CMSを100%活用した改善サイクルで成果を導く運用術

CMSを導入しているけれど、想像していた成果が出てこない…。こうした運用中の悩みへの対応方法について、事業の立ち上げからグロース(成長)までをトータルで支援している制作会社(株)シナップのみなさんに話をうかがいました。

大川 貴裕(株)シナップ 取締役 クリエイティブディレクター https://sinap.jp/
久保田 さや佳(株)シナップ デザイナー CV改善チーム
三國 翼(株)シナップ ディレクター CV改善チーム
三國 翼(株)シナップ デザイナー CV改善チーム

CMSに何を求める? 運営で成果が出ない真の理由

数年来の傾向として、企業側/事業側がWebサイトの運用を内製化したいというニーズは高いです。自社のビジネスを一番理解できているはずの社内が中心となって、内製が実現できるなら、予算の効率化という点でも理に適った動きです。ある事業に対してデジタル施策の実装や制作で、いざ外部パートナーが携わる場合の懸念は、どうしてもクライアントのビジネスを理解するのに、一定の時間がかかってしまうことでしょう。

一方で、ビジネス上の問題が社内できちんと整理できていても、施策に反映できていないケースがあります。ここが内製化のボトルネックの1つです。打開策として、デジタルに精通した外部パートナーと組むことで、戦略が施策化できるようになればベターです。

ビジネスの成果という視点で考えると、ビジネス全体の舵を取る人や機能があるかどうかで成否が分かれます。全体を通じた判断ができないと、各所での部分最適しか行えないからです。

これらの考え方に基づくと、運用体制を築き、CMSでの運営を始めたけれど結果が出ない背景には、「CMS導入=成果」という考え方に引きづられているといえそうです。CMSはコンテンツづくりを管理できる、更新しやすい仕組みではあっても、成果そのものを導く自動的な仕組みではありません。

CMSを用いてWebサイト運営を続けていても成果が出ていない場合、そもそもCMSに何を求めていたのかを、もう一度見直すことから始めましょう。例えば、コンテンツを各部署で定期的に公開するために導入していたとすれば、まずはその見直しです。その結果、体制や運用ルールをチューニングして再び運用を続けたけれど、やはり目に見えた結果が出ないなら、結果が出ないことがCMSの問題だったのかを疑うべきです。CMS自体にではなく、ビジネス設計やゴール設定に問題があるのではないか。CMS自体はむしろ機能しているのではないか、と状況を捉え直してみてください。

CMSのせい? 成果が出ていない原因を追求する

ここまでの内容を、どう運用体制を組むか、という視点で捉え直すなら、運用体制とはビジネスゴールがあってこそ適切に組めます。見直しのポイントは、すでに存在する運用体制の成り立ちが、CMSありきの観点からでしか成り立っていないかどうか。もしそうであれば、ビジネスの成果はCMSありきの運用体制だと生まれにくいでしょう。もともとの成り立ちが成果を意識したチームづくりになっていないからです。例えば、更新作業が得意な人材ばかりで体制を組んで、ビジネス全体の判断ができる人材をCMS担当チームに入れていなければ、厳しい結果が出ても仕方ないのです。

逆に、ビジネス上の成果を引き出すチームがあって、その中の一要素としてCMSチームがあるならどうでしょうか。コンテンツの更新など与えられた役割がまっとうできているなら、CMSチームは機能できている、と解釈できます。問題があるとすれば、CMSにあるのではなくて、ビジネスゴールが描けていない、ゴールに向かう施策が機能していない、などCMS以外に原因がある、と考えることができます。

更新する機能に問題があればCMSのせいですが、更新した内容に問題があるなら、それはCMSではなく内容に課題があるはずです。CMSに何を期待しているかを誤解していたり、読み違えている限り、CMSの運用体制という考え方で事態は乗り切れません。

やるべきは、ゴール達成のために体制/チームを組むという考え方です。どういう役割が必要だから、こういうチームをつくろうという考え方にもなるので、その観点でCMSが必要であれば、役割に基づく使い方ができるはずです。

まずはうまくいっていないことの原因をつかみましょう。それがCMS体制に絡む目標設定にミスがあるのか、CMSとは関係がない体制づくりに問題があるのか。原因を突き詰めることから始めましょう。

