《特別インタビュー》ブログツールから広く使われるCMSへ。シックス・アパート代表・平田大治に聞いた「Movable Type」の軌跡と、次期バージョンの気になるポイント

最新版のデベロッパープレビューがリリースされ、Web制作者の間で話題を呼んでいるCMS「Movable Type」。高機能かつ、高いセキュリティと安定性を誇るMovable Typeは、実は、Webの世界を切り拓いてきた「先駆者」であり、インターネットの歴史に刻まれる「エポックメイキングなプロダクト」であることをご存知でしょうか。

ここでは、Movable Typeの開発を行うシックス・アパート株式会社の代表取締役でCEO&CTOを務める平田大治さんに、Movable Typeの「これまで」と「今」、そして「これから」を伺いました。

目次

「Movable Type」が世界に与えた衝撃

–––––今秋リリース予定の最新バージョン「Movable Type 9」のデベロッパー版がリリースされていますが、早速ユーザーから多くの反響が来ているとうかがいました。

平田大治(以下、同)  ありがとうございます。ニュースの見出しになるような、派手な進化を遂げているわけではないのですが、ユーザーの皆さんの声に応えて使い勝手の改善を図った結果、好評をいただいているといったところかと思います。これを機会に、これまでMovable Typeを利用したことのない方々にも触れてみていただけたら嬉しいですね。

本年秋公開に向けて開発中の次期バージョン「Movable Type 9」。現在はデベロッパープレビューを提供中

–––––寄せられた声の中には「久しぶりにMovable Typeの名前を聞いた」といったものもあったとか。

Movable Typeは、2001年から続く息の長いプロダクトですので、実際「以前は愛用していた」といった声をかけていただく機会も多いですね。

–––––私もMovable Typeが巻き起こした大きな“ムーブメント”をよく覚えていますが、当初、Movable Typeは「ブログツール」でしたよね。

当時のインターネットでは、個人が情報発信できる手段はまだ限られていて、ホームページを自作するか、日記サービスや掲示板を利用する人が多かった印象です。

そうした中で、Movable TypeはユーザーがCGI としてサーバにインストールするタイプのソフトウェアで、簡単に使えるだけでなく、トラックバックなどの機能が評判で大きな話題になりました。

–––––Movable Typeの登場によって、自由な発信をするための場である「ブログ」が一気に浸透し、ブームになりました。

インストール作業こそ少し手間がかかりましたが、誰でも簡単に記事を書いて公開できる点が画期的でした。デザインはCSSベースでカスタマイズしやすく、RSSの自動生成やAPI経由の投稿にも対応。個人向けブログツールとしては非常に多機能で、ほかのツールとの連携性も高く、後のWeb 2.0時代の到来を感じさせる存在でした。

そうした観点から、Movable Typeの登場は、今日の多様なWebを支える技術基盤の発展に大きな影響を与えたといっても言い過ぎではないのではないか、と思っています。

シックス・アパート株式会社 代表取締役CEO & CTOの平田大治さん。2002年にMovable Typeを日本語化、執筆や講演活動などで日本でのブログの普及活動に尽力した。2003年シックス・アパートに参加、事業の立ち上げに貢献し2006年に退社した。2012年にシックス・アパートに復帰し執行役員CTOとして技術とプロダクトを統括、2024年から代表取締役。

ブログ運用だけでなく、Webサイト構築のニーズも高まる

–––––平田さんが最初にMovable Typeに触れたのはいつのことですか?

