
誰でもWebアプリをつくれる時代、制作会社の役割はどう変わる? 小島芳樹(chot Inc.)& GMOペパボが語る、AI時代のWeb制作

AIの進化によって、専門的な知識を持たない人でもWebサイトやWebアプリをつくれるようになってきました。そんな中、GMOペパボは、AIエージェントとつくったWebアプリを簡単に公開できるホスティングサービス「ロリポップ!デプロイナウ byGMOペパボ」の提供を開始しました。
AIによってWeb制作の現場はどう変わるのか? AIを積極的に活用するちょっと株式会社代表の小島芳樹さんと、GMOペパボの渕野航介さん、荒木千佳さんが語り合いました。
目次
AIによって変わり始めたホスティングの前提
小島芳樹(以下、小島) ロリポップ!は僕が人生で初めて契約したレンタルサーバで、ずっと気になる存在だったんです。特に最近、MCP(AIと外部のツールを安全につなぐための共通規格)への対応が急速に進んで、新しいフェーズに入ったと感じています。
渕野航介(以下、渕野) AIへの対応を進めたきっかけとしては、特にClaude Codeの登場が大きかったですね。我々も職種に関係なく使っていますが、初めて触ったときに「提供するサービスの前提が変わる」と感じました。
これまでのロリポップ!は、人間が使いやすいUI/UXを整えることが中心でした。しかしAIエージェントの普及により、「AIとの対話からサービスを利用する」ことが前提になりつつあります。そこに適応するため、MCPやAPIの整備を急ピッチで進めています。


小島 以前はFTPやSSHでファイルをアップロードしていましたが、今は「AIに指示してアップロードする」時代になってきた。大きな変化ですよね。
渕野 AIが「このサービスなら実行できる」と判断してユーザーにレコメンドする構造になってきたのも、MCP・API周りを整備する理由の1つです。AIにとって使いやすいサービスにすることが、結果的にユーザーに選ばれる道になると考えています。
公開のハードルを劇的に下げる「ロリポップ!デプロイナウ」
小島 そうした流れの中で登場したのが「ロリポップ!デプロイナウ」ですね。改めて、どんなサービスなのか教えてください。
荒木千佳(以下、荒木) AIと一緒にWebアプリをつくる人が増えた一方で、それを公開するハードルはまだ残っています。デプロイナウは、「Claude Code」「Cursor」「Codex」といった主要なAIコーディングエージェントと連携し、自然言語の指示からそのまま公開まで一気通貫で行えるサービスです。
現在はコマンドやAIからの指示に加え、Webブラウザへのドラッグ&ドロップやGitHub連携にも対応しています。AIで「つくる」ハードルが下がったからこそ、「みんなに見てもらう」「公開する」というハードルも極限まで下げたいと考えています。

小島 静的なHTMLだけでなく、動的なWebアプリケーションも公開できるんですよね。
荒木 はい。現在はNext.jsやNuxtに対応しており、環境変数を設定して外部データベース(Supabaseなど)と連携すれば、業務システムのようなアプリも公開可能です。
小島 ドメインの設定もAIからできるのでしょうか。
渕野 GMOペパボの「ムームードメイン byGMOペパボ」も、MCPとAPIの整備を進めています。今では、ドメインの取得からDNSの設定まで、AIとの対話で完結できるようになりました。アプリの作成からドメイン割り当てまで一気に進められます。
小島 DNSは数字を1つ間違えるだけでつながりませんから、そういう設定を自分で打ち込まなくていいのは大きいと思います。

