
ビジネス展開を見越し運用体制の強化を図った“マーケティングツール”サイト
マーケティングツールとして再始動
2015年10月1日より、(株)モリサワがコーポレートサイトをリニューアル公開した。全ページにWebフォントを採用し、サイト自体がWebフォントのモデルケースとなることを目指している。レスポンシブWeb対応で、PC用とスマートフォン用それぞれに最適なWebフォントを使い分けている(01)。フォント製品に特化した以前のサイト構成を改め、時代状況の変化に対応できるフルモデルチェンジを決断したという。
「2012年からサービスを始めたWebフォントの本格的な訴求を行えることと、電子書籍をはじめフォント以外の自社製品もきちんと訴求できること。これらの実現を目指して全面的にリニューアルしました」(モリサワ・阪本圭太郎氏)

2007年以来のリニューアルを実施。全ページでWebフォントを採用することで、このコーポレートサイトそのものが“Webフォントのモデルケース”として機能するように配慮されている。PC版には可読性に優れたUD書体(ユニバーサルデザインフォント)を、スマートフォン版にはスクリーン幅が狭いことを考慮してやや縦長のコンデンス書体を採用し(右)、Webフォントを使い分けて利用している
2013年の暮れ、数多くのコーポレートサイトを手がける(株)ワンパクとパートナーシップを締結。バックエンドのシステム開発も含めたワンパクとの二人三脚の体制がスタートした。
「“モリサワ”という企業のブランドについて、クライアントと徹底的に議論することから始めました。そこで共有したことが、“文字を通じて社会に貢献する”というクライアントの企業理念を体現することでした」(ワンパク・阿部淳也氏)
「ブランドのあり方を捉えなおしながら、各事業部を通じて約80名の方々にヒアリングを行い、現場からのビジネス要件とユーザーニーズを洗い出しました。また、柔軟な対応を可能にする基幹システムへの仕様変更も進めていきました」(ワンパク・原冬樹氏)
その結果、このサイトそのものがWebフォントのモデルケースという「マーケティングツール」へと生まれ変わったことも成果の一つ。だが、本サイトの見所はこの点だけにとどまらない。
ユーザー目線ありきに情報量を改善
ブランドのあり方や要件定義を巡る議論は、半年以上かけてじっくり行われたという。目指す姿は、マーケティングツールとして機能できること。その実現に向けて共有されたもう1点が、ユーザー目線に基づく設計だ。
「スマホでもストレスなく閲覧できるために、抜本的な情報構造の見直しが必然でした。その実現を支えた一つが、ヘッダに設置したプルダウンメニューです(02)」(ワンパク・阿部氏)

プルダウンメニューには事業戦略に沿ってカテゴリーを6つ用意。「企業情報」ページの場合(A)、その中に配置された4つのコンテンツに対して、任意の情報先に遷移しやすいようにグラフィカルなアイキャッチも配置(B)。そのほかもコンテンツ数に応じてアイキャッチを用意(C)。表に出しているコンテンツは一読してわかるボリュームに抑え(D)、別途、詳細ページを用意している
「ページのどこからでも主要となるコンテンツへ遷移できるようにしました。PC版ではメガメニューを採用し、ダイレクトに行き先を見つけられる設計にしています。企業サイトとして提供すべき情報を担保すると同時に、ユーザーが項目内容を想起できるよう、アイキャッチを効果的に使用し、ユーザーが直感的に把握できるように配慮しました」(ワンパク・原氏)
遷移先には、要旨をまとめた適量のコンテンツを用意。つまり、最優先に重きを置く「一読で内容を把握しやすい構造」を貫いている。
ビジネス展開を視野にツール開発
Webフォントや情報構造の再構築という観点とともに、本サイトで印象深いのは、冒頭に用意されたオリジナルムービー。映像は、老若男女を問わず、文字が人々の暮らしと直結しているシーンについて情緒的に描いている。けっして長くない再生時間も好印象だ(03)。

トップページは、冒頭にムービーコンテンツを置き、スクロールすると自社製品にまつわる概要を掲載している(A)。ここで目を惹くのは、BtoBサイトには珍しい、やわらかなトーンが印象的なオリジナルムービーの存在だろう(B~D)。 「ユーザーにとって、最初に目に飛び込んでくる要素です。けっして押しつけがましくならない表現で、“日常的に人は文字や書体に触れている”ということを実感していただける状況を映像化しています」(ワンパク・阿部氏)
「文字は水やガスなどと同じ“情報”のインフラという考えのもと、生活に欠かせない“文字”という存在について、説明的にならず伝えやすいムービーを採用しました」(ワンパク・原氏)
暮らしにかかわる“文字”について、まずはユーザーに気づいてもらうことが、モリサワという企業の姿勢を広めていくことにつながる。
「肝心なのは、一人ひとりのユーザーがモリサワについて具体的に想像しやすくなっていただくことです。ワンパクさんとの議論の積み重ねで、双方が納得して行きついた方向性が、自社製品の紹介要素を盛り込まず、文字が日々の生活にいかにかかわっているかを感じとっていただくことでした」(モリサワ・阪本氏)
また、フォントメーカーとしての真骨頂を感じさせてくれるのが「フォントツール」(04)。この完成度の高さは、一度試せば実感できるだろう。任意に入力したテキストに対して、選んだ書体がリアルタイムに表示されるからだ。

希望のフォントの種類を選択すると(A)、入力したテキスト(「例:ネットビジネスを加速させる」)が検索候補のWebフォントに変換されて確認できる、というフォントツール(B)。 「フォントメーカーとしての生命線を担うツールだと思っています。弊社でフォントシステムに関するバックエンドを再構築して、より自然な挙動が実現できる整備を行いました。特にスマホ上でも、手軽に使えることが実感していただけるはずです」(ワンパク・原氏)
「クライアントの財産となるツールになるよう注力しました。緻密な設計に基づきシステムを刷新し、APIも開発しました。アプリ化をはじめ、将来的なビジネス展開を見越して、汎用性のある開発を行いました」(ワンパク・原氏)
ECストアとの統合も決定
ユーザー目線を意識した構造改革は、ほかにも随所に見受けられる。グローバルサイトは、国や地域の実状にあわせて、シンプルな構成で実現。またサポートページでは、ワンパク独自のCMSを導入。フォーム対策で用意した「よくある質問」の内容をはじめ、社内担当者がいつでも更新できる設計へと仕様を変更(05)。実際にアクティブな運用が行われている。

アメリカ、韓国、台湾と、現地法人を置く国や地域向けのグローバルサイトは、現地の実状にあわせてシンプルな構成で用意(A)。そのほか、ワンパク独自のCMSを導入し、サポートページ内の電話の混雑状況や(B)、問い合わせフォーム対策として「よくあるご質問」内容(C)を社内担当者がつねに更新できる設計に。自社製品にかかわる箇所には詳細ページや購入への導線(コンバージョンボタンの設置)も確立されている(D)
「このサイトで実現したいのは、マーケティングプラットフォームとして機能することです。時代の変化に対応できる装置を開発し提供するだけでなく、今後クライアントとともに、このコーポレートサイトを育て、飛躍させることが、私たちの使命です」(ワンパク・阿部氏)
2015年10月から始まったモリサワの新たなスタートは、年内に第二弾を迎える予定だ。
「弊社のECサイトを、12月半ばからコーポレートサイトに統合していく予定です。これもワンパクさんと、バックエンドから一気通貫して設計と開発を行ってきた取り組みの証です。いかにコーポレートサイトをマーケティングツールとしてワークできるか。今後の効果検証にも大きな期待を寄せています」(モリサワ・阪本氏)
