リブランディングのその先へ──コクヨとmountが描く「生きたサイト」の運用戦略

2025年10月に創業120周年を迎えたコクヨ株式会社は、現在、新たなパーパスに基づくリブランディングに取り組んでいます。その成果のひとつとして、このほどコーポレートサイトが未来のコクヨのあり方を体現する形へとリニューアルされました。mount Inc.が作成した方針提案資料から、その道のりを読み解きます。(前後編の後編)

目次

大きな視点で捉えなおし 「ひとつのコクヨ」の本質へ

Webサイトの制作が本格化し始めていた2024年秋、mountはコクヨからもうひとつの制作依頼を請けました。「第4次中期経営計画」の発表資料です。これは「CCC2030」で提示した「森林経営モデル」を元に、コクヨという土壌に蓄積された各事業のナレッジを束ね、成長の原動力とする計画がより具体化された内容でした。

「リニューアル作業が山場を迎える頃だったので作業量的に正直苦しい部分はありましたが、結果的には“大きな視点”でコクヨさんを捉え直すよい機会になりました。現場レベルの課題感や思いをたくさんヒアリングしてきたことで、それを1つのサイトにまとめるために俯瞰した視点も大切だと思っていたところだったのです」(mount 米道さん)

ここまでの過程でコクヨに対する理解を深めてきたことで、経営計画資料はより充実した内容になりました。同時に、経営計画資料のために重ねた経営陣との対話がサイトリニューアルの視座を高めることに役立ったのです。

「森林経営モデルの図に加えられた『ナレッジ』の地層は、非常に納得感がありました。地表に見えるのは商品やソリューションの木々ですが、社員はその下にある自分たちの経験やナレッジに誇りを持っています。これを無視しては事業の森は育たないのです」(コクヨ 佐藤さん)

コクヨ株式会社のヒューマン&カルチャー本部コーポレートコミュニケーション室メディア・コミュニケーションユニットの佐藤佳織さん。コンテンツ開発に関するまとめ役を担う
「長期ビジョン CCC2030」で提示された「森林経営モデル」がアップデート。社内の文化や事業の未来を含めた表現に

「積み重ねてきた経験やナレッジを、コクヨとしてのアウトプットにどう活かしていくか。それが社員の方々が日々向き合っている仕事であり、コクヨが“ひとつになる”ことの一番の核なのではないか。それを言葉にできた瞬間でした」(mount 米道さん)

従来の顧客を大事にしながら 新しいブランドへシフトする

個別に運用されていた事業サイトをひとつにつくり変えるため、米道さんは「常に大局を見る視点」を大事にしていたと言います。

「個別に見えてもどこかで結びついている部分はあるはずです。それをどう表現していくか、そのための言葉と編集を追求しました」(mount 米道さん)

それを象徴する成果となったのが、リッチなビジュアルで構成されたハンバーガーメニューです。

ひとつのコーポレートサイトへの集約を象徴するハンバーガーメニュー。コクヨの全体像を俯瞰できると同時に、「森林経営」を構成する各事業領域への入り口に

「ファニチャー事業を家具と空間にわけ、文具、通販と共にロゴの下に並べることでコクヨの全体像が一目でわかり、さらに各事業領域の詳細を開いていける仕組みです。事業、商品、サービスが森のように広がり、メニューが森のスタート地点になっています。これが実現できたこと自体がコクヨさんとの積み重ねの成果であり、もっとも誇らしく思っているところです」(mount 米道さん)


リブランディングには常に、いまいるお客様を大切にしながら新しいブランドのあり方へシフトする難しさがあります。また、コクヨの各事業は扱う商品が異なり、お客様が異なり、必然的に提供するべき情報も異なります。さらに、技術的にもこれまでに蓄積されてきた大量の情報を統合する必要があります。しかし、それでも「ひとつのコクヨ」を目指さなくてはなりません。

「大きなリニューアル案件でよくあるのは『共通のテンプレートをつくってください』という要望です。しかし、それでは新しい枠にコンテンツを押し込む仕事になってしまい、リブランディングの仕事にはなりません」(mount 吉田さん)

「絡み合った状態を解く糸口を探すには、やはり聞くしかないのです。横串を通して新しいブランドを表現する。同時にWebサイトとしてビジネスに貢献できるものにする。その両方の実現を常に意識していました」(mount 米道さん)

理想を実現する困難さは想像に難くありません。「それを2年かけて一緒に戦ってくれた」と、コクヨの浅賀さんはmountの実行力を評価します。そのもっとも大きな課題が、各事業が独自に立ち上げた結果、乱立していたオウンドメディアの一本化でした。

「オウンドメディアはコクヨさんの取り組みそのものを伝える媒体です。俯瞰すれば『ワーク&ライフスタイルカンパニー』の全体像が見えるし、各事業のシナジーも生まれると考え、提案しました」(mount 米道さん)

このような各組織が関わる決定事項はコクヨ社内で調整することもありましたが、一方でmountも参加してともに目指すべき方向を話し合う場もさまざまなケースで持たれました。

「コクヨ側が何度か諦めそうになりながらも、mountさんが最後まで引っ張ってくれたおかげです。オウンドメディアを一本化した『マガジン』がどんな役割を担い、どんなコンテンツを運用していくべきか、建設的な議論ができるようになりました」(コクヨ 安達さん)

「コクヨはトップダウンで決定する文化ではなく、経営陣もそのようなやり方を求めていません。だからこそ現在の形が続いてきたのです。変えるならお互いに腹落ちするまで話し合うことが必要でした」(コクヨ 浅賀さん)

mountは話し合う中で課題を明らかにし、解決策として「その方がいい」「採用した方が得だ」と納得させる、技術的、クリエイティブ的な裏付けを示しました。そして、やるからには必ずよいものにすると約束し、CC室以外の社員とも信頼関係を深めていったのです。

