
500人のデザイナーはどう協働する? LINEヤフーのFigma導入とデザイン組織の変化

昨今、デザインの現場で活用が広がっているコラボレーションデザインプラットフォーム「Figma」。本コーナーでは、Figmaを導入している企業や組織に、導入前に抱えていた課題や活用の実態、そして導入後にもたらされた変化など、「Figma活用のリアル」をお届けします。
今回は、国内最大規模となる500名以上のデザイナーが在籍するLINEヤフー株式会社にインタビュー。旧LINE・旧ヤフーそれぞれで進んできたFigma導入の経緯や、全社統一に至るまでのプロセス、そして導入によってデザイン組織の働き方や文化がどのように変化したのかを伺いました。
話を聞いたのは、ローカル・UGC SBUでプロダクトデザインを担う杉山雄太さんと、全社横断のデザイン戦略を担当する小林謙太郎さんです。
目次
多様な専門性を束ねる、LINEヤフーのデザイン体制

──まずは、お二人の担当業務について教えてください。
杉山雄太(以下、杉山) ローカル・UGC SBU 新UGCユニットでデザイナーを務めています。新卒で旧ヤフーに入社し、「Yahoo!検索」のUI/UXデザインを担当。その後、新規サービスの立ち上げなどを経て、現在は「Yahoo!知恵袋」などUGC系サービスのプロダクトデザインに携わっています。
私たちのチームでは、デザイナーが仕様通りに画面をつくるだけでなく、企画段階からリリースまで一貫して関わるのが特徴です。UXリサーチやマーケティング、体験設計まで担いながら、事業貢献を見据えたデザインを行っています。兼務するUX品質推進チームでは、全社プロダクトの品質向上にも取り組んでいます。

小林謙太郎(以下、小林) 横断デザイン組織であるDesign Executive Centerにてデザインプログラムマネージャーを務めています。旧LINEに初の「クリエイティブエバンジェリスト」として入社し、デザイン組織のカルチャーづくりや採用ブランディング、PRを担当してきました。
現在はそれらの業務に加え、LINEヤフーのさまざまなプロダクトのデザイン競争力向上やデザイナー及びデザイン業務の生産性を高める仕組みづくりを中心に、UXリサーチやUXライティングなど専門領域のマネジメントを含め、デザイン組織全体の戦略設計に携わっています。
──LINEヤフーのデザイン組織はどのような規模感・体制なのでしょうか?
小林 現在、全社で「デザイン職」に就くメンバーは500名以上おり、国内の事業会社としては最大規模の組織です。体制は大きく2つに分かれており、全社横断で品質向上や仕組みづくりを担う「セントラル組織(Design Executive Center)」と、各事業ドメインに紐づきサービス成長にコミットする「事業部のデザイン組織」で構成されています。
──事業規模を考えると、ひと口に「デザイナー」と言っても、非常に多様なのではないでしょうか?
小林 おっしゃるとおりで、UI/UXデザイナーだけでなく、ブランド体験をデザインするメンバーや、動画やモーショングラフィックス、空間デザインを担うメンバー、さらにUXライターやUXリサーチャーなど、多様な専門性を持つメンバーが所属しています。こうした巨大組織がスピード感を保ちつつ一貫したクオリティを実現するために、ツールの共通化やデザインオペレーションの整備が不可欠でした。

