データでまるわかりECの現状と未来

2020年のECトレンドを読み解く3つの方法

ECトレンドの全体像を知りたい場合には、まず経済産業省や野村総合研究所などが公開しているデータから大きな流れがどうなっているか、そして各EC関連企業のIR情報を見てトレンドを確認し、そして最後に実際の現場を確認するという順番で見ていくことがおすすめです。

これをキーワードとしてまとめると、次の3つに集約できます。

●大きな流れをつかむ

●IR情報で各ファクターの流れをつかむ

●現場、現物、現実でリアルをつかむ

実際に経済産業省や野村総合研究所のデータを長年見ていくと、ここ最近の数値は当初に予想されていたよりも若干伸び率が下がっています。もちろん、それでも全体的には成長傾向にあることは間違いなく、消費者の行動変容次第でEC需要がさらに高まることも予想されます。

しかし、より重要なのは自社が扱う商材がEC市場のカテゴリでどうなっているかです。たとえば、分野ごとに詳細に見ていくと書籍、映像音楽ソフトは26%から30%のEC化率で4%伸びています。また、ワインを含む食品・飲料・酒類は市場規模が1兆6,919億円で2.64%というEC化率です。また、文房具の市場規模は2,203億円ですが40%を超えるEC化率です。こうした数字をどう見るかは事業を進めていくうえで重要なデータとなります。

ちなみに、もし私が文房具店だったら、「状況を考えるといまからECに参入するのは厳しい。さらに、EC化率は40%もある」のように分析を進め、何かしらほかの方法も模索する必要があると推測します。

次に、上場している会社はIR情報を公開しているので、この情報を参考にします。たとえば、モールなら「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」、決済ならば「GMOペイメントゲートウェイ」、物流なら「クロネコヤマト」や「佐川急便」など各社のデータはとても貴重な情報源です。

実際に国内モール大手の楽天のIR情報を見ると、流通額は成長しているものの、以前のIRと見比べるとずいぶん売上の構成が変わっています。グローバルで伸びていることや、楽天経済圏のつくり方と合わせて考えると、同社はECというよりフィンテック企業になっていく印象を受けます。

また、ヤマト運輸のIR情報からはドライバーの働き方改革やタッチポイントの状況がわかりますし、決済のGMOペイメントゲートウェイのIR情報からはオンライン決済の伸びが25%もあることが分かります。そして、これはEC全体の伸びより成長していることを示しています。

一方、キャッシュレス化が進んだことで対面決済や金融機関向けもそれぞれ50%、60%と伸びているのも気になります。ここではオンラインとオフラインの垣根を超えたOMOやオムニチャネル化の動きも意識したいところです。

これらのデータを見たうえで、それぞれの会社の現場を見ると、実際の動きが納得感を持って理解できます。現場ツアーや勉強会、セミナーからの懇親会などの機会で現場の声を聞くのは大切です。

また、ECショップから実際に購入すると、リアルな情報が得られます。たとえば問い合わせからの回答スピードやサイトのつくり、梱包状態などなど、聞いたことのある話と現実とのギャップもわかります。さらにECサイトで実際にどのソリューションやプラットフォーム、チャットシステムやMA(マーケティングオートメーション)を使っているかが一目瞭然です。

EC担当者の皆さんは、Webでの情報収集に加えて、現場、現物、現実という「3現主義」を心がけましょう。 

EC市場(BtoC)の規模とEC化率の推移

全体の統計は経済産業省が実態をまとめています。将来の予測も含めて知りたいのであれば野村総研の資料と合わせて確認します 出典:経済産業省「電子商取引に関する市場調査」(2018年)より作成

「IR情報」からトレンドを読む(1)

ヤマト運輸のIR情報です。ECにおいて物流の動きを知ることはとても重要です。消費者が荷物を受け取る方法の変化などが数値からも感じ取れます http://yamato-hd.co.jp/investors/library/

「IR情報」からトレンドを読む(2)

GMOペイメントゲートウェイのIR情報からは売上に対するプラス要因、マイナス要因が整理されています。ここからオンライン決済の伸び率が想定以上のスピードで高まっていることが読み取れます https://www.gmo-pg.com/corp/ir/

 

国内主要モールの動きと注目のD2C施策

ここからは、国内の主要モールの動きについても見ていきましょう。まず、2020年3月18日に楽天が送料無料となる購入金額のラインを3,980円以上に設定しました。それに先立つ2月28日に公正取引委員会が東京地裁に緊急停止命令を申し立て、一時は「送料無料」という名称を「送料込み」に変更するなどの混乱がありました。しかし、結果的には予定どおり3,980円以上が送料無料ラインとして導入されました。

