
AI開発プラットフォームBase44はなぜ「ビルダー」を主役にしたのか

自然な言葉で指示するだけで、アプリやWebサイト、AIエージェントなどを構築できるAIプラットフォーム「Base44」。2025年にWixの一員となった同社は、2026年にブランドアイデンティティを大きく刷新しました。その出発点にあったのは、単に見た目を新しくすることではなく「Base44とは何者なのか」を改めて定義することでした。リブランディングを手がけたVered Bloch氏に、その背景とデザインに込めた考えを聞きました。

デザイナー・
目次
主役は「ビルダー」
その過程で見つかったBase44のブランドストーリーの中心にあるのが、「builder(ビルダー)」という存在です。ここでいうビルダーとは、いわゆる開発者の言い換えではありません。
「私たちにとって『ビルダー』は肩書きではなく、マインドセットです。何をしている人かではなく、どのように考える人なのかで決まります」
Bloch氏が挙げるのは、好奇心を持って物事を探り、誰かの許可を待つことなく、まずつくり始める人たちです。先の見えない状況も受け入れ、まだ存在していない道を進んでいく。そうした姿勢や衝動がビルダーを特徴づけています。
「彼らはただツールを使って何かをつくっているのではありません。自分自身が『ここまでならできる』と思っていた限界を越えようとしているのです」
だからこそ、チームはブランドそのものにもユーザーと同じ性格を持たせたいと考えました。そこで定義したブランドバリューが、「率直」「人間味」「本物」「エッジの効いた」「親しみやすい」といったものです。
「Base44も、ビルダーたちと同じように感じられる存在にしたかった。好奇心があり、率直で、自信を持ち、常に前に進んでいる。ビルダーであるということは、『できない』というひと言で会話を終わらせないことだと思っています」
リブランディングでもっとも大きく変わったのも、個々のデザイン要素以上に、こうしたブランド全体に対する考え方だったといいます。
「私にとって、それこそがブランディングです。ただ会社の見た目を変えるのではなく、その存在を『本物』だと感じてもらうこと。ビルダーの皆さんがブランドを見たときに、そこに自分自身を見つけてくれたらと思っています」
そして、その考えを象徴する言葉が、「Every builder needs a base. (どんなビルダーにもベースが必要だ)」という、ビルダーたちを主役に据えたメッセージ。Wixのコンテンツ制作に携わるAdi Trudler (アディ・トルドラー)氏と数多くの案を検討する中で生まれたこのメッセージについてBloch氏はこう話します。
「聞いた瞬間に、これならほかの案と違うと感じました。シンプルな言葉遊びですが、何より大切なのはビルダーを物語の中心に置いていることです。単なるマーケティングのキャッチコピーではなく、本当にBase44らしい言葉だと思いました」
物語をビジュアルへ落とし込む
ブランドの軸が定まると、次はそれを視覚的な言語へ変換していきました。しかし、最初に取り組んだのはデザインではなく、ブランドストーリーの整理でした。Base44のクリエイティブディレクターであるShira Nathan (シラ・ネイサン)氏とAdi Trudler氏がストーリーやブランドバリューを構築し、それをもとにBloch氏らがビジュアルを検討しました。
「ストーリーが基盤を与えてくれましたが、デザインを進めることで、逆にブランドの個性がより明確になることもありました」
言葉が完成してからデザインへ移ったわけではなく、ブランドストーリーとビジュアルは互いに影響しながら形になっていきました。新しいブランドの基調色にはオレンジとブルーを採用し、書体にも大胆さやエッジを持ちながら、どこかひねりの感じられるものを選んでいます。
「フォントにも、Base44のビルダーと同じような個性を求めました。率直で自信がありながら、無理に頑張っているようには見えない。そこに少しラフな質感を加えることで、過度に洗練された企業的な印象ではなく、人間味を残したかったんです」
写真でも、静的なイメージではなく「動いているビルダー」を捉えることを意識しました。さらに、ブランドを構成するさまざまなシンボルを用意し、色、書体、写真、グラフィックを組み合わせることで、「一目でBase44だと分かる」一貫した世界観を目指しました。
一方で、ロゴについては意外な結論に辿り着きました。チームは当初、従来の「太陽」のシンボルを別のものへ変えることも真剣に検討していましたが、いくら新しい案を考えても結局は太陽へ戻ってきたといいます。
「その時、このロゴにはすでに必要な認知と意味があると気づきました。置き換える必要はなく、その周りにふさわしいブランドを構築すればよかったんです」
ブランドストーリーとデザインを行き来しながら検討した結果として、シンボルそのものを捨てるのではなく、既存のロゴを新しいビジュアル言語に合うよう洗練させることに行き着いたというBloch氏。リブランディングというと従来の姿を大きく変えることに意識が向きがちですが、Base44ではユーザーと共有されている資産を残すことも重要な判断だったのです。
Base44が「本来の姿」にたどり着く
新しいブランドの公開後、ユーザーからの反応の多くは好意的だったといいます。Bloch氏が特に驚いたのは、社外の人々がわずかなロゴの変化にもすぐ気づき、ソーシャルメディアで共有し始めたことでした。一方、ブランディングを大きく変えたにもかかわらず、その変化が自然に感じられたことも印象に残ったといいます。
「ブランドが、本来あるべき姿にようやくたどり着いたような気がしました」
さらに、英語圏では新たなアイデンティティの公開と「Can’t Is Dead」キャンペーンも連動させました。「できない」で終わらせないというビルダーの姿勢を、ブランドのメッセージだけでなくキャンペーンにもつなげたことで、今回の刷新を単発のデザイン変更ではなく、より大きなストーリーの一部として見せることができたといいます。
「私たちは、Base44らしさを反映し、それだけでも独立して成立するアイデンティティをつくりたいと考えました。Wixの一員として進化しながらも、ビルダーたちや私たち自身の価値観、これまで築いてきた個性に寄り添い続ける。それがブランドを守ることだと思っています」
AIを使ったプロダクトは、機能もユーザーの使い方も短い期間で大きく変化します。Base44が今回選んだのは、未来を先回りして固定的なブランド像をつくる方法ではありませんでした。ユーザーとプロダクトの変化を時間をかけて観察し、そこから見えてきた「ビルダー」という共通項を中心に据える方法です。
「ブランドは製品とともに成長しました。だから、何かを外から押し付けるのではなく、Base44が実際にどんな存在になったのかという現実をもとにブランドをつくることができたのです」
新しい色や書体、ロゴは、その結果として現れたものにすぎません。Base44のリブランディングが示しているのは、変化の速いAI時代だからこそ、まず「誰のためのブランドなのか」を見極めることの重要性なのかもしれません。
文・編集:栗原亮(Arkhē)