ボトムアップから全社統一へ。Figma導入の軌跡
──その中でFigmaは重要なインフラになっていると思いますが、旧LINE・旧ヤフーにおいて、Figmaはどのような経緯で導入されていったのでしょうか?
小林 旧LINEでは、日本法人であるFigma Japanが設立される前の2018年頃から少しずつ使い始めました。当時はプロダクトデザインにおいて別の旧システムを使うのが主流でしたが、いきなり全社で切り替えるのは、それまで積み上げてきたデザインファイルという資産があるためハードルが高かったんです。そこで、まずは個別のチームやプロジェクトでテスト的に導入し、「これは使えそうだ」という知見を徐々に溜めていきました。
──その後、どのように全社的に使われるようになったのでしょう?
小林 世界的にもFigmaがプロダクトデザインのデファクトスタンダードになりつつあったタイミングと重なり、2019年から2020年にかけて全社へとスケールしていきました。
特にLINE側で一気に浸透した背景には、コロナ禍の影響も大きかったですね。もともとLINEは国内外の複数の拠点にエンジニアやデザイナーがいて、多拠点での開発を行っていました。物理的に離れたメンバー同士がシームレスにコラボレーションするためには、クラウド上で同時編集できるFigmaが必須だったのですが、そこにコロナ禍でのフルリモートワークが重なり、より一層ニーズが高まったという背景があります。
杉山 旧ヤフーでも同じく、私が新卒で入社した2017年当時はほぼ全員が当時の旧システムを使っていました。当時のヤフーは部署ごとにどのツールを使うか裁量が与えられていたので、なかには早い段階でFigmaの便利さに気づき、自主的に使い始めている部署もありました。
そうした現場の口コミのような形で「Figmaが便利らしいぞ」という噂が広まっていったんです。最終的には、マネジメント層が「部署ごとにバラバラだった予算を1つにまとめ、全社でFigmaに統一しよう」と決定したことで、その後、段階的に全社移行が進みました。
結果として、職種を問わずFigmaを前提としたコラボレーションが広がり、デザインデータを起点に議論する文化が加速していきました。
一方で、合併前は両社で活用状況が異なっていました。旧ヤフーは主にデザイナーが中心でしたが、旧LINEではエンジニアや企画職まで幅広く浸透しているなど、職種間の広がりにも差があったんです。
合併後は、これら両社の実態やDev Modeの導入を機に、アカウント設計を抜本的に見直しました。全社方針に基づき、現在の組織規模に見合った運用体制へ移行したことで、現在は滞りなく運用されています。

──旧システムからの移行となると、現場での学習コストや抵抗感はなかったのでしょうか?
杉山 もちろん、長年使ってきた旧システムから移行する際には「なぜわざわざ変えるのか?」という声も一部の部署にはありましたし、移行する期間には、昔のファイルを開くとレイアウトがバグってしまうといった苦労もありました。
ただ、デザイナーという職種は昔からツールの変遷に追いついていかなければならない宿命めいたものがあるので、「あ、また新しいものに変わるんだな」と比較的すんなり受け入れたメンバーが多かったと思います。
何より、Figma自体の学習コストが非常に低かったのがポイントでしたね。これまで複数のツールを使い分けて行っていた作業がFigmaひとつで完結するようになり、特に「動くプロトタイプ」が簡単に作れる機能などは画期的でした。そのため、あのときのストレスはどこへ行ったんだろうと思うくらい、気づけば全員がFigmaで仕事をするのが当たり前の世界になっていましたね。
小林 さらに、2023年10月にLINEとヤフーが合併した際にも、両社で別々だったFigmaのアカウントやデータを統合する必要がありました。大規模で困難なシステム移行でしたが、Figmaさんの多大なるご尽力とサポートのおかげで、スムーズに移行と業務統合を実現することができました。巨大な組織同士の合併において、共通言語としてのFigmaが果たした役割は計り知れません。
デザインを“資産”に変える。共通化と再利用がもたらす未来
──Figmaが全社に浸透したことで、デザイン組織の働き方や文化に最も大きなインパクトを与えた変化は何だったのでしょうか?
小林 プロセスの透明化とコラボレーションの進化、そしてガバナンスの強化です。LINE時代、かつては「ひとつのサービスを、ひとりのデザイナーが丸ごと担当する」という職人気質の強い文化がありました。しかしFigmaの導入によって、複数人が同時に同じファイルに入って作業できるようになり、「ひとつのサービスをチームでつくる」という体制・文化へと変化しました。
また、デザインシステムがFigma上で一元管理されるようになったことで、ブランドの一貫性が飛躍的に高まり、デザインシステムの管理にとどまらず、デザイン組織全体のガバナンス強化にまで有用に機能しています。
以前はサービスごとにブランドカラーの運用に少しずつ違いがあり、例えばグレー系の色も各プロジェクトで最適化されていく中で、結果として多様なバリエーションが存在していました。そういったブラックボックス化していた部分がFigmaによって可視化され、システムとして機能するようになったのは大きなインパクトです。

