)久原本家グループ本社 マーケティングサービス部の齊藤珠美氏と(株)電通九州でプランナーを務める毛利慶吾氏