海賊版サイトは、提供しているサーバー会社にも責任はある?
海賊版サイトとは
海賊版サイトとは、著作権者の許可なく、映画・音楽・漫画・書籍・ゲームなどのコンテンツを違法に配信・公開しているウェブサイトのことです。これらのサイトは、ユーザーが無料でコンテンツを閲覧・ダウンロードできるようにしていることが多く、著作権法に違反しています。広告収入やマルウェアによる個人情報の取得が目的とされていることも多く、アクセス自体に危険性があります。また、日本では、2021年の著作権法改正により、違法にアップロードされたコンテンツのダウンロードも原則禁止となりました。サイト運営者はもちろん、利用者も違法ダウンロードや閲覧によって罰せられる可能性があります。
もし、正規の方法でコンテンツを楽しみたい場合は、出版社の紙・電子書籍を購読したり、サブスクサービス(例:Netflix、Amazon Prime、BookLiveなど)を利用するのが安全です。
海賊版サイトとサーバー会社の関係性
海賊版サイトも通常のウェブサイトと同様に、インターネット上にコンテンツを公開するためにサーバーが必要です。
そのため、レンタルサーバーやクラウドサービスを提供するサーバー会社を利用して、サイトを構築・運営しています。サーバー会社は必ずしも違法性を把握しているわけではなく、契約者がどんなコンテンツをアップロードしているかを常に監視しているわけではありません。
一部の海賊版サイトは法的リスクを避けるために、運営者の身元が特定されにくい国や地域のサーバー会社を利用するケースもあります。
日本では、著作権侵害に関与したサーバー会社も責任を問われる可能性があります(ただし、故意や過失がある場合)。そのため、多くのサーバー会社は利用規約で「違法行為の禁止」を明記し、通報があれば迅速に対応する体制を整えています。著作権者や関係機関からの通報があれば、利用停止やデータ削除などの対応を行うことがあります。
竹書房がCloudflare社を訴えた背景
海賊版サイトがCloudflare社のサーバーを利用していた
2020年1月7日、出版社の竹書房が、米国の通信事業会社クラウドフレア社に対する民事訴訟を提起したことをプレスリリースとして発表しました。クラウドフレア社が海賊版サイトにサーバを提供しているとして、アップロードされた著作物の削除と損害賠償を請求したとのことです。
もちろん、著作権を直接侵害しているのはあくまで海賊版サイトです。クラウドフレア社はサーバを提供しているだけで、そのこと自体は違法ではありません。ですから、本来は海賊版サイトの運営者を訴えるのが筋だといえます。
しかし、海賊版サイトの運営者を見つけて裁判をするのは簡単ではありませんし、海賊版サイトが次々と場所を変えてしまうとモグラたたき状態となってしまいます。竹書房が裁判の相手をクラウドフレア社としたのにはそんな理由もあるのでしょう。でも、勝算はあるのでしょうか。
参考になると思われるのが、違法にアップロードされた動画にリンクを貼る行為が著作権侵害になるかどうかが問題となった裁判例です。その事件では、「リンクを貼る時点でリンク先の動画が違法にアップロードされたものだとは明らかではなかったこと」「違法にアップロードされたものだと認識し得た時点で直ちにリンクを削除したこと」などを理由として、侵害にはならないと判断されました。
サーバー会社が著作権侵害の責任を問われる可能性

逆にいうと、最初から違法にアップロードされたものだと知りつつリンクを貼った場合や、リンクを貼った後であっても、違法アップロードだと知ったのに削除せず放置した場合は著作権侵害だと判断される可能性があるといえます。
リンクを貼る行為とサーバを提供する行為は異なりますが、どちらも海賊版サイトの運営と、運営を通じた著作権侵害を助長するものという点は同じです。ですから、海賊版サイトへサーバを提供する行為も、海賊版サイトだと知りながら提供した場合や、相手が海賊版サイトだと知ったのに適切な対応をせず放置した場合は著作権侵害だと判断される可能性がありそうです。
竹書房のプレスリリースでも、訴訟の理由の一つとして、「違法アップロードされた著作物をサーバ上から削除するよう求めたのに対応してもらえなかった」ことが挙げられています。
サイト運営者としては、「著作物の違法アップロードに対する予防装置を設ける」「違法にアップロードされた場合でも判明した時点で直ちに削除する」といった措置を講じることが必要です。サーバを提供する側も、そのような仕組みが相手のサイトに整っているかどうかを確認すること、違法にアップロードされた作品を確認したら削除に応じることなどの適切な対応が必要でしょう。
執筆者プロフィール
桑野 雄一郎
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2024年鶴巻町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年) など。
鶴巻町法律事務所 http://kuwanolaw.com/
※本記事はWeb Designing 2020年4月号(2020年2月18日発売)掲載記事を転載し、Web Designing Web編集部が再編集・再構成したものです。法律等にまつわる記載につきましては、本誌掲載時点の法令等に基づいています。
「知的財産権にまつわるエトセトラ」とは?
鶴巻町法律事務所の桑野 雄一郎さんによる、Web Designing本誌の人気連載です。
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。