01 CMSはビジネス的視点と並走するから機能する
CMSは役割を果たすための手段であって、成果そのものではありません。そこで、「CMSという手段をどう使うのか」については、ビジネス的視点を並走させながら一緒に考えるのがいいでしょう

仮説を立ててどんどん試し、勝ち筋を見つける

私たちが仮に、CMSを運用中の施策について相談された場合、どう動くでしょうか。シナップでは、まずUXデザインプロセスでクライアントのビジネスを理解した上で、さまざままな改善施策を検討します。そして求める成果から逆算しながら事態の把握と、改良の提案(仮説)を出していきます。

例えば、CMSを導入して運用しているが、更新しているだけの状態、という現状が見えてきたとします。これはCMSに非があるのではなく、ビジネス上の戦略がないままに更新しかできていないことに問題があった、となります。そこから、戦略を意識した改善策に着手します。

具体的なサンプルとして02を用意しました。メインとなるゴールによく据えているのが、Webサイトやランディングページ(LP)を通じた「会員登録率向上」「問い合わせ獲得率向上」などです。これらの目標を達成するために、会員登録フォームがどうなっているのか? と経路を遡っていきます。達成すべき目標を念頭に、フォーム内の課題を洗い出しましょう。すると、現状のフォームが抱える問題点が浮上してくるはずです。解析ツールを使って遷移率や入力率を確認しながら、成果に結びつかない原因を探り、仮説を立てましょう。

例えば、既存フォームではヘッダにリンクが用意されているため、フォーム登録よりも別画面に遷移させていた、と仮定してリンクをなくします。入力率が低調なら、入力項目数を絞ります。そうして、改良案ではフォームに遷移後のファーストビューの範囲に「登録する」ボタンまでがおさまるようになりました。後は期間を決めて試し、結果の違いを探ります。

CMSで管理するコンテンツとして対応するにしても、こうした取り組みはCMSにまつわることとは違った話です。成果とCMSを混同しない取り組みとして、参考になる道筋かもしれません。

02 目的達成のための仮説の立て方
成果に関わる箇所について再検討し、チューニングした状態でテストを行っていきましょう

仮説、検証、考察を継続的にサイクル化、知見を蓄積する

ビジネス最適化を考えると、必ず導きたいゴールがあります。ゴールへと到達するためには、各所でユーザーがアクションを起こしレスポンスがある状況をつくる必要があります。現状で成果が出ていなければ、現状の問題点を洗い出し、導き出した仮説を試しては効果検証を行います。さらに結果の考察を通じて出てきた改善点を再び仮説へとフィードバックしたら、新たな仮説として改めて試します。成果を引き出す動きとは、継続的な改善を呼び込むサイクルによって、徐々に結果へと結びついていくのです。

そこで、ゴール(例:Webサイト全体のゴール)から各所のフェーズを具体化して図示したのが03です。ゴールから経路を遡りながら、各所でKPIを立てていくというイメージです。ページ単体まで分解していくと、ケースによっては「AとBのコピーならどちらがコンバージョン(CV)されるのか」、「CとDのボタンならどちらがより押されるか」といった細かなA/Bテストの実施にまで落とし込まれたりします。CVチームを設けるとしたら、他にもケース別でコピー用のチームや画像用のチームに分けて、それぞれでどちらがいいかを検証を重ねて、よりよいほうを模索します。

あとはまとまった期間でテストを行うのか、短い期間で異なるテストをやっていくかなど、状況によってアプローチを変えながら進めていきます。

こうしたテストをやると、AとBでわかりやすく大きな違いが出ることがあれば、それほど差異が出てこないこともあります。特に後者は1回ごとの差異は小さくても、積み重なっていくと徐々に開きが出てきます。検証段階でその差異をどう評価するのかを含めて判断が求められます。

ガラッと状況が変わるケースはなかなか出てこないものですので、対応できるところから小さな改善を試みるほうが現実的でしょう。

03 成果を導く継続的な改善サイクル
ビジネスゴールからどんどんと要素を分解。対策のための施策を実行し、継続的な改善できるフローをつくっていきましょう

Text:遠藤義浩
※Web Designing 2020年4月号(2020年2月18日発売)掲載記事を転載

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