
求人事情の現状と企業が求める人物像
デジタルハリウッドには、企業から寄 せられた求人情報を取りまとめ、学生 の就職を支援する「キャリアセンター」 という部署があります。企業・学生双方 の窓口であるキャリアセンターからは、 どんな現状が見えているのでしょうか。
より早い段階からのアプローチ 教育から始まる企業の取り組み
──最近の求人の状況について教えてください。
座間味 近年、企業からの求人は確実に増える傾向にあります。以前は求人票を出すだけだった企業が、詳しい説明をしたいと来校されることもあるなど、より積極的になる様子がうかがえます。求人媒体での採用がより難しくなってきているという事情もあるようです。
──企業説明に来るんですか?
座間味 はい、より早い段階から学校と一緒になって人材を育てて行こうという動きが活発なんです。これまでも学校で説明会の開催を希望される企業はありましたが、もう一歩進めて、一緒に取り組みをさせてほしいということで、実際に企業で働いている方に講師になっていただく「企業ゼミ」を開催しています。以前は年に数件、こちらからお願いして実施していただいたのですが、最近では企業の方から手を挙げてくださるケースが増え、プログラムの層が厚くなってきました。我々としても、教育の部分から入っていただけるのは非常にありがたいと思っています。
──企業ゼミはどんな内容ですか?
座間味 全2~3回のワークショップのような形で、作品づくりやグループワークに取り組むものが多いです。全学生・受講生を対象にしており、1つのゼミで20~30名が参加します。講師の方の現場経験が活かされた内容ですし、アウトプットの評価もしてもらえるということで、学内でもだいぶ浸透してきました。
──学生に企業を知ってもらうにはいい機会ですね。
座間味 そうなんです。授業の準備や作品の評価など、企業にとって負担になる面はありますが、就職活動開始前から学生に知ってもらえるという点で、メリットのある取り組みになっています。また少人数なので、その中でのコミュニケーションや作品づくりを通じて、インターン募集、ひいては採用につながる機会も生まれています。

UI/UXなどに大きなニーズ 一方で細分化も進む職種
──企業からはどのような職種の求人が多いのでしょうか?
座間味 WebやCG関連は以前から変わらず多くの募集があります。その中で、一般にもエンジニア不足が言われているように、特にエンジニア関係の求人はここ数年で増える傾向にあります。──どの方面のエンジニアですか?
座間味 ジャンルを問わず多いのですが、特に目立つのはフロントエンドでしょうか。Webサービスを提供したり、自社のシステムを構築するといったニーズから、幅広い業種で必要とされています。
原田 UI/UXデザイナーの募集も急増しています。以前はデザイナーに含まれていましたが、今は専門の人材が求められるようになってきました。社会人が学ぶ専門スクールでは、新しく開講したUI/UXのクラスが非常に人気があり、働く人自身も重要性を実感しているのだと思います。また当校WebサイトでもUI/UXの検索数がこの2年で3倍に増えていることからも、潜在的にはもっと需要があると考えています。
──社会人にUI/UXが人気と。
原田 はい。ただ大学生にはそこまで理解が進んでおらず、同じゲームでもUIよりキャラクターデザインなど華やかな方に興味が寄りがちです。その中でも早くから理解して学んでいる学生は、就職では引く手あまたという状態です。
──カリキュラムも環境の変化に応じて新しくしているのですね。
原田 専門スクールの方は毎年見直しています。まさに、いま求められている職能を学ぶ場を提供することが基本なので、常に企業の方とお会いして必要とされる人材を要件定義し、カリキュラムをつくっています。2015年11月には「ロボティクスアカデミー」という、ロボットやドローンの利活用を学ぶ専門スクールも設立しました。ロボット開発の次の段階として、サービスデザインが求められ始めているんです。
──最近の職種はイメージしづらいものもある気がするのですが。
座間味 募集を見ると「デジタルプロモーションコンサルタント」「インタラクションデザイン」「モーションUXデザイン」など、一見しても内容を想像しにくい職種名が時々出てきます。総合職採用ではなく、職種別、さらに事業部別に採用するケースが増えているため、その部門ならではのこだわりがあるのかもしれません。あるいは本当に限定された分野でのプロフェッショナルが必要とされているというニーズが推測されます。
──学生さんの反応はどうですか?
座間味 わからなければ見ないという人が多いですが、逆にどういう仕事なのか興味を持つ場合もあるようです。