「現場の声はアウトプットにも確実に生かされています。それはサイト内の写真1枚にも及んでいて、写っている人物は全員が社員です。ヒアリングや撮影に参加した社員が、今後は内部から事業とWebサイトとの関係を変えていってくれるはずです」(コクヨ 佐藤さん)

新しいコクヨのコーポレートサイトは、10月2日に公開されました。しかし、プロジェクトはこれで完了ではありません。

未来を起点に始まった 完成のない「生きたサイト」

このプロジェクトをきっかけにコクヨ社内では各事業のWebマスターが連携して動くようになり、特にマガジンはCC室を軸に各部門のメンバーを束ねる編集部体制ができました。

「mountさんが構築した世界観を壊さず、継続的に運用を続けるために、社内の体制を整えているところです。運用を滞らせず、生きたサイトにしていくことが重要だと考えています」(コクヨ 安達さん)

浅賀さんは「目指す世界観とCMSがあれば、私たち自身の手でつくっていける」と今後の取り組みを展望しています。

「未来の話が起点にあるプロジェクトだからこそ、今後もアップデートが続いていくことが前提です。サイト運用はデザインが崩れないことが重視されがちですが、それよりもコクヨさんが伝えたいことを伝えられるコンテンツを大事にしていただきたいと考えています」(mount 吉田さん)

コクヨの新しいコーポレートサイトは、同社が事業戦略として描く成長の方向性を目に見える形にしました。今後の事業成長に歩調をあわせた継続的なアップデートへ向け、コクヨとmountの信頼関係が結ぶ二人三脚は続きます。

「コクヨを知る」は、“ひとつのコクヨ”を体現するうえで必要なコンテンツとしてmountが提案したもの。コクヨの歴史と事業を総合的に紹介する内容
複数の部門がそれぞれに運用していたオウンドメディアを1カ所に集約し、コクヨの取り組みが総合的にわかるマガジンに再編成。“ひとつのコクヨ”を俯瞰できる媒体として、運用体制も再編中

<前編はこちら

サイトクレジット

▶ クライアント:コクヨ株式会社   ▶ 制作:mount Inc.

クライアント:黒田英邦、下地寛也、浅賀直樹、安達沙樹、佐藤佳織、中島伊紅、清水千穂、安部井美香、加藤リサ、石橋有希子、織田真理、奥山由希子、加藤里奈、川人慎右、戸田康鉄、服部慎吾、永井 潤、亀井典子、小川 剛、大橋真人、若林淳一、志村 武、川嶋彩夏、幸森 史、大嶋菜生、内田有香、上山哲史、嶋﨑紘平、間宮賢治、小林 悠、坂田由花、小貫寛武、吉城基裕、松尾聡子、安永哲郎、佐々木拓、金井あき、萩原航大、木田千穂、望月美恵子、小沢菜穂、藤野 晶ほか

Executive Creative Direction: イム ジョンホ(mount)
Creative Direction, Art Direction, Planning, Design:米道昌弘(mount)
Technical Direction, Development:梅津岳城(mount)
Design:井出裕太(mount)
Edit, Information Architect:堀江由利子(mount)
Design:タイ トウオン(mount)
Design:劉 逸葳(mount)
Development:寺田奈々(mount)
Development:須多 望(mount)
Produce:吉田 耕(mount)
Project Management, Information Architect:楠本莉沙(mount)
Project Management:津留正和(ingraft)
special thanks:岡部健二、山下亜香里、ハン ユジュン

Project Management /Planning:ハン・ジュホ(DFY)、ソク・ミス(DFY)
Design :イ・ウンビ(DFY)、キム・ヒョンモ(DFY)、ユン・アミ(DFY)、キム・ソヨン(DFY)
Development : キム・チョルジュン(DFY)、オ・ハヌル(DFY)、イ・ジンジェ(DFY)、ペク・ミンギョン(DFY)、キム・ジェリム(DFY)、小林信次(まぼろし)、大出直街(ファクトリアル)

Accessibility Supervision: 堀江哲郎(Torque inc.)、阪口卓也(Torque inc.)、小島準矢(Torque inc.)、上瀧
悠平(Torque inc.)、本田一幸(Torque inc.)

Copy Writing : 小藥 元
Illustration (history):小林千秋
Photography Produce:有馬知良(JXL)、市川悠(JXL)
Photography:福岡秀敏、中村実琴、堀陽真
Photography(interview):小山 奈那子
Photography (products):タカハシトミユキ assistant :瀧川やよい、佐藤萌、鎌田采花、高橋識如
Hair makeup :加古高規、島チカ、迫田美沙希、笹原彩珠夏
Interior Styling:酒井翼、牧野梨沙

MAGAZINE
Direction / Planning:伊藤総研
Edit, Planning:山﨑若菜 (itskn)、森木友香(itskn)
Produce, Project Management: 山田理沙(itskn)、天本季恵(itskn)
Writing:船橋麻貴、大芦実穗
Photography:井上昌明、浦将志、嶋崎征弘、柿崎豪
Interior Styling :竹内優介

SPETIAL SITE
CG animation : MORIE Inc.
Copy Writing : 小藥 元
Copy Writing :小山佳奈(株式会社 上田家)
Translation:シルバ・リリア(LATINA FORTIS)
llustration :髙橋あゆみ
Music :有村崚

資料ダウンロード



mount Inc.が作成したコクヨ株式会社コーポレートサイトリニューアルのための方針提案資料をダウンロードできます。https://mount.jp/kokuyo-links/

取材・文:小泉森弥、写真:山田秀隆
※本記事は「Web Designing2025年12月号」の内容を一部再編集して公開しています。

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