その結果として、カテゴリによって差はありますが、6割から7割くらいの店舗が送料無料ラインに参加し、参加店舗には5倍ポイントや送料の一部負担(4月1日分以降分に適用)、検索での有利な対応、カート内での送料無料アイコンなどがあり、導入店舗に有利な状況になっています。

しかし、実際は商材によって売上に差が出ていることが想定されます。というのも、もともと5,000円~6,000円以上で送料無料を行う店舗が多く、3,980円~5,000円の商材を持つ店舗では売上が向上する一方で、そもそも商材が1万円以上の店舗ではあまり変化がないというのが実情です。この状況がどうなるかは、しばらく注目していく必要があると思います。

また、Yahoo!ショッピングに関する動きもユニークです。2019年にYahoo! JAPANが運営する「PayPayモール」が登場し、大企業やブランド品などは大幅なポイント還元の影響で、Yahoo!ショッピングからPayPayモールへの移行が進みました。

なお、食品カテゴリやニッチな商材では影響が少なかったとみられています。実際の店舗に伺った話では、PayPayモールに移った瞬間からアクセス数や売上が向上したとのことです。商材の特性を見極めて検討する余地があるでしょう。

なお、最近のYahoo!ショッピングでは「STORE’S R∞(アールエイト)」という100円程度のクーポン発行やEC支援ツール「B-Space」の効果に注目が集まっています。ショップ運営者は費用対効果を考慮しつつ導入を検討するのもよいでしょう。

一方、海外の動きですが、特に米国では日本のさらに先を行き、消費者直結のD2Cビジネス市場が活況を呈しています。米国のD2Cブランドは個々の販売で利益を最大化するよりも、顧客とのエンゲージメントを高め、生涯にわたる顧客との関係維持に焦点を合わせる傾向があります。

そして顧客はブランドに対して利便性、パーソナライズ、信頼性を求め、かつ利便性を実現する手段として「サブスクリプション」を利用しています。これによってショップは単に商品をオンラインで販売するだけでなく、定期的な購入で継続的に価値を提供できるような施策を打っています。 また、ビッグデータ解析や人工知能による購買予測といったイノベーションが顧客とのインタラクションを根本的に変えつつあります。顧客に対するより的確なパーソナライズを提供することで、信頼性を高めることが可能となるわけです。これら利便性、パーソナライズ、信頼性の組み合わせにより、D2Cブランドは顧客の生涯価値を最大化していく、というのが海外のECトレンドの注目点です。

なお、日本のECショップでも米国のD2Cと同じように展開しているように見えますが、実際のところビッグデータ解析や人工知能予測といったイノベーションの分野ではかなりの差があるため、今後は新技術の導入と運用が課題になっていくことは間違いないでしょう。

国内主要モールのトレンドも活発化(1)

中小規模のショップからの批判を受けて一律無料化を断念した「送料無料ライン」ですが、支援策の登場で導入店舗にとって有利な状況が生まれつつあります 出典:楽天IR資料、発表会資料より作成 https://corp.rakuten.co.jp/investors/documents/

国内主要モールのトレンドも活発化(2)

Yahoo!ショッピングに対応したEC支援ツール「B-Space」は、商品バナーやランキングなど購買意欲を高める「賑わい演出」や他店との商品情報比較の機能などが備わったツールです https://bspace.jp

海外ではD2Cブランドが急速な成長を遂げている(1)

インフルエンサーマーケティングのActivateの調査によると、D2C企業の実店舗出店は表のように世界中に展開もしくは展開予定となっています出典:Activate Inc. “Tech & Mobile Outlook 2019”より作成 https://casper.com/glow-light/

海外ではD2Cブランドが急速な成長を遂げている(2)

近年登場した注目すべきD2Cは、最初に単一または限定的な商品を発売し、その分野で大きな成功を収めてから事業展開を広げています。たとえば、マットレスの製造販売からスタートした「Casper」は、ベッディング、枕、ナイトライト、犬用ベッドなど商品カテゴリを拡大することにより、睡眠全体のソリューションを提供する会社へと進化しました。長期にわたって顧客の信頼を維持する重要性をCasperの事例はわかりやすく示しています https://casper.com/glow-light/

 

Text:川連一豊
フォースター株式会社 代表取締役 JECCICA代表理事 https://forcetar.jp
  • URLをコピーしました!
目次