仲間たちと働き方をつくるカイシャ「シフトブレイン」

あれから5年。世界へと向かう「日本発のデジタルクリエイティブ」

今回はちょっと、思い出話からはじめさせてください。2011年3月のこと。私は初めて地元を離れ、東京の会社で働くことになりました。春休みを利用しての大学生インターン。ド緊張しながら私が門をくぐったのは、当時原宿にあった「CINRA」という会社。そのCINRAと場を分かちあっていたもう1社が、シフトブレインでした。壁1枚もない空間で、私は東京デビューとともに彼らの仕事ぶりを目の当たりにしたんです。

当時、有名な広告仕事をいくつか進行させていたチーム・シフトブレイン。朝昼夜そして朝昼夜と、ビッシリと仕事に取り組む制作者たち。そこで起きたのが、あの大震災です。大きく揺れるビル、机にしがみつく私。そんななか横を見れば、揺れながらもプログラミングを書き続けるシフトブレインのエンジニアたちの姿が見えーー。

 

「これが、広告業界か‥‥」

 

そんな衝撃を抱えながら、ゆるふわ女子大生の私はまるで逃げるように関西に帰っていったのでした。あれから丸5年。取材に行ったのは外苑前の一軒家を改装した、あたたかなオフィス。「あぁ、久しぶりだね、なつかしいね」と笑顔で迎えてくれたのは、チーム・シフトブレインでした。なつかしい人も、初めましての人もいるけど、なんだか昔よりも柔らかく感じるのは、あたたかなインテリアのせいだけではないようです。社長の加藤琢磨さん、COOの仲村直さん、クリエイティブディレクターの鈴木慶太朗さんにお話を聞きました。

 

Company Profile

(株)シフトブレイン

組織形態:株式会社

資本金:1,000万円

事業内容:インタラクティブに特化したプロモーションサイトの企画・制作および、ロゴ・タグライン等の企業CI、カタログ等のコミュニケーションツール、映像制作など、それらを包括したブランド構築全般

スタッフ数:19名(2016年3月現在)

設立:2003年11月

 

加藤琢磨 Takuma Kato 代表取締役CEO/プロデューサー 1977年、長野県生まれ。大学卒業後Web制作の個人事業をはじめ、2003年に(株)シフトブレインを設立。2012年、パナソニック 「LAMDASH DNA」でFWA、One Showなどさまざまな賞を受賞。今回の引っ越し・ブランドリニューアルを機に肩書をプロデューサーへ変え奮闘中。
仲村 直 Sunao Nakamura COO/シニアスタジオマネージャー 1979年、京都生まれ。マーケティング会社などを経て、2006年にSHIFTBRAINに参加。プランニング、ディレクション業務を兼任しつつ、会社の組織づくり全般に関わっている。個人でイラストレーション活動も行っている。http://sunaon.tumblr.com/
鈴木慶太朗 Keitaro Suzuki チーフデザインオフィサー 1984年、東京生まれ。2児の父。大学で経済学を学びながら、グラフィックデザインを学ぶ。制作会社数社を経て、現在はシフトブレインでチーフデザインオフィサーとして勤務。デジタル領域のアートディレクションやデザイン、UXやUIの設計をベースに活動中。

 

ーー超、お洒落なオフィスにお引越しされましたね! 洋館みたいな一軒家。素敵すぎです!

加藤:変わった物件ですよね。 80カ所くらい内見して見つけたのですが、大きく改装して一階をキッチンにしたり、二階を撮影スタジオにしたり。でも、ここに越して来てから、快適なのかみんな夜までオフィスで過ごす時間が増えたような気がして、それはマズいのかな?って(笑)。

ーーあれ、私が知っている5年前のシフトブレインさんは、いつも昼夜オフィスでお仕事をされているイメージでしたが‥‥。

加藤:あの頃は、そうですね。多数ある案件すべてにおいてクオリティは妥協したくないし、会社としても成長したい。その想いが強くなるあまり、スタッフには無理を強いてしまっていました。その限界に達した頃に、「もうこれ以上はダメだ」という状況に陥り、組織を見直す機会ができたんです。冷静になってあらためて周囲を見回すと、自分たちと同じフィールドには良質なものをつくる制作者がたくさんいたんですよね。そこで競争していると、間違いなく消耗して、埋もれていってしまう。だから「自分たちがやるべき仕事で、最高のクオリティを出していこう」と方向転換したんです。

ーーその方向で認知されていくのも、大変なことですよね。

加藤:つくってもすぐにお金がついてくる、というわけではないですからね。僕のやることはまず、銀行に相談することでした(苦笑)。あと、社長としてトップに立つのではなく、メンバーがいかに疲弊せず、クリエイティブに働けるかを考える役回りに徹しました。これは当時出会った、LETTERSさんやBEES/HONEYさんらの影響が大きい。僕より若い世代ですが、とても柔軟に組織をつくって、カッコイイモノづくりをしてるんです。

鈴木:加藤さん、変わりましたよね。僕が入社した2012年頃は、1ミリ単位で違うデザイン案をいくつも加藤さんに提出していたりしました。でも今は完全に任せてくれています。

 

OFFICE

外苑前の一角に位置する洋館。佇まいがとても素敵なオフィスです

 

ーー鈴木さんは日本で誰よりも早く、世界的なWebサイトのアワード「AWWWARDS」の審査員になりましたよね。

鈴木:海外のサイトをリサーチしてたら、クオリティの高いものにはリボンがついている。それがAWWWARDSの受賞マークだったので、自分がつくったサイトを勝手に応募しまくったんですよ。するといくつか受賞させてもらって、とくに2013年にローンチしたパナソニック「LAMDASH DNA」のサイトを大きく評価してもらえました。その後、審査員側にも声を掛けられたり、海外からの問い合わせが一気に増えましたね。

ーー海外のお仕事は、やりやすいですか?

