
実録!ソフトバンクが抜本的にデジタルを改善する現場
[STEP 1]山積した問題点を整理する
手つかずだったサイトのUX度合いを把握する
ターゲットは「全世代」?! もっとUX重視のサイト(コンテンツ)に変えよ!
ソフトバンクは、現在進行形で公式サイト、オンラインショップサイト、会員向けサイトをリニューアル中だ。さまざまな部署が関わる大きな組織だからこそ、一気に変えるのは難しい。そこで、顧客第一のサイトへのリニューアルに向けて、「顧客基盤推進本部」が中心となって奮闘中だという。
今回はその渦中を取材。顧客起点の実現(理想と現実)に悩むプレイヤーの、打開のコツが潜んでいると考えたからだ。
「主な課題の3点(下図参照)に共通するのは、ユーザー目線を忘れた対応が積み重なった点。UX重視ではない状況の全面見直しを、一歩ずつ進めている最中です」(梅津しおんさん、以下同)
ターゲットは全世代(!)というサイトを、どのようにUX最適化していくのか?

[STEP 2]「本質的な改善」に向けて動く
UX重視のサイトへとリニューアルしていく
一気に改善できないからこそ、生まれた判断
梅津さんがリニューアルの命を受けたのが、2017年2月。もともと、社内にリニューアル自体の機運が高まっていた反面、スタート時点から実行へのハードルの高さをまざまざと突きつけられたという。
「対象サイトがそれぞれ数千ページで構成されているので、いきなりすべては変えられません。一方で、少しでも変えられれば、その効果が数千ページにつながり絶大なことにも気づけました」
導かれた改善へのアプローチとは?
「大きなテコ入れは、買い替え需要が高まる時期を区切りにしました。一気に変えられない現実があるからこそ、顧客ニーズが高い箇所への対応を最優先しつつ、全面的に変えづらいところは、少しずつでいいので改修する、放置しておかないという方針を立てました」

[STEP 3]本質にたどり着くためのKPIを設定する
全世代の満足度を高めるためのリニューアル
目的遂行のために、惑わされる指標は無視する
リニューアルの対象が膨大のため、ここからは公式サイトの「スマートフォン版サイトの改修」を中心に見ていこう。
UX重視の改修を実行するのに、KPIの設定にも学ぶべきところが! PVやUUなど気になる指標の誘惑を振り切って、顧客満足度だけにフォーカスしたのだ。
「ユーザーが迷った挙句にPVが上がっていたら、歓迎できない増加です。UX重視を鮮明にするには、絞り込んだKPI設定こそ、組織内にも説明しやすいですし。本気度の強さが出るはずです」
改修の対象が膨大、ターゲットが全世代、という状況自体は特異だが、問題の本質を徹底して洗い出しながら、確実な実行のためのKPIを探り出す過程は、普遍的な知恵。規模の大小を問わず、業務に活かしたい着目点である。

[STEP 4]全世代が納得する「コンテンツ」を用意する
ユーザーのニーズにあった料金シミュレーターを開発へ
ユーザーが迷わず、かつ数は絞ってコンテンツを用意する
では絶賛改修中のコンテンツとして、本体価格や料金プランなどの合算を算出する「料金シミュレーター」を例に挙げよう。リテラシーや目的が異なるユーザー全員が使えることを目指している。
「まずはユーザーを4つのグループに分類して、それぞれでどのようなツールが求められているのかを考えました」
そこで出した結論が、2つの切り口の用意。2つなら迷わない。自分で購入できる層にはすぐに購入できる入口を用意し、購入検討層とどの料金プランを選んでいいか決められない層向けに「月々の料金イメージをみる」という入口を用意。これには、簡単に見積もれるツールと、店舗のスタッフに相談しながらおすすめプランを提案されるかのようなヒアリングツールの二つを用意したのだ。

[STEP 5]現段階での最善策を実行する
各期限で最適なUX重視のシミュレーターを用意する
道半ばながらの最善を実行する
2018年4月現在はどこまで実行しているのか? 質問に答えるだけでおすすめプランが提案されるシミュレーター“かんたん見積もり”には、まとまった開発期間が必要で、すぐには実装できないことがわかってきたのだという。
「であれば、現段階でできる最善策を追求しよう。通常の料金シミュレーターの改修だと、長期の開発とはならないとわかり、当面は購入層と見積もり層との二手に分けた対応を決めたのです」
ユーザー調査の結果から、携帯電話の料金体系を理解できない人が多いという事実に直面していた。そこで…
「手続きの流れ、料金プランなどをわかりやすくして、画面下にいつでも料金表示されるUIを採用。今秋にはさらにわかりやすい状態へアップデート予定です」

[STEP 6]グループ全体、組織全体の改革へ
すべての事業部で満足度の高さを目指す
誰にとっても使いやすいサイトに。UX重視は今後もブレない
スマホサイトの最適化に向けた動きを中心に、ソフトバンクという巨大企業の目的遂行術を見てきた。ここでの学びは、何といっても目指す目標の高さ。それは、大企業だからできる、という言い訳を受け付けない。UXを重視するのなら、当然見出されるべき姿勢だからだ。
「この対応は難しい、できない、という言い訳の大半は、ユーザーのためではなく、会社都合や開発都合だったりします。もちろん、現実問題としてできないことはありますが、ユーザーありきのスタンスを貫くなら、安易に目標を下げるべきではありません。UXを損ねないためのクリエイティブの追求こそ、今後も変わらぬ顧客基盤推進本部の方向性です」
徹底したUX重視を貫くことが、誰もが納得できる成果物への一歩なのだ。


- 今回、取材したのは… 梅津しおん
- ソフトバンク(株)顧客基盤推進本部 UIデザイン課にて課長兼クリエイティブディレクターを務める。https://www.softbank.jp/