
データと上手に付き合うコツ
データと試合を行き来する新しい楽しみ方
プロ野球では、2010年代に入って以降、各球団のデータ活用が急激に加速化。いまや野球に関する多種多様なデータは、ファンもアクセスできるようになっており、ライブリッツ(株)が2019年6月にリリースしたプロ野球情報サイト「キューステ!」でも、多くの人に対してデータを公開しています。
「球団や選手が使っているデータを見やすく公開することで、新しい楽しみ方を提案できると思いました」と話すのは代表取締役の村澤清彰さん。選手の打率やチームの勝敗だけでなく、細かい指標での選手成績ランキングやチームの攻撃力・防御力といった情報まで見られるほか、試合中もリアルタイムで両チームの勝利確率が算出されるなど、試合観戦をより楽しめるようなコンテンツが用意されています。
「『未来のレジェンド』は、人気機能のひとつです。現役選手と引退した選手の記録を比較して、似ている選手同士を表示でき、レジェンドになりそうな選手を予測できます。データに馴染みのない方にも好評のようです」(村澤さん)
チームの戦力、選手の活躍度の現状を客観的に捉えたり、試合の行方やタイトル争い、選手の成長を予想する。そんな楽しみ方は、豊富なデータを見られるからこそ。現状把握や将来予測に納得感を持たせてくれるデータの存在は、球団や選手だけでなく、ファンにも嬉しいものなのかもしれません。
「勝つための活用」に学ぶデータの読み方・伝え方
今度はデータを「使いこなす」観点から、球団を支え、勝利に導く活用について、掘り下げて聞いてみました。
「日頃の業務では、野球に関する膨大なデータを集計します。例えば、ピッチャーの投球。システムを使えば、どのコースに投球され、それがストライクだったかどうかを一球一球可視化できます。データにより、投手のコントロールや癖などを把握可能です」(村澤さん)
ただ、投球データでわかるのは、投手に関してだけではないとのこと。投球を受ける捕手、判定する審判の癖まで、分析しているといいます。
「ストライク率、投球コース、その時の捕手という情報をあわせて分析すると、際どいコースでもうまく捕球してストライクをとってもらっているのか、ミットが垂れてボールになってしまうのか、キャッチングの癖がわかります。また、審判ごとの分析も行うことで、判定の傾向がわかります」(村澤さん)
このように、球団は捕手のレベルアップに役立てたり、審判ごとの判定の傾向を頭に入れながら試合に臨めます。同じ形で投球コースと判定を集計したデータでも、着目するのは投手なのか、それとも捕手なのか、審判なのか、と掛け合わせを変えながら分析すれば、チームの強化に幅広く活用できるのです。
また、実際に現場でデータ分析を行うコンサルタントの五十嵐大純さんは、「対面する球団担当者はデータ分析に明るい人ばかりではない」としたうえで、「伝え方が大事」と話します。資料をどうつくるか、打ち合わせの場でどう話すか。結論から言うのか、過程から丁寧に説明していくのか。相手にあわせて伝え方を変えるといいます。
「球団内でも、経営層と現場担当者では、欲しい情報が異なるため、伝える側に工夫が求められます」(村澤さん)
データを複眼的に見ることは、さまざまな要素を掛け合わせながら行うWebサイトのアクセス解析にも通じます。また、相手に応じて伝え方を変える考え方は、報告資料の制作や社外プレゼンを実施する際のデータ引用といったシーンでも実践しているはず。業種問わず、「勝つため」に求められるデータの扱い方を学ぶことができました。

プロ野球情報サイト「キューステ!」(https://sports-station.jp/)では、さまざまなプロ野球のデータにアクセス可能。『未来のレジェンド』機能では、引退した名選手と現役選手のデータを比較できるなど、データを使った新しい楽しみ方がファンに提供されている

トラッキングで明らかになった投球データを、捕手のキャッチング位置とストライク判定率で解析したもの。ストライク判定率が高い位置は赤く、低くなるほど青で表示されている。観点を変えれば、投球データから、各捕手の特徴まで読み取れる

- 教えてくれたのは…村澤 清彰
- ライブリッツ株式会社 代表取締役。フューチャーシステムコンサルティング株式会社(現フューチャー)の研究開発部門を経て、2017年より現職。プロ野球のチーム戦略システムをゼロから構築し、複数の球団や他のスポーツへ展開した実績を持つ。 https://www.laiblitz.co.jp/

- 教えてくれたのは…五十嵐大純
- ライブリッツ株式会社 スポーツデータサイエンス事業部 2019年入社、アソシエイトコンサルタントとしてプロ野球チーム向け強化システムの導入推進や運用保守、分析サポートを担当している。