坂村 健先生、IoTってなんですか? (2/2)●特集「IoTの現在」

ーーではどうすれば、人とモノ、モノとモノとが双方向に交信する、IoT環境がもっと広く実現するんでしょうか?

 

手本となるのは「インターネット」だよ。インターネットの世界では、誰かに連絡を取りたいと思った時、メールアドレスさえ教えてもらえれば、手持ちのパソコンやスマホ、それにメールソフトを使ってすぐにアクセスできるでしょ。独自の回線を引いてくる必要も、専用のソフトを用意する必要もない。それと同じことを「人間とモノ」「モノとモノ」の間でもできるようにしようということ。つまり、インターネットと同じように「オープンにする」ということだよ。

 

これまで内向きだった企業