鈴木:一概には言えないですが、クライアントは世界中のプロダクションの中からうちを選んで、声をかけてきてくれています。だからフラットな関係を築きやすい、というのはあります。

仲村:いまは毎日、海外からの問い合わせが来ているんです。でも、会社としてのインフラが整っていないと受けられないですよね。銀行口座や、時差や言語。時代の変化とともにインフラもどんどん変わっていく。僕らは時代にあわせて会社を変えている最中なんです。

加藤:鈴木を中心に、オランダのアムステルダムにオフィスをつくるプロジェクトも始まっています。鈴木はヨーロッパでの登壇経験もあるから、あちらとのコネクションも豊富。そんな窓口が現地にあると全然違うんです。

ーー正直、ひとり海外に行く鈴木さんのこと、うらやましくないですか?(笑)

加藤:うらやましいに決まってるじゃないですか(笑)。でも、日本でも外国人スタッフを積極採用して、全社員が外国人スタッフと英語ランチする仕組みをつくったり、キッチンスペースではプログラミングを学びたい外国人のための勉強会を定期的に行ったり。僕はまさに、インフラづくりの真っ最中です。「グローバル化」という言葉を使うのは、日本人くらいなんです。ヨーロッパでは、扉を開けば他の国。僕らもシフトブレインをそんな環境にしていって、「どの国からの案件でもストレスなくスムースに仕事ができる会社」と、質や経験も含めて認められるようになりたいですね。

 

CREATIVE

“らしさ”あふれる、シフトブレインのクリエイティブを紹介します

TOYOTA Dream Car Collection 世界中の子どもたちの自由なアイデアを世界へ発信していくTOYOTAの社会活動 「Toyota Dream Car ArtContest」を、多くの人に伝えるオンラインキャンペーン「Dream CarCollection」の企画・制作を担当。子どもたちが描いた「夢のクルマ」を、2D/3D作品として映像化し、キャンペーン期間中に毎日発表した。「子供たちが思い描く夢の多様性」「コンテストの規模感」というふたつを、デジタルならではの表現でまとめ上げた
Techincs 50th Anniversary 2015年にドイツで行われた家電見本市「IFA」にて、「生誕50周年記念」を謳い、50年の歴史と未来に向けたメッセージを発信すると同時に、新製品を発表した「Technics」。同イベント開催に向けて、その歴史を俯瞰できるWebサイトと映像を制作した。同ブランドの50年の歴史を、奥行きとして感じさせる3D表現、軽量化や他言語化を考慮した文字要素のテキスト化など、随所に工夫がなされているほか、Webサイトと映像の両方で利用するオリジナルの楽曲も制作している
BEYOND BY LEXUS 自動車だけでなくさまざまな領域で表現を続けるLEXUSが発行するライフスタイル提案型マガジン『BEYOND BY LEXUS』。そのグローバルサイトのディレクション、デザインと開発を担当した。多様な記事の内容をWebならではのリッチな演出を駆使して実現し、同誌の世界観を多面的で魅力的に伝わるよう制作している。写真を活かしたレイアウト、スクロールによるトランジション、3Dの表現といった、クオリティの高いユーザー体験をページごとに楽しめる
SHIFTBRAIN(リニューアルサイト) オフィスの移転を機に行ったリブランディングの一環としてWebサイトをリニューアル。手掛けたプロジェクトを映像でつなげるSHOWREELをトップページに用意するなど、サイト全体を通してプロジェクトをメイン据えた構成になっている。コンセプトや制作のプロセス、技術的な情報など、各プロジェクトの詳細な解説も読み応えがあり、つくり手としてどのようにプロジェクトと向きあったのかが明確に伝わる。装いを新たにしたロゴマークにも注目

 

◎取材後記 本当の仲間たちとたどり着いた「働き方」の追求

2011年の3月。「これからシフトブレインは、どこを目指すべきなのか?」という激しい議論に、大学生の私はこっそり耳を傾けていたのでした。「今のままじゃ、ダメでしょう!」という大人たちのディスカッションは、まったくもってスムーズには進まないのです。 そこから、5年。ひたすらに自分たちの目指すべき道を探して、つくって、自らの足で歩いてきたシフトブレイン。それは、どんな旅だったのでしょう。「苦楽をともにした仲間」と言ってしまうと安っぽくなりますが、彼らの関係性には、切っても切れない優しさと、強さがありました。

 

Text:塩谷舞(しおたん)
1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan
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