《特別対談》Figma AIで変わる開発の現場──Sho Kuwamotoとゆめみが語る、コラボレーションの現在地

11月5日に生成AIプラットフォーム「Weavy」を買収するなど、AI(人工知能)分野への投資を一段と加速させているFigma。急速に進化する機能をユーザーに届けることで、Figmaはどんな“デザインの未来”を描こうとしているのでしょうか。
本記事では、FigmaのVP of Productを務めるSho Kuwamoto さん、Figma Japanのカントリーマネージャー・川延浩彰さん、そして現場でFigmaを活用するゆめみによる対談をお届けします。
デジタルサービスの企画・開発を手がけるゆめみでは、デザイナーやエンジニアがどのようにFigmaを使い、制作現場にどんな変化をもたらしているのか。さらに、Figmaに長年在籍するShoさんだからこそ見えている、ソフトウェア開発の現場の変化とは何か。それぞれの視点から、デザインとものづくりの“これから”を語り合いました。
デザイナーは「上手く使いこなせる人」から「組織に貢献できる人」へ
––––––Figmaは今年で13年目を迎え、プロダクトも組織もさらに大きく成長しています。Shoさんは、今のFigmaがどのようなフェーズにあると感じていますか?
Sho Kuwamoto(以下、Sho) 私が入社した当時、Figmaはまだ製品リリースの準備すら整っていない状態でした。それでも、「ブラウザで使えるデザインツール」というコンセプトには強いワクワク感があったんです。
その後、少しずつユーザーに使ってもらえるようになり、開発の進め方も大きく変わりました。以前は、デザイナーがひとりで黙々と作業し、完成したらエンジニアに渡す––––そんなフローが一般的でしたよね。でもFigmaが生まれたことで、デザイナーとエンジニアが途中のアイデアを共有しながら、一緒にプロダクトを形にしていくというプロセスが珍しくなくなりました。それに、開発過程に関わる人数もどんどん増えていると思います。

Figmaはこれまで、いくつもの段階を経て成長してきました。最初のビジョンは「すべての人がデザインにアクセスできるようにする」。そこからさらに、「どうすればアイデアと現実のギャップを埋められるのか」「もし埋められるとしたら、どんなアプローチが必要なのか」を突き詰めながら進んできたんです。
今のフェーズをひと言で言うと、「より多くのステークホルダーがアイデアづくりに参加できる環境をどうつくるか」。デザインに関わる人の幅を広げ、アイデアが形になるまでのプロセスをもっと開いていく段階に入ったと感じています。
そして最近ではAIの台頭によって、これまで以上に多くの人がクリエイティブな発想をしやすくなりました。これは本当にエキサイティングで、今後の可能性にとてもワクワクしています。
––––––AIがアイデア出しやデザイン設計の段階から関われるようになったことで、Webデザイナーの役割も変化していくと感じています。今後どのように変わっていくとお考えですか?
Sho コードを書くこと自体は、以前と比べて本当に簡単になりましたよね。もし10社が同じアイデアを持っていて、その10社すべてが同じスピード感でコードを書けるとしたら、差別化できるポイントは「デザイン」になります。これが、デザインの重要性がさらに高まっている理由のひとつだと思います。
また、デザイナーの役割そのものも変わりつつあります。これまで「よいデザイナー」と言われる人は、ソフトウェアを上手く扱える人でした。でも、そのソフトウェア自体がどんどん進化し、操作のハードルが下がっている。
だからこそデザイナーには、知識や経験など“持っているすべて”を活かして、より創造的なアイデアを検討していく姿勢が求められていると思います。企業や組織にとって最良の結果をもたらすこと––––それがこれからのデザイナーの本質的な仕事になっていくはずです。

「デザインから実装まで」が一段とスムーズになったFigma
川延浩彰(以下、川延) Figmaというツールに対して、ゆめみさんはどんな印象を持っていますか?
竹田学(以下、竹田) 数年前に初めて触ったときは、「自分のデザインが形になるまでのスピードが圧倒的に速くなるツールだ」と感じました。今年のアップデートでは、これまで関わってきた一連のデザインプロセスをFigma上で完結できるようになってきた点にも魅力を感じています。

天辰一希(以下、天辰) 今年はFigmaのMCP(Model Context Protocol)サーバー(※1)が公式リリースされたことも大きいですよね。デザインと実装の連携が格段にやりやすくなりました。今のマークアップ作業においては、最適解に近いツールになっていると感じています。
工藤元気(以下、工藤) 個人的には、これまでFigmaユーザーがDev Modeを十分に使いこなせていない、という課題感があったんです。でも今年のアップデートでその状況が大きく変わりましたよね。Dev Modeへアクセスしやすくなり、環境としてようやく整ってきたと感じています。
さらにその先には、AIを活用できる未来も見えてきました。Dev Modeを使うこと自体が目的ではなく、デザインチーム/エンジニアリングチームがツールをしっかり使いこなし、成果に結びつけていく。そうした姿勢を持つチームが、日本でも着実に増えている印象です。
Sho 私も同じ考えです。最終的なゴールは、特定の機能を上手く扱うことではありません。大切なのは、デザイナーとエンジニアがどれだけ協力し合えるか。Figmaの新機能も、まさにそのコラボレーションを後押しするためのものなんです。
(※1)Figma Design、FigJamおよびMakeファイルからコードを生成するAI エージェントに重要なコンテキストを提供することで、開発者がデザインを迅速かつ正確に実装できるよう支援するもの。
MCPサーバーとFigma Makeが可能にした、新たなコミュニケーション
川延 ゆめみさんは、Figmaが公式のMCPサーバーを提供する以前から、オープンソース版のMCPサーバーを研究していましたよね。現在は公式版へ切り替えて利用されているとのことですが、両者にはどんな違いを感じていますか?

