
ツールを組み合わせた課題解決へのワークフロー
課題の発見から改善サイクルにつなげていくためのプロセス
Webサイトの改善は、むやみに細かい部分から手を入れても効果は上がりにくい。全体の方向性など、大きな視点からの解析は前述のGoogleアナリティクスやAdobe Marketing Cloudが有効だが、ここで終わってしまっては顧客の行動の背後にある「なぜそのような問題が発生しているのかという『本当の原因』を究明することは難しい」と(株)ギャプライズのマーケティングエキスパート鎌田洋介氏は語る。
同社ではこれらの課題を改善していくためのアイデア出しや仮説構築の分析支援ツールを多数取り扱っている。ここでは、その代表的なサービスと活用事例を見ていこう。
たとえば、「Clicktale(クリックテール)」はヒートマップに加え、ユーザーがどのようにページを回遊しているかというセッション再生、さらにクリックやタップ操作の動画再生もできる。これにより、ページのどの場所で離脱したのかなどユーザー行動の背景が想定しやすくなり、問題解決のためのアイデアやインパクトのある明確な仮説を立てやすくなる。
だが、仮説も検証を行わなければ仮説のままで終わってしまう。そこでA/Bテストなど検証作業を効率的に行うためのツール「Optimizely(オプティマイズリー)」が役立つ。同ツールは「データ分析の専門的な教育を受けていない担当者でも、改善のアクションが行いやすい環境を築ける(ギャプライズ・寺田文哉氏)」といい、冒頭のGoogle、Adobeのアクセス解析ツールとも連携できるので部分的な改善が全体に与えた影響も数値で検証できるという。

ツールを使って課題を発見するフローとしては、アクセス解析からヒートマップ、ユーザーテストを経て本当の課題を浮かび上がらせる。ここで得られた真の課題をもとに、解決策を導くためのA/Bテストを行う
足し算思考から“引き算”思考へWantedlyの決断力
次に、同社が数値分析ツールで課題発見と原因究明につなげた実例を紹介しよう。まず、国内最大級のソーシャルリクルーティングサービス「Wantedly(ウォンテッドリー)」のケースを見ていこう。
多くの採用担当者と求職希望者が訪れる同サービスでは、ランディングページ(LP)からプランの契約に至るフォームへの遷移率を向上させるために、ヒートマップとリンクアナリティクス、A/Bテストのツール群を連携し、さらにフォーム最適化にフォーム分析ツールとマウス(タップ)レコーディングを利用した。
LPでもフォームでも項目数をとにかく必要最小限に絞り、ユーザーに考えたり迷ったりというストレスを与えないという改善が行われた。たとえば、LPであればClicktaleのヒートマップで見られていない項目を発見し、その項目を「修正する」のではなく丸ごと削除するといった具合である。通常Webサイトの最適化プロセスでは、各部門からの要望に応えて項目が追加されていく「足し算」になってしまう傾向があるが、数字の裏付けを基に項目を思い切って減らしていく「引き算」の発想が興味深い。
Wantedly

さらにこのケースでは、絞り込まれた項目の順番も頻度の高いものからページ上部に配置するなどの改善を実施したという。その比較検証を効率的に行えるのがOptimizelyだ。同ツールを利用すれば、複雑なコーディング作業などをせずにA/Bテストと結果の検証がマーケティング担当者だけでも行える。さらにサイト全体を解析ツールで再検証して改善が見られれば万全だろう。
この項目を減らすという決断、改善サイクルのスピードアップには組織の体質改善も必要だが、これらのツールを利用することで課題の発見と解決が行いやすくなったのは間違いない。

PC・スマートフォンの各種コンバージョン解析とヒートマップ表示機能を備えた分析ツール。全セッションの再生やマウスの追跡録画が可能で、動画データから改善のアイデア出しに活用できるのが特徴。Adobe Marketing CloudやGoogle Analyticsとの連携も対応する
購入に踏み切れなかった女性の心理を読み解く
解析ツールで導かれた数値から問題を抱えるページを特定できても、その問題が「なぜ」「どのようにして」生じているのかは顧客の心理を読み解かなくては解決できない。その好例として、鎌田氏は女性向けアンダーウェアを扱う「Peach John」のスマホ版通販サイトの事例を紹介してくれた。
同社の商品詳細ページでは、閲覧される回数に比べてカートへの商品投入率が顕著に低く、離脱率が高いことがAdobe Analyticsによって判明していた。この事象だけ見るとサイト構造に問題があるのか、商品の見せ方に改善の余地があるのかまではわからなかったが、Clicktaleのヒートマップを詳細に見ていくことで課題解決のヒントになる事象が発見されたという。それは、詳細ページ内の各要素のタップ率を比較したところ、「下着の『色やサイズまでは選択することが多い』のに『カートに入れるボタンを押す』人が少なく、この場所での離脱率が半数近くにも上っていた(寺田氏)」のだという。
この数値からは購入に踏み切れないなんらかの心理的障壁(ボトルネック)が存在するのではないかという課題が明確にされた。そこで、ユーザーの心理に立ち返って考えた時、「サイズがあわなかったらどうしよう」という悩みがここで生じているのではないかという仮説を鎌田氏らのチームは導き出した。
改善案としてサイズ選択ボタンの下とカート画面に「初回購入者には無料返品に対応」というサービスを記載したところ、購入完了率は「11%」向上したという。ユーザーにわずかに生じた不安要素が大きな機会損失を生んでいたことが立証されたわけだ。このことからも、データから繊細なユーザ心理を読み解いて仮説を立案し、アクションに移すことで結果に結びつけることの重要性が理解できる。
Peach John

(株)ギャプライズ テクノロジーソリューション事業部セールスチームhttp://www.gaprise.com/
(株)ギャプライズ テクノロジーソリューション事業部カスタマーサクセスチーム
自社Webサイトの外側にある“市場の動き”を数値で見る
Webサイト内で影響力の大きいページの動きや課題を発見するために役立つGoogleアナリティクスなどから、問題を具体的に絞り込んで課題解決を支援するサービスを紹介したが、実はさらに大きな視点を加える必要がある。
というのも、いかに優秀な解析ツールといえど自社で運営するWebサイト内部の話であって、市場全体の動きや訪問するユーザーの前後の流れを捉えきれているわけではない。この視点を欠いた担当者は、細かな数値を見ていても独善的な解釈で判断を誤ってしまう危険性すらある。
そうした自社の解析と同じように競合他社の動きを解析できるのが「競合サイト解析ツール」だ。これらのツールは、モニターユーザーやネットワークの状況から、PVや検索キーワード、リファラーなどを提供している。推測値であるが他社の情報も入手できるため、自社のデータだけでは目標設定をミスリードしてしまうような場合にも、俯瞰的な視点を与えることができる。その代表的なものが「SimilarWeb」だ。

競合となるWebサイトとモバイルアプリの発見と、実際のアクセス数、リファラー、検索キーワードなどを多角的に分析できるイスラエル発のサービス。国内ではギャプライズが取り扱う
たとえば、家電量販大手の「ビックカメラ.com」は総売上高ランキングで業界2位、ECでも繁忙期の2015年12月にPV昨対比で115%の成長を遂げるなど、数字だけ見れば好調だと判断するだろう。ところが、同じ条件で家電ECトップのヨドバシカメラを見ると154%、上新電機は129%といずれもビックカメラを上回る伸び率となっている。つまり、業界動向に比べ相対的に伸びておらず改善の必要性があったのだ。
