BtoCからBtoBへ。「在庫」が生み出した新需要で、次なる成長を目指す 「てるくにでんき」●特集「EC再強化」

廃業直前からECサイトでV字回復

1978年に創業した「てるくにでんき」はもともと、住宅工務店や町の電気店に、スイッチや配線などの電気工事に必要な資材を販売する電気資材の卸だった。だが、90年代に入ってバブルがはじけた影響もあり、仕事は徐々に減少。会社をたたむことも視野に入れていた1996年にECを開始した。

「お金をかけずにやれることを考えて、行き着いたのがECサイト。本でホームページのつくり方を勉強して、なんとかオープンしました」

だが、オープン直後は情報が整理されておらず、訪れたユーザーがコーポレートサイトなのか、ECサイトなのかも判別できないような状態。当然、売れるはずもなかった。

そこでアドバイスを求めたのが、当時高い人気を誇ったTシャツ通販ショップ「EASY」を運営する岸本栄司氏だ。「得意商品を打ち出すべきだ」とアドバイスを受け、96年の8月から「照明器具専門店」と銘打って、本格的に営業を始めた。

「いろいろと扱っている中で、なぜ照明器具にしたのかというと、マンション購入者に説明会をしたり、実際に施工もしたりするなかで、照明器具に関するお客さんの声をよく聞いていたからなんです。自分たちの知識がある、照明に特化しようと考えました」

とはいえ、照明器具は大手量販店に行けばまったく同じ商品が買えるだけでなく、「実物が見たい」というニーズも高いため、およそ通販に向かない商品だ。そうしたハンデを少しでも減らすために始めたのが、現在のてるくにでんきの強みになっている「ブログ」だ。

 

てるくにでんき

照明器具の専門店としてシャンデリアやライト、電球などの一般向け商品のほか、配線器具など施工業者向け商品も取りそろえている。現在は本店のほか、楽天、Yahoo!、Amazonにも出店中。

商品としての「照明器具」の特色は?

大手電器店でも扱われている照明器具。そのため価格競争も厳しく、小規模店での展開は難しい。しかし、その一方で、取り付けを求めている人が多いのも特色の一つ。施工サービスや、取り付け相談などの付加価値サービスを打ち出すことで対抗しているECサイトもある。

 

流入元は施工例を数多く掲載しているブログ

現在、てるくにでんきでは納期や購入商品が自宅に取り付けられるかどうかなど、ユーザーからのよくある質問に答えるブログ、新商品や商品の活用法などを社長の堂園さんが紹介するブログ、そして施工例を集めたブログの3種類を展開。なかでも一番の流入元となっているのが、施工例のブログだ。同社ではサイトオープン時から照明器具取り付けサービスを行っており、それを施工例として掲載。最近、よく言われるO2O(オンライン・トゥー・オフライン)の効果を自然と生み出している。

「照明器具はカタログやWebに掲載された画像よりも、一般家庭に取り付けた場合の雰囲気を知りたいというお客様が多いです。うちは施工も自分たちで行っていますし、お客様の声もダイレクトに聞いているので、そうした声を施工例と一緒に掲載したら、役に立つんじゃないかと思って始めました。すると、それを見たお客様から『ブログに載っているのと同じ商品が欲しい』といった声が増届くようになり、注文も増え、それがまたブログに載るといういい循環が生まれたんです」

 

価格ではなく、在庫で勝負するという発想転換

1996年6月にサイトをオープンして、初めて商品が売れたのが8月。その後は順調に数字が推移し、半年足らずで月の売上は50万~100万円。会社の柱の一つにまで成長した。月商がピークだった時の2003年には、注文数は月に4,000~5,000件。売上は4,000万円近くまで伸び、注文をさばききれないほどの人気ショップになった。

だが、その頃から競合店も急増。売上も低下しはじめる。しかしそこで他店との差別化になったのが前述したブログと、「あえて在庫を持つ」という方針への切り換えだった。2003年頃まではネット上での最安値を目指した時期もあったが、広く在庫を抱える方向にシフトした。

「価格競争になると、大手には到底かないませんし、どんどん利益率も下がってしまう。だから、うちはほかのショップが安売りに向かうのに対して、在庫をストックすることにしたんです。今はだいたい、2,500~3,000商品を在庫として持っているのですが、ほかのショップに比べても多い方だと思います」

 

お話を伺った人:堂園秀隆さん

照国電機株式会社 代表取締役。1996年6月に自社ネット通販を開始し、ネット上で照明器具の専門店を運営。現在は工事士として現場で得た情報をWeb上で発信する。

 

即日発送でユーザー層に変化が。BtoBへの転換

さらに競合他社が取り組んでいない即日発送もスタート。すると、豊富な在庫と即日発送によって予想しえないことが起きた。ユーザー層の変化だ。

てるくにでんきのユーザー層は、96年のサイトオープン直後はマンションや住宅を購入した男性、その後、ネットが家庭に普及してからは、主婦を中心とした女性からの注文が中心だった。それが最近は工務店や店舗設計会社などのプロユースが主流を占めつつある。その理由を堂園さんは、豊富な在庫と即日配送、そしてスマートフォンの普及と見る。

「おそらく現場で作業や打ちあわせをしていると、急遽、必要なものが出てくるので、それをスマホで注文して下さる人が増えているんだと思います。工期を伸ばすと余計にお金がかかりますから、商品料金が多少高くても、送料がかかってもすぐに届くうちから買ってくれる。料金という強みを超えるのは納期なんだと痛感しました」

2003年をピークに、競合の増加やリーマンショックなどの影響でそれまでのように売上が伸びず、苦しい時期が続いたという同店。その改善に繋がったのがこうしたプロからの購入だった。プロユースの場合は、在庫管理と発送管理がシビアになるが、在庫は外部に委託して細かく管理。発送は日に3回行い、プロユースの高い要求に応えている。

 

よりニッチな商品を扱うことで利益率が向上

今後は各サイトのデザイン改善やスマホ対応、そして利益率をあげるため、BtoB向けのニッチな商品を充実させていくという。

「たとえば蛍光灯のなかに安定器というのが入っているんですが、LEDに押されて製造メーカーがどんどん撤退しているんです。でも、まだまだ一定の需要はあるし、発売から年数が経っているので、ほとんどの問題が枯れ尽くしている。だから、今後は安定器のメーカーさんと組んで、安定器の販売を充実させる予定です。こうしたプロユース、ニッチなアイテムを販売を確保できれば売上額は減っていても、利益率はよくなるんです」

どこにでもある商品を最安値ではない価格で販売するという不利な状況を、ユーザーが求める施工例と豊富な在庫、即日発送という強みで跳ね返し、成果を上げたてるくにでんき。その運営には大きなヒントが詰まっていると言えそうだ。

 

てるくにでんき なぜブログが人気なのか?

てるくにでんきの施工ブログからペンダントライトの施工の様子。施工時の写真掲載はもちろんだが、さまざまな用途や施工の時の感想などを拾い上げることで、新規ユーザーの獲得に繋がっているほか、SEO対策にもなっているという。 http://terukuni.co.jp/zitsurei/?p=3001

 

「てるくにでんき」が売れてる理由

●自信のある知識、商品で勝負

●安売りには豊富な在庫と即日配送で対抗

●BtoB向け商品の充実で利益率を向上

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