天辰 まず大きいのはオープンソース版と異なり、Code Connectと連携できる点です。Figmaのさまざまなデータの取得を正式にサポートしているのも強みですね。
オープンソース版のMCPサーバーは、API経由でデザインデータだけを取得する用途ではメリットがありました。しかし、既存のデザインシステムとコードを結びつけて活用するような場面では、公式版のほうが優位性が高いと感じています。
工藤 先日のFigmaイベントでも発表がありましたが、公式MCPサーバーを使用してFigma Makeからリソースを直接取得できるようになったことで、プロトタイピングから開発までの流れが一気に効率化されたと感じています。
これまでは、まだ漠然としているクライアントの要望をどう形にするかが最初のハードルでした。でも今は、まずFigma Makeで“動くプロトタイプ”を提示し、それをそのまま開発へ引き継げる。こうした「動くものを起点にしたコミュニケーション」が可能になったのは非常に大きなメリットだと思います。
天辰 まだ研究段階ではありますが、要件がある程度固まっている案件であれば、その内容をFigma Makeに落とし込むだけで、かなりの精度でプロトタイプを生成できるようになるはずだと考えています。
一方で、最近増えている「AIを使って何かを作りたい」といった、要望がまだ抽象的なケースにも強いですよね。こちら側から「こういうものが実現できますよ」とMakeで可視化し、具体的なイメージを共有できる点は大きな魅力です。
Figma Makeで“動くプロトタイプ”を提示できれば、クライアントがイメージを掴みやすく、認識合わせも初期段階で進めやすくなる。だからこそ、提案フェーズからすでに活躍するツールだと実感しています。

川延 お客さまのイメージがまだぼんやりしている段階でも、Figma Makeでビジュアル化することで解像度を高められているわけですね。
Sho ディスカッション中にも、誰かが話を聞きながらその場でプロトタイプを作れば、会議が終わる頃には“形のあるなにか”を見せられる。これは大きいですよね。
工藤 ゆめみでも、エンジニアが会議に同席してその場でコードを書き、議論の成果物を即アウトプットしようと試みたことが何度もありました。でも、どうしてもハードルが高かった。Figma Makeなら、それが可能になるんです。つまり広い意味で、プロダクトマネージャーや営業など、誰もがデザイナーの役割を部分的に担えるようになる。その点がとても革命的だと感じています。
Sho もちろん、全員が“デザイナーそのもの”になれるわけではありません。でも私は、誰もがデザイナーの“ようなこと”ができるようになる、と捉えています。
Figma Makeを使えば、さまざまな職種の人が自身のアイデアをビジュアルにしやすくなる。そして、そのアイデアを洗練させていくのがデザイナーの役割になっていくのだと思います。

Figmaが取り組むのは「ハードルを下げながら限界を上げる」こと
竹田 お話を伺っていて、デザイナーが今行っている作業をしっかり下支えしてくれるのがFigma Designで、デザイナー自身のケイパビリティを拡張してくれるのがFigma Makeなのだと感じました。
Sho おっしゃるとおりです。Figma Designは、プロや専門的な知識を持った人に向けたツール。一方でFigma Makeは、知識があまりなくても使えるように設計されています。ただ、Figma Designのように“パワフルでインパクトがあるツール”と、Figma Makeのように“シンプルなツール”を両立させるのは非常に難しいんです。
今私たちが取り組んでいるのは、AIを活用してそのハードルを下げつつ、できることの限界を押し上げていくこと。そのバランスをどう実現するかが、まさに現在のチャレンジだと考えています。

川延 これまでデザインに触れてこなかった人でも、Figma Makeを使えば簡単なプロトタイプなら作れるようになります。これがまさに「ハードルを下げる」ということですよね。
一方で、AIの登場によって“デザイナーがいらなくなるのでは”と心配する声もありますが、私たちはそうは考えていません。簡単な作業はAIに任せることで、優秀なデザイナーはよりクリエイティブな部分に時間を使えるようになる。つまりAIは、デザイナーという職能の可能性を広げてくれる存在だと考えています。
––––––最後に、Figmaがテクノロジー企業としてどのような社会課題を解決したいと考えているのか、使命や思いをお聞かせください。
Sho Figmaを提供し始めた当初は、テクノロジーに関心の高い人たちが主なユーザーでした。しかし今では、ハイスペックなPCや高額なソフトを買わなくても、インターネットにつながる環境さえあればデザインができます。無償提供を始めた教育現場をはじめ、さまざまな場所でFigmaを使っていただけるようになってきましたが、今後はさらに多くの人たちに、デジタルやデザインに触れられる機会を届けていきたいと思っています。
もうひとつ考えているのは、将来的にはFigma以外にも多くのデザインソフトウェアが市場に登場するだろうということです。これまでよい製品をつくれるのは、大きな企業に限られていました。でも今後は、ソフトウェア開発のハードルも下がり、デザインへのアクセスも広がっていく。そうなれば、よい製品はもっと増えていくはずです。
とはいえ、その一方で、まだデジタルやデザインにアクセスしづらい企業や組織がたくさんあります。私たちは、そういった方々に向けても、デザインへ触れるためのタッチポイントを提供していきたい。そこにFigmaとしての使命があると感じています。

※株式会社ゆめみは、2025年12月1日よりアクセンチュア株式会社と合併しました。
インタビュー:編集部、文:中村直香、写真:山田秀隆