杉山 現場のデザイナーとしても、途中経過の透明性や共有性が担保され、職種を問わずにみんなが見えている状態になったことは劇的な変化でした。昔は、ある程度デザインが完成するまでデザイナーのパソコンの中だけで作業が進み、完成した画面をPDFやPowerPointに貼り付けて、PMや企画職に「こういうデザインにしました」と手間をかけて提案するケースがありました。
今では、途中経過も含めてFigma上でオープンになっているため、デザイナー以外の職種でもリアルタイムにアクセスできます。デザイナーにとっては、作っている途中の未完成な状態を見られるのは最初は恥ずかしさや抵抗感があったと思いますが、結果として「コミュニケーションの質」が根本から変わりました。
──プロセスが透明化されたことで、具体的にコミュニケーションはどのように変わったのですか?
杉山 まず、レビューの在り方が大きく変わりました。これまでは完成した見た目に対するフィードバックが中心でしたが、Figmaではプロセス全体が共有できるため、より上流工程の人たちから「このデザインは事業の目的に沿っているか?」「KPIを意識できているか?」といった、本質的な議論ができるようになりました。
また、エンジニアへの「申し送り(仕様の共有)」も劇的に楽になりましたね。以前はピクセル単位での仕様書作成や動きを説明する資料作りに多大なコストがかかっていましたが、今では「Dev Mode」を活用したり動くプロトタイプを見せたりするだけで、エンジニアから「了解です」と即答が来るようになりました。
提案用の資料づくりという非本質的な作業が減り、デザイナーがクリエイティブな表現と事業の双方の視点を持って本質的な業務に取り組めるようになったことは、働き方という面でも大きなプラスです。

小林 そうですね。例えばビジュアルを作っている横でUIを組み、さらにUXライターがテキストを流し込むといった並行作業がシームレスに行えるようになりました。職種ごとの観点(エンジニアなら実装コスト、ビジネスならKPI、デザイナーならUX)を持ち寄り、同じキャンバスを見ながら対話して進められるようになったことが、最大の価値だと感じています。
プロフィール

小林 謙太郎
LINEヤフー株式会社 Design Executive Center
リード / エバンジェリスト
旧LINEでは初代クリエイティブエバンジェリストとして入社し、デザイン組織のカルチャーづくりや採用ブランディング、PRなどを担当。2023年のLINEとヤフーの合併後は、全社横断のセントラル組織でデザインプログラムマネージャーを務め、デザイン競争力の向上や生産性を高める仕組みづくり、UXリサーチやUXライティングなど専門領域のマネジメントを含む、デザイン組織全体の戦略設計に携わっている。

杉山 雄太
LINEヤフー株式会社 ローカル・UGC SBU
新UGCユニット サービス企画1ディビジョン
新卒で旧ヤフーに入社し、「Yahoo!検索」のUI/UXデザインを担当。その後、新規サービスの立ち上げなどを経て、現在は「Yahoo!知恵袋」をはじめとするUGC系サービスのプロダクトデザインに携わる。UXリサーチやマーケティング、体験設計など事業貢献を見据えたデザイン業務を担うほか、UX品質推進チームにも所属し、全社プロダクトの品質向上にも取り組んでいる。
取材・文/長谷川智祥、写真/山田秀隆
※記事内の組織名・所属・役職は、取材時点(2026年2月)の情報です。
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