初めて使ったのは、2002年6月だったと記憶しています。当時私は、伊藤穰一さんが立ち上げた「ネオテニー」という会社で、チーフリサーチマネジャーというポジションに就いていました。伊藤さんが自身の日記ページを更新するにあたって、何かよいツールがないかと探していたんです。そこで出会ったのが、Movable Typeでした。

–––––伊藤穰一さんは実業家・投資家であり、現在の千葉工業大学の学長かつ、MIT(マサチューセッツ工科大)メディアラボの所長を務めたことでも知られる方ですよね。1990年代から現在に至るまで、インターネットの世界を牽引されてきた1人です。

伊藤さんが執筆し、当時のインターネットの世界に大きな影響を与えた論文『Emergent Democracy(創発民主制)』(2003年)では、民主主義の根幹を支える「言論の自由」を実現するためのツールとして、ブログの重要性が説かれています。このことからもわかるように、彼はブログに大きな可能性を感じていて、投資を行うことになったのです。

–––––それをきっかけに、平田さんはMovable Typeに「内側」から関わるようになるというわけですね。

最初は1ユーザーとして、日本語化に協力していただけでした。でも、いつの間にか仕事として本格的に携わるようになり、ブログの啓発活動まで行うようになって……気がついたら、シックス・アパートにジョインしていました。

製品の日本語対応やローカライズだけでなく、国際化や多言語対応にも取り組んでいました。当時としては珍しく、UTF-8にも対応していて、これは今につながる大きな意味があったと思います。

–––––Movable Typeはその後、機能を大幅に強化していきます。

先ほども触れたように、Movable Typeはユニークで高度な機能を備えていたため、ブログの運用だけではなく「Webサイトそのものの構築や運用にも利用したい」というニーズも高まっていったのです。そうした声に応える形で、現在広く使われている「CMS」へと進化していくことになりました。

エンタープライズの世界で選ばれ続けるCMSに

–––––平田さんは2024年に、シックス・アパート株式会社の代表取締役に就任され、CEO・CTOとして同社の経営を担う立場に就かれました。立場的に答えにくいかもしれませんが、冒頭で紹介したユーザーの声にもあったように、いつからか「Movable Type」の名前を耳にする機会はずいぶんと減ったように感じます。その理由はどこにあるとお考えですか?

大きな理由としては、長い歴史の中でMovable Typeが「商用CMS」としての進化の道を選んだことが挙げられるのではないかと思います。その結果として、主要なユーザーが「個人」から「企業」や「大学」「公共機関」へと移っていきました。

みなさんもご存知かと思いますが、そうした企業や公共機関のWebサイトは、セキュリティに対する配慮から「どのCMSを利用しているのか」といった情報をオープンにしたがりません。そうした理由から、「以前と比べてMovable Typeの名前を聞かなくなった」と感じる方がいらっしゃるのも、仕方のないことなのかもしれません。

–––––一方で、商用CMS分野でのMovable Typeは、現在も大きなシェアを持っています。調査によると「商用パッケージ型CMS」分野におけるMovable Typeの国内導入シェアは82.1%に上り、2024年度まで10年連続でシェア1位を記録し続けています(『ソフトウェアビジネス新市場』(富士キメラ総研)より)。平田さんは、Movable Typeが多くの企業・団体から高く評価され、多くのWebサイトで使われている理由はどういった点にあると分析されていますか?

まず、制作者の方にとってのメリットとしては、Movable Type独自の「MTタグ」を利用したサイト構築ができるという点が挙げられると思います。MTタグの使い方を覚えれば、PHPやPerlといったプログラミング言語を習得せずとも、さまざまなWebサイトを安全に構築できます。

一方、管理運用の面から言うと、コンテンツタイプ機能でコンテンツに合わせた編集画面を作成できたり、Data API経由でデータの取得や更新ができたりなど、更新管理を効率的に行うことができる点が評価されているように思います。

また、Movable TypeではアプリケーションとしてのCMSと制作するWebコンテンツを分離しやすいので、セキュアなサイト運営やCMSの隠蔽などのセキュリティ対策が比較的安価で容易に可能です。結果として、Webサイトのソースコードを見てもMovable Typeを使っていることがわからない、「W3techs」などでも上位に出てこない、となるので、先ほどの話にもあったように耳にされる機会も減っているのかもしれません。こうしたセキュリティに関する点も、企業やプロの制作者の方々に評価していただけている理由なのではないでしょうか。

