
コンテンツマーケティング先進国アメリカでは、今、何が起こっているのか●特集「コンテンツマーケティング」
常に進化し続けるコンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングは、これまで、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、リードナーチャリングなど、さまざまな概念を取り入れて成長してきた。そして今年、コンテンツマーケティングはまた一歩進化し、それを象徴する二つの出来事が起きた。一つ目は、9月に米国で開催された「Content Marketing World 2015」において、コンテンツストラテジーの第一人者であるKristina Halvorson氏が、最初の基調講演に登壇したことだ。

もう一つは、インテリジェントコンテンツのイベントである「Intelligent Content Conference」が、今年からContent Marketing Institute社の主催になったことだ。「Content Marketing World」も主催する同社が、カンファレンスイベントを買収したのだ。これらのことが、なぜ象徴的な出来事であったのか、まずはコンテンツストラテジーとインテリジェントコンテンツとは何かについて紹介しよう。
コンテンツストラテジーとは
コンテンツストラテジーとは、コンテンツマーケティングよりも前に誕生した概念であり、1990年代後半から使われてきた。コンテンツストラテジーは、ビジネスゴールを達成するためのコンテンツ作りの戦略であり、プランニング、コンテンツ制作、コンテンツマネジメント、組織体制など、コンテンツ制作に関わるすべての要素を内包している。

Kristina Halvorson氏率いるBrain Traffic社が提唱しているもの。どんなコンテンツをどんな仕組みで届けるのか、どんな作業手順でどう管理するのかという要素で構成
(出典:http://blog.braintraffic.com/2012/07/from-the-archive-brain-traffic-lands-the-quad/)
インターネットが普及するに従って、技術面の進化だけがもてはやされ、コンテンツがおざなりにされる傾向が見られた。そこで、改めてコンテンツの大切さを再確認し、デジタル時代に適した質の高いコンテンツを制作するための考え方と組織体制を定義しようという主旨で生まれた概念である。Web技術の進化の中で、肝心のコンテンツが後回しにされてきたことに警鐘を鳴らす動きでもあった。この概念をコンテンツマーケティングが取り入れたために、コンテンツマーケティング戦略とコンテンツストラテジーの混同が起き、一時は、コンテンツストラテジストから「コンテンツストラテジーという言葉をハイジャックするな」という苦情が巻き起こったほどであった。
インテリジェントコンテンツとは
一方、インテリジェントコンテンツとは、『Managing Enterprise Content』の共同著者であるAnn Rockley 氏によって2008年に提唱された概念だ。紙、スマートフォン、タブレットなど、さまざまなデバイスでコンテンツが消費される時代に対応する、フレキシブルなコンテンツ作りのための手法だ。コンテンツ自体にインテリジェントな機能を持たせることによって、ワンソースでユーザー別、デバイス別、コンテキスト別に最適な表示を自動的に行うことを目指している。

従来のコンテンツはフォーマットに合わせて形作られているため、フォーマットが変われば作り直さないといけないが、インテリジェントコンテンツは部品を組み合わせて適切な形に再構成できる
インテリジェントコンテンツの肝は、コンテンツを部品化し、それぞれの部品に意味づけを行うことだ。まずコンテンツの原型を作成し、見出し、本文コピー、写真などの部品に分けて構造化し、次に初心者用、男性用、説得用などの役割をメタデータとして記述していく。こうすることで、従来はH1、H2といった論理的な構造しか持たなかったコンテンツが、目的に応じて賢く振る舞うことができるようになる。その結果、コンテンツを見つけやすく、再利用や再構築がしやすく、アダプティブになるのだ。例えば、デバイス、スクリーンサイズ、時間、場所、年齢、性別、言語など、ユーザーの属性や環境に応じてコンテンツを個別に表示することが可能になる。
真のコンテンツファーストの時代へ
米国におけるコンテンツマーケティングは、数多くの成功と失敗を経験し、概念としてのコンテンツマーケティングの議論は尽くされた感がある。つまり、「コンテンツマーケティングが有用であることはわかった」という段階だ。しかし、役立つコンテンツをどうやって作るのかについては、荒削りなフレームがあるだけで、属人的なままであり、「これだ!」という共通の明快な解は出ていない。
コンテンツ制作の手順であるコンテンツストラテジーと、紙を含めたマルチデバイス環境の中で柔軟な表示を実現するインテリジェントコンテンツの考えを取り入れることで、これからの時代に対応した、一定のクオリティのコンテンツを生み出すプロセスが明確化されつつある。これまでは、メディアやフォーマット、デザインありきで制作が語られることが多かったが、フォーマットの制約を受けない状態でのコンテンツ制作の議論が始まったといえる。つまり、「真のコンテンツファースト」を起点としたコンテンツマーケティングの実践が始まりつつあるということだ。この流れは、確実に日本にも訪れるだろう。コンテンツストラテジー、インテリジェントコンテンツについても注目しておこう。

- Text:渡辺一男 (株)日本SPセンター
- (株)日本SPセンター 代表取締役社長。1968年生まれ。1992年、日本SPセンターに入社。18年間にわたって海外向け家電商品のマーケティングを担当した後、2010年より現職。コンテンツマーケティングの普及活動を推進中。 http://www.nspc.jp/