個人の「こんなものが欲しい」が、そのままWebアプリになる時代へ
荒木 実際の利用者を見ると、面白いものがいろいろ出てきています。たとえば、お笑い芸人さんのトレーディングカードをファン同士で交換するときに使えるアプリがありました。欲しいカードと譲れるカードを選ぶと、Xへの投稿文を自動作成してくれるんです。実際に、ファンの方々の間でかなり使われているようです。
ほかにも、ごま油好きの方が元々ご自身でExcelにまとめていた「ごま油図鑑」を、検索できるWebサイトとしてロリポップ!デプロイナウで公開いただいた例があります。制作者はエンジニアではなく、コマンドラインの使い方もAIとの対話で覚えていったそうです。
渕野 本当にニッチなアプリケーションが多いんですよ。身近な困りごとを解決するものを、パッとつくって公開する。これまではエンジニアリングの知識がなければ難しかったことが、専門知識のない人でもできるようになってきました。
小島 これまで、個人がインターネットで何かを公開するとなると、ブログやnoteのようなサービスが中心でした。それが今は、個人がデータベースを使ったアプリまで公開できる。そこから話題になるケースも生まれてきているんですね。
渕野 レンタルサーバが出始めた20年ほど前の雰囲気に近いところがありますね。当時は個人サイトが次々に生まれましたが、今度は個人のWebアプリがどんどん生まれている。新しい文化になっていく可能性を感じています。
先行する「Vercel」との違いと、国産サービスならではの強み
渕野 ちょっとさんは「Vercel」の公式パートナーでもありますよね。Vercelは、ロリポップ!デプロイナウよりもずっと前から存在しているデプロイサービスですが、小島さんは、Vercelと比較してロリポップ!デプロイナウをどうご覧になっていますか?
小島 VercelはNext.jsの開発元でもあるため、Next.jsのさまざまな機能をフル活用するための最適な選択肢だといえます。特に大規模なWebアプリケーションでは、ページの生成方法などを細かく調整したり、サーバ側の処理を減らしてコストを抑えたりします。そうした細かなチューニングが必要な案件ではVercelが強いですね。
一方で、30ページ程度のコーポレートサイトでそこまでのチューニングが必要かというと、必ずしもそうではありません。そうした案件でロリポップ!デプロイナウのような別の選択肢があるのは歓迎すべきことです。
また、これまでは国産のデプロイサービスがほぼありませんでした。クライアントからの「国内サーバに置きたい」という要望に応えられる点や、為替リスク・従量課金による予測不能なコストを回避できる点も、制作会社としては大きなメリットです。
荒木 ロリポップ!デプロイナウは提供から日が浅い新しいサービスです。まずは手軽にNext.jsを公開できる環境から提供を始めましたが、今後も機能をどんどん追加していく予定です。
渕野 基本的にはVercelと同水準の機能を提供し、案件に応じて、「どちらを使おうか」とフラットに比較検討してもらえる存在を目指しています。


誰でもWebアプリを公開できる時代、制作会社の役割はどう変わる?
渕野 AIによって誰でも制作・公開へチャレンジできるようになりましたが、制作会社への影響をどう見ていますか。
小島 ある程度、仕事はなくなると思います。そこには抗えないでしょうね。実際、数十ページ程度のWebサイトなら、個人でもAIに一言二言伝えるだけでつくれるようになってきています。
ただ、僕が注目しているのは、その後です。つくったものを継続して維持できるのか。WordPressでも、つくったままアップデートされず、攻撃されてしまうケースがありますよね。法改正やセキュリティ上の変化などに追随しながら、「サービスを持続的に維持・保証すること」は今後もプロの重要な役割として残ると思います。
渕野 まさに同感です。たとえば、みんながスマートフォンで写真を撮るようになっても、プロのカメラマンはいなくなっていません。誰でもつくれることと、プロとして品質を担保することには、まだ大きな違いがあります。
小島 裾野が広がったことで、サイバー犯罪が以前よりしやすくなったという側面もあります。なんでも簡単につくれる分、フィッシングサイトなどのリスクも高まりますから、プラットフォーム側の監視やセキュリティ対策もより重要になりますよね。
渕野 そうですね。悪意のあるツールも、つくろうと思えばできてしまいます。その点は私たちもプラットフォームとして監視や対策をさらに強化していきたいと考えています。

制作会社の価値は「つくる」から「成果を出し続ける」支援へ
小島 これからの制作会社は、クライアントとの関係性を再定義する必要があると思います。これまでの制作会社って、「納品して終わり」になってしまうケースも多かったと思うんです。でも、Webサイトで本当に重要なのは「公開後に情報発信を続け、ビジネスの成果を出し続けること」です。
AIを活用すれば、これまで追加コストがかかっていたSEO分析やWebサイトの改善を、より低コストで提供できるようになると思います。ちょっと社でも、これからは納品後にきちんと成果を出せるところまで支援したいと考えています。僕らが開発しているWebサイト構築プラットフォームの「Orizm」にそうした支援機能を搭載するとか、いろいろな方法を模索しているところです。

渕野 なるほど。運用支援のコストを負担に感じていた企業にとっても、低コストで継続的な伴走支援を受けやすくなるのは大きなメリットですね。
小島 AIで「1日でサイトができました」という時代だからこそ、つくった後の運用と成果に伴走することが制作会社の価値になっていくと思います。
渕野 ロリポップ!デプロイナウも、今後は法人や制作・開発の現場にも耐えうるサービスへ進化させていきます。今後は複数人でのチーム開発などにも対応していく予定です。

文:小平淳一 写真:黒田彰
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