
AI時代、公式サイトの価値はどう変わる? KDDIとStudioが語る、一次情報とWeb運用
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ノーコードでWebサイトを制作・運用できるプラットフォーム「Studio」を開発・提供するStudio株式会社でCOO(最高執行責任者)を務める吉岡泰之さんが、国内の先進的な企業を訪ねていく本連載。インタビューを通じて、Web運用やWeb戦略における現場の課題や最新動向を探ります。
企業が向き合うデジタル領域の課題は、ますます多岐にわたっています。AI活用やCMSの選定をはじめ、制作の内製化、運用体制の見直し、継続的な価値創出、企業にはさまざまな判断が求められます。
第3回は、通信事業を基盤に、幅広いデジタルサービスを展開するKDDI株式会社に話をうかがいました。AI活用が進むなか、企業が自ら発信する知見や情報は、どのように価値ある一次情報として提供するべきでしょうか。また、正確な情報提供と顧客体験をどう両立していけばよいのでしょうか。KDDIでは、さまざまな部署でStudioを活用しており、部門ごとに異なる目的や課題に直面しながらWebサイト運営と向き合っています。
そこで、KDDIのブランド・コミュニケーション本部UXデザイン部でグループリーダーを務める難波貴則さん、菅村遼一さんとの対話を通じて、AI共創時代におけるWebサイト運営のあり方を探ります。
目次
大規模サイト運営を巡る状況と課題
──はじめに、KDDIグループのWeb戦略を担う難波さん、菅村さんそれぞれのご担当業務からお聞かせください。
難波貴則(以下、難波) 私はブランド・コミュニケーション本部のUXデザイン部に所属しています。主にKDDIグループのコーポレートサイト「kddi.com」や、社内外に向けた情報発信メディアである「KDDIニュースルーム」の運営統括を担っています。
菅村遼一(以下、菅村) 同じくUXデザイン部にて、通信サービスブランドである「au」や「UQ」の公式Webサイトにおける運用統括を担っています。
──それぞれのWebサイトの規模について教えてください。
難波 コーポレートサイトは、月間数百万PVのアクセスがあります。ページ数は約6,000ページにおよび、カバーしなければならないステークホルダーが非常に幅広いのが特徴です。株主様や投資家様向けのIR情報はもちろん、求職者の方々、さらにはグループ会社や社員に向けたコンテンツまで多岐に渡ります。専任というかたちで運営に関わる社員は7名です。
吉岡泰之(以下、吉岡) 6,000ページもですか。株主や求職者など、まったく異なる目的を持つステークホルダーが訪れるわけですから、難易度の高い情報設計や、慎重な情報更新のフローが求められそうです。
難波 そうなんです。特に、株価に影響を与えるようなIR発表や、災害時・通信障害時の速報、あるいは新しい企業スローガンの発表時などは、その直後にアクセスが急増します。こうした一次情報を、いかに遅れなく、迅速かつ正確に公開できるかが私たちの使命です。情報の信頼性が社会的な責任に直結している、という感覚を日々持っています。

ページの役割ごとに成果指標を設計する
──では、サービスサイトであるauやUQの規模はいかがでしょうか。
菅村 アクセス規模は、auやUQともにざっくり月間数千万PVです。運用体制は専任社員が9名、外部スタッフが約15名で、複数の制作会社様とパートナーシップを組んでいます。auやUQは関連するサービスがたくさんあり、それぞれの企画部門や運用部門と連携してコンテンツを更新していくのですが、そのような社内連携を取る関係者だけで300名弱にものぼります。各部署から寄せられる更新依頼を、私たちのチームがハブとなって取りまとめています。
──300名の要望を少人数で取りまとめるのは、とてもハードなオペレーションが求められそうですね。それに、成果の定義も複雑ではないですか?
菅村 そうですね。たとえば、依頼された情報をそのまま載せるのではなくて、お客様にとってわかりやすく、目的の情報へたどり着きやすい構成となるよう、情報構成やデザイン、導線の設計を工夫する必要があります。
成果指標については、コンテンツごとの目的により異なります。「スマートフォンのオンライン購入」のように注文導線への誘導率や購入完了率が大事な場合もありますが、特に、auはブランド内で扱うサービスが多種多様であるため、単一の指標での評価は難しいです。
──では、どう評価するように工夫しているのでしょうか?
菅村 auサイトの場合、「インデックス系」「コンバージョン系」「説明系(FAQなど)」の3つに分類して、それぞれに適した指標を設定しながら継続的な改善を進めています。
インデックス系では、離脱を抑えながら次のページへの遷移を促しているかを評価します。サービス詳細などのコンバージョン系では、目的ページへの遷移数を重視しています。また、FAQなどの説明系では、ヒートマップなどを活用し、ユーザーが必要な情報を見つけられているか、課題解決につながる閲覧行動が取られているかを確認しています。