Movable Typeは、商用パッケージ型CMS国内導入シェア(数量ベース)として、2015年度から10年連続で1位を獲得。さらに日経平均株価構成銘柄の64.4%、東証プライム上場企業の45.5%、国立大学の88.2%にも選ばれている信頼の厚いプロダクトだ

–––––制作・運用のしやすさに加え、高いセキュリティ・安定性がMovable Typeの強みということですね。

もう1つ、Movable Typeが比較的リーズナブルな利用料金を設定している点もお伝えしておきたいです。一般的なエンタープライズ系CMSと比べると、大幅にコストを抑えられます。こちらもまた、Movable Typeを選んでいただけている理由として挙げられると思います。

手軽に始められる高機能CMS「MovableType.net」

–––––シックス・アパートは現在、Movable Typeのファミリー製品として、「MovableType.net」も提供されています。こちらは、Movable Typeとは仕様や搭載されている機能が異なるのでしょうか。

はい。MovableType.netはいわゆるWebサービス型(SaaS型)のCMSであり、サインアップするだけですぐにWebサイトの構築を開始でき、サーバ管理もセキュリティ対策も必要ないという点が大きな特徴です。

「SaaS型」と聞くと、機能が限定されたCMSだとイメージする方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。標準テーマをカスタマイズして、簡単に見映えのよいサイトを構築できる一方で、テンプレートをすべて変更できる高度なカスタマイズ性を備えています。

独自の入力項目を追加できるカスタムフィールドも利用できますし、プランによっては、サイト全体の表示確認ができるステージング機能や、シンプルで柔軟なワークフロー機能を利用できますので、コストを抑えつつ運用の効率化や品質の向上が可能なCMSです。

SaaS型の「MovableType.net」は、より手軽な選択して注目を集めている

–––––SaaS型の「MovableType.net」とインストール型の「Movable Type」シリーズは、それぞれどんな用途・規模のサイトに向いていますか?

どちらも大規模サイトでも問題なく運用できる機能と安定性、安全性を備えていますので、費用や特徴を比較して選んでいただければと思います。ただ通常は、「手軽に素早くサイトを立ち上げたい」と考える方にはMovableType.netを、「プラグインを使ったカスタマイズを考えている」という方にはMovable Typeをおすすめしています。

–––––高いアクセス負荷がかかるサイトでも、MovableType.netで問題なく運用できますか?

お客様の名前を出すことは控えますが、MovableType.netでは、みなさんもよくご存知の、非常にアクセス数の多いサイトを運用してきた実績があります。相当なレベルまで心配なくご利用いただけると考えていただいて大丈夫です。

Movable Typeが目指す進化の先

–––––ここまで四半世紀にも及ぶMovable Typeの歴史と現状についてうかがってきましたが、最後にMovable Typeの「これから」についてお聞かせください。

CMSは基本的に“長く使う”ことを想定して導入されるソフトウェアです。Movable Typeにしても、MovableType.netにしても、多くのユーザーの方々に5年、10年と使っていただいています。その中には、私たちに厚い信頼を寄せていただき、5年分の料金を前払いしていただくような方もいらっしゃるんです。

そうしたCMSの特性を考えたときに、私たちがやらないといけないのはユーザーの皆さんにとって少しでも使いやすく、長く使えるものへと改善を続けていくことです。

–––––秋に正式リリースされるMovable Type 9についても、そうした考え方のもと開発を進めているのでしょうか。

今回のバージョンでは、編集機能の強化や管理画面のUIの刷新を予定していますが、目に見えない内部の進化に対してもしっかりと投資をしています。これまでのお客様には、これまでと変わらず安心して使っていただけると思いますし、新しいユーザーの皆様にはMovable Typeの他にない強みを体感していただけると思います。

2025年7月16日には「Movable Type 9」のデベロッパープレビュー第2弾(9.0.2)が公開に。ダッシュボードに任意の内容を表示できる「ダッシュボードウィジェット」機能や、画像挿入ウィンドウのUIの改善などが追加されている

取材・文:小泉森弥 写真:山田秀隆
※本記事はシックス・アパート株式会社とのタイアップです。

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