スキルはポテンシャルで測る 一方、重視するのは人柄
──そうした中で、いま企業にはどんな人材が求められているのでしょうか?
座間味 スキルについては企業によってかなり違いがあります。専門職は求められるものが年々高くなり、実際に現場で活躍している人と同じくらいの即戦力を求める企業もあれば、そうした人材の確保が難しいことをわかっていて、採用後に自社で育てていく企業もあります。学校では実務経験のない人がほとんどですので、当校への求人はポテンシャルを見て採用するケースが多いと思います。
──スキル以外で重視されるポイントはありますか?
座間味 やはり人柄ですね。当校では年に4回、成績優秀な生徒が参加する卒業制作発表会「クリエイターズオーディション」を行なっているのですが、これを観に出席された企業へのアンケートでは、採用のポイントとしてコミュニケーション力や向上心、自主性、論理的な思考など、スキル以外の回答が多く挙げられています。どんな職業であっても、やはり社会人としてはまず人柄というか、人間力のようなものが求められているということですね。
──企業もひとつのコミュニティであるからこそ、人対人のコミュニケーションは重要ですね。
原田 採用が難しい環境だからこそ、その一人がとても大事になってくるという事情もあって、やはり共に働ける人かどうかという点が重視されるのだと思います。そういう意味では、営業や販売など異なる職種からのジョブチェンジであっても、そこで培ったコミュニケーション力や社会人としての経験は、転職する際のプラスになります。
座間味 社会人の受講生から転職相談を受けると、過去の職歴をアピールポイントと考えていない方もいらっしゃるのですが、そこは無駄にしたらもったいないということはお伝えしています。経験の中から活かせるものを自分で理解して、アピールに活かしてほしいと思っています。
異業種経験が強みになる 転職のカギは「二刀流」
──クリエイターにとっては転職経験が強みになることもあるのですね。
座間味 業務内容によっては、クリエイティブのスキルと同時にその業界の専門知識が必要とされる場合があります。例えば、車にとても詳しいデザイナーが欲しいとか、アパレルの生地や型紙のことがわかるCGクリエイターを探している、といったご要望をいただくことがあるんです。
原田 CGを使いたくても服飾の専門知識がないと意味がわからない、CGにできないものがある、ならばCGを学んでいる人の中にその業界の知識を持つ人がいないか探してみよう、ということですね。
──どんな業界でもクリエイティブのスキルは必要ですが、まず業界の知識を持っていることが必要なんですね。
原田 そうした面からも即戦力になる人材がピンポイントで求められている状況だと言えます。逆に、採用できないなら社内の人材に学ばせようと、企業の方に研修のような形で当校の講座を受講いただくケースもあります。
──「二刀流」のできる人を育てようと。
原田 大リーグの大谷翔平選手のような人は、探してもなかなか見つかりませんからね(笑)。そういう意味では、ある業界での仕事を経験して十分な専門知識を身につけた人は、二刀流のできる人になれる可能性があるということです。
座間味 この傾向が見られるようになってからは、転職採用の年齢の幅がずいぶん広くなったように思います。先に申し上げたクリエイターズオーディションでは、作品発表後に企業の方が受講生と直接名刺交換できる懇親会があるのですが、前回は40代男性の生徒の前にすごい列ができていました。以前は営業職に就いていた方で、コミュニケーション力が高く、さらに作品も非常に良かったということで注目されました。
──30歳を超えたら転職は難しい、という時代でもなくなっているのですね。
原田 はい。これまでの人生で得たものの掛け合わせができたからこそ出会えるチャンスはあると思います。今の仕事で人間力の土台をしっかり作り、その上にスキルを身につけることができれば、自分の強みになります。転職を目指すならむしろ今の仕事に目的を持って取り組むことが大事です。
──ひとつの仕事で身につけたことを、次の糧にすることが重要だと。
座間味 今はあらゆる業界でIT・クリエイティブ系の人材が必要とされています。当校に寄せられる求人も、以前はプロダクションからのものが多数を占めていましたが、現在は自社で製品・サービスを持つ事業会社の割合がぐっと高くなってきました。経験を活かしたジョブチェンジという意味では、チャンスはむしろ広がっているといえるでしょう。

- 座間味涼子さん_Ryoko Zamami
- デジタルハリウッド株式会社 キャリアセンター マネージャー

- 原田紀子さん_Noriko Harada
- デジタルハリウッド株式会社 スクール事業部 アライアンスユニット ユニット長