ブラックボックス化を防ぐための内製化
──次に、現在の運用体制に至った経緯についてうかがいます。
難波 KDDIのWeb運用における大きな転換点は、ここ数年で、対象業務を段階的に広げつつ、「内製化」を加速させたことです。
菅村 auとUQそれぞれのWebサイトも「内製化」はここ数年における1つのキーワードでした。特にauは、元々100%外注に近い体制から、段階的な内製化を進め、現在では50%ほどの運用業務を内製化しています。
吉岡 これほど大きな規模で、約5割も内製化されているんですか。それはすごいですね!
菅村 ありがとうございます。そうおっしゃっていただけると嬉しいです。
──この転換に至った背景に、どのような課題意識があったのでしょうか。
菅村 最初は、業務のブラックボックス化への強い危機感です。外部委託100%の体制でやっていると、社内で人事異動があるたびに委託業務の内容を理解しているメンバーが減っていき、だんだんと作業内容に対するコストの妥当性も判断が難しくなっていきました。
難波 外部に依存していると、専門性の高い業務ほどブラックボックス化してしまい、状況把握が難しい箇所が出てきますからね……。
菅村 はい。また、コストが問題になると、複数ベンダーで相見積もりを取って検討してみたり、交代してみたりもするのですが、その時もベンダーからベンダーへ業務が引き継がれる形となり、ますます内部のナレッジは薄れ、外部化していた印象です。業務内容が正しく把握できないから、事故を防止する確認プロセスばかりが増大して、複雑で工数が大きい業務フローになっていました。
吉岡 社内にはノウハウが残らないという、こうした状態は多くの大企業で起こりがちですよね……。社内のことなのに、Webサイトの仕様や中身がよくわからないとなれば、当然、外部との交渉力が弱くなってしまいます。
難波 そうなんです。従来の外部依存体制では、現場の担当者に情報が届くまでに複数の窓口を経由する“伝言ゲーム”のような状態が生じていました。そうした大きな無駄を解消するために、運用体制や情報共有の流れを基本設計から見直すことにしました。

菅村 結論として、伝言ゲームを排除するためには、「社内で完結した業務フロー」にしてしまうのが一番手っ取り早い」と考えました。
難波 2025年のコーポレートサイトリニューアルの際には、「KDDIブランドとは何か?」を再定義することからやり直しました。まずは関連するキーワードを洗い出して、それらをジャーニーマップとして整理するワークショップから始めていきました。
──なるほど、キーワードを記した付箋を貼ったりといった作業ですよね?
難波 おっしゃる通りです。そうした地道な作業を通して根本的な見直しを図ったわけです。
こうして少しずつ外部への依存を減らして、自分たちでWebサイトのことを把握しながら、直接改善を進めていける体制を整えていきました。その結果、運用の現場からも具体的な提案が出てくるなど、個々の担当者が主体的に関わるようになりました。
吉岡 私たちも、多くの大企業から内製化に関するご相談をよくいただきますが、最初から「すべてを自分たちでやろう」とすると、スキルやリソースの壁にぶつかって組織が疲弊してしまいがちです。
そこで私たちから提案するのは、まずガバナンスを機能させるための運用基盤を外部のプロフェッショナルやパートナーとともにしっかりとつくり上げること。そのうえで、そこでの運用ノウハウを蓄積していきながら段階的に内製化の比率を上げていく、という進め方です。
難波 わかります。一気にではなく少しずつ進めていく、ということですね。
吉岡 ええ、段階ごとの目標と役割を整理したロードマップを描くことで、実務に即した内製化が実現しやすいと思います。
ガバナンスを支える運用基盤づくり
──御社のような、大規模Webサイトで内製化、となると、品質を一定に保つガバナンスの構築が重要になります。では、どのような取り組みがなされたのでしょうか。
菅村 KDDI、au、UQなどのブランドロゴは、それぞれ細かく使用ルールを定めたガイドラインと、それを徹底するための管理部署があります。また、auに関しては「au VISUAL IDENTITY」と呼んでいますが、auというブランドの「人格」から、ブランドカラーであるオレンジの使い方まで、ブランドらしさを定義したガイドラインが準備されています。我々はそれをWebサイト用に落とし込んだデザインガイドラインを直接的には意識して、運用しています。
難波 KDDIにはWebサイトはもちろんのこと、全社で共有されている「KDDIフィロソフィー」という哲学があり、これが社員に深く浸透しています。どのWebサイトをつくる際も、「お客様第一」や「原理原則に従う」といった基本思想が全員に共通して根づいているため、大きなブレが生まれにくい土壌はありますね。
菅村 CMSでは、あらかじめ決められたパーツを利用して運用の品質を担保する一方で、LP(ランディングページ)などは、その時々のコミュニケーション施策にあわせて、通常のガイドラインから逸脱する柔軟なデザインも採用しています。
難波 KDDIでも新しいブランドページや、サステナビリティ特設サイトなど、用途や必要性に応じて、スクラッチ開発も可能にするなど、統制と自由度のバランスを強く意識しています。
吉岡 そのバランスは、まさにStudioがエンタープライズ企業向けに提案している設計思想と一致します。Studioはノーコード運用が基本ですが、カスタムプロキシなどを活用することで、必要に応じた拡張や柔軟な設計にも対応しています。企業ごとの運用体制やガバナンスに合わせながら、さらに組織を横断して活用できるプラットフォームへと進化させていきたいと考えています。
──運用上のミスや情報統制への懸念には、どのような対応を考えていますか?
吉岡 たとえば、プレビュー画面上で直接コメントや修正指示を共有できるワークフロー機能、ページごとの更新差分を確認できる機能など、これまでチームで安全かつ効率的に運用するための機能を提供してきました。そのうえで、権限管理を含めたガバナンス機能についても、さらに強化を進めていきたい。システムが安全性を担保できれば、現場の担当者が顧客体験の向上やコンテンツの改善に集中できる環境を提供することにもなるからです。
菅村 そうなんですね。仕組みや環境でフォローできると、運用現場は助かります。特定の優秀な技術者だけに依存した内製化を進めてしまうと、その担当者が離れた際に、運用を継続·復旧できなくなるおそれがあります。
吉岡 はい、属人化は避けたいですよね。
菅村 内製化して良い業務の条件は、「その組織で継続的に教育できるレベルの人財」が対応できる業務であることだと考えています。ノーコードツールは、ジェネラリストが多い当社のような企業風土の会社においても、内製化できる業務の幅を広げていくポテンシャルがあると思います。

──近年、生成AIの台頭によってユーザーの情報探索行動やWeb制作・運用のあり方が大きく揺れ動いています。KDDIでは、実務におけるAI活用をどのように捉えていますか。
菅村 AIを活用した業務自動化の実験を進めていくと、テキストの初稿やコードの生成が大きく効率化されるようになりました。一方で、通信サービスの契約手続きには、セキュリティや法的要件を伴いますので、AIが完全に業務を代行するのは難しいとも考えています。
吉岡 今、挙げていただいた項目はいずれも、高い正確性と安全性が求められる領域ですね。そこを十分に考慮していくと、今後AIが普及していく一方で、企業の公式サイトの重要性は変わらない、と言えます。
菅村 AIには、誤った情報を生成する可能性(ハルシネーション)がありますからね。企業公式サイトは、正確な一次情報を確認する場として、これまで以上に重要となっていくと思います。その結果、企業サイトへの来訪者の中には、AIで事前検討を行った比較的購入もしくは契約意向が高いお客様の比率が高まっていくように感じます。
吉岡 そうなんですね! 一次情報を求めるユーザーの存在はとても大切ですよね。
菅村 はい。公式サイトが最終的な意思決定と契約手続きを支える場だからこそ、私たちはお客様がWebサイト内で迷わずに目的を達成できる体験を、常に提供し続ける必要があるのです。
AI時代だからこそ大切な「一次情報」の価値
──最後に改めてうかがいます。AIによる情報検索や要約が一般化していくなかで、コーポレートサイトの役割や位置づけをどう考え、整えておくべきでしょうか?
難波 特に私たちのような通信事業者は、注記の言葉遣いや法律・コンプライアンスの遵守は当然として、常に「この表現が、お客様に対して誠実であるか」を問い続けなければなりません。少しでも間違いがあれば、社会的な信用を失いかねないからです。
今後は、コーポレートサイトのようなサイトは、AIエージェントによる要約だけで情報の取得が完結し、ユーザーが直接サイトを訪れる割合がどんどん減る可能性があります。
吉岡 一次情報を持っている側は、その情報の「意味」が問われますね。
難波 だからこそ、私たちのように大量の一次データを保有する組織は、今後、情報公開の形が変わったとしてもデータが再活用できるように価値を保持し続ける工夫や設計をすることが重要になります。
吉岡 正確な一次情報を保持することと、購入や契約を検討しているお客様を最適なユーザー体験で迎えること、これらの両輪こそがAI時代におけるエンタープライズ企業に求められるWeb戦略ではないでしょうか。
菅村 そうですね、私たちもおっしゃる通りだと思います。
吉岡 AIの進化で「つくるプロセス」がコモディティ化するほど、制作・開発プロセス全般が効率化されていきます。だからこそ、どこに差が出てくるかと言えば、人間の「ディレクション能力」であったり、「ブランドに対する誠実さ」といった姿勢に出てくるでしょう。
──制作業務の効率化が進む一方で、人間ならではの役割が鍵を握る、ですね。
吉岡 とりわけエンタープライズ企業には、システムやプラットフォームを通じて、現場担当者の負荷を減らしながら、コンテンツや顧客体験の改善に集中しやすい状態を確保できることも求められます。お二人との話を通じて、その確信を得ることができました。

取材・文/長谷川智祥、写真/五味茂雄、企画協力/Studio株式会社
※本記事はStudio株式会社とのタイアップ企画です。