相手に伝えるための「言語化」力を磨こう! 「言語化」に強くなる習慣と組織のつくり方(2)

WebデザインやUXデザインの領域において、「言語化」は必須スキルになりつつあります。そこでnoteで話題となった記事「『言語化』を言語化する」の著者、Algomaticの野田克樹さんに、デザインにおける「言語化」の役割と、「言語化」の実践的なプロセス、そして「言語化」に強い組織づくりまで、お話を伺いました(前後編の後編)。

目次

伝わる「言語化」には、チューニング作業が欠かせない

先述のとおり、「言語化」は、相手に伝わるまでがセットで、また、言葉の捉え方は人それぞれです。そのため、実際のアウトプットには、自分の言葉・定義でつくった「内在的言語」では足りず、相手に伝わる形にチューニングする「伝達的言語化」の工程が必要になります。

「伝達的言語化」とは、相手の頭の中を推測し、相手に確実に伝わる言葉に変換していくことです。ここで重要になるのが、自分の思考を分析し、反芻する習慣をつけることです。

例えば「UXをデザインする」と口に出したときに、はたしてこの言い方で、自分の意図が寸分違わず相手に伝わるか、立ち止まって考えてみます。すると、「UX」も「デザイン」も、言葉の意味が広すぎて、具体的に意味するところがわからないことに気づきます。そこで、言い換えや補足的定義を試み、言葉を分解し、咀嚼し、解釈の余地のない一義的な表現に落とし込んでいきます。これが「伝達的言語化」の意義です。

この思考の反芻に慣れてくると、自分の思考を客観的・俯瞰的に見ている「視点」あるいは自分の「分身」のようなものが自分の中に生まれてきて、自問自答しながらアウトプットを調整していくことが可能になってきます。

ただ、その境地に至るまでは、実際にアウトプットしてみたものに対し、他者からフィードバックを受けるのがおすすめです。自分の言葉の選び方や論の立て方が、相手にどのように受け取られるのかを知り、多くの視点や感じ方を取り込んでいくことで、自分の「分身」の批評能力を養っていきましょう。

また、「伝達的言語化」の上達には、人の心の機微に通じることも大切です。例えば、同じ人からの相談でも、話を聞いてほしいだけなのか、具体的なアドバイスを求めているのかは、そのときどきで異なりますよね。こうした、デモグラフィック分析やペルソナ設計だけでは得られない、偶発的でリアルな感情の動きを注視できるようになると、言葉のチューニング力がぐっと高まります。

語彙はどう増やす? 表現力を高める言葉へのアプローチ

自分の考えを相手に届けるための「伝達的言語化」には、当然、語彙や言い換えのストックが多いに越したことはありません。ただ、やみくもに単語と意味を一対一で覚えるというよりは、単語の持つ根本的な意味を把握し、応用できるようにするほうが、「内在的言語化」も「伝達的言語化」も、より深く研ぎ澄まされたものになっていきます。

語彙へのアプローチはいろいろあると思いますが、僕がよく行うのは、語源・語義を調べることです。というのも、言葉は使われるうちにたくさんの意味を帯びるようになりますが、語源は比較的、一義的・固定的であることが多く、言葉の本来のニュアンスを知ることができるからです。

例えば「デザイン」という言葉はある種のビッグワードで、人や文脈によりさまざまな意味で使われますが、語源を紐解いてみると、「計画し、設計し、それを図面に落とす」という意味合いが強いことがわかります。そこで、情報設計を「デザイン」と言ってみることができたり、逆に単なる「視覚的演出」との誤解を避けたい場合は、「デザイン」という言葉を使わない判断ができるようになります。単語の理解が深まることで、表現の幅を広げることや、より適切な言葉を選べるようになるわけです。

また、類似のアプローチとして、言葉の本質的な意味を自分なりに抽出して、理解することを習慣的に行っています。例えば、サッカーに「オフサイド」という言葉がありますが、これはルールブック的に言えば、相手の守備ラインを超えて攻撃をしてしまう反則を指します。ただ、ここで理解を止めずに、もう一歩踏み込んで抽象化してみると、「物事に対して突っ込みすぎてしまっている」と捉えることができます。

このように言葉の本質を押さえておくことで、前のめりになりすぎている状況に対して、「オフサイドな状況」と言い換えられますし、特にサッカーを知っている相手には、端的でわかりやすい比喩になりますよね。

日本語はハイコンテクストな文化があり、表現が不十分でも、話の流れで補完して理解してもらえる部分があります。しかし、それに甘んじることなく、使える言葉を増やすこと、そしてそのためには、言葉に興味を持ち、調べる習慣をつけることが大切だと思います。

「言語化」に強い組織をつくるには「安心感」が大事

これまで見てきたように、「言語化」は、アウトプット以上に思考が重要な部分を占めますが、とはいえ、一人の頭の中で考えることには限界があります。そのため「言語化」力を高めるには、他者との対話、そして、それを可能にする組織の力も大切です。

ここから「言語化」力を高める組織づくりについて考えてみましょう。まず、一つの条件として挙げられるのが、さまざまな分野の専門家がいることだと思います。先述のとおり、「言語化」は合意形成と密接に絡むものなので、自分の専門以外の人にも伝わるよう「言語化」を行う必要があります。

その点、異なる専門分野の人に意見を訊くと、自分とは異なる角度から、見落としていたものや新しい気づきを、フィードバックしてもらえることが多々あります。例えば、商品のブランディングを考える場合、商品のことしか見えていなかったときに、マーケティングの専門家から、流通や販促等の視点での助言を受けるといったことですね。

そして、忌憚ないフィードバックが自然発生する土壌として、思考の透明性と言いますか、自己の開示をためらわない風土があることは重要です。僕の所属するAlgomaticでは、上意下達ではなく、コンテクストを共有することで自主性を喚起することを大事にして、経営層自身、取り繕わない思考や目的を披瀝することに積極的な部分があります。そのため、僕らも、論理明晰な「言語」になっていない状態の「やわらかい」思考を、躊躇や抵抗なくアウトプットする文化が根づいていると感じます。

また広報の一環でポッドキャストを運営していますが、これには皆、事前準備なしで挑んでいます。緊張はしますが、ファシリテーターから話を受けて、自分の思考がブーストされる感覚や、とりあえず「出す」ことへの馴れが、「言語化」の良い訓練になっていると感じます。

総括すると、安心して自分の思考を表出できる場をつくることが、「言語化」に強い組織づくりの鍵と言えるでしょう。

教えてくれたのは…

野田 克樹さん
(株)Algomatic
執行役員 横断CXO
https://algomatic.jp/

Text:原明日香
※本記事は、「Web Designing 2024年6月号」の記事を一部抜粋・再編集して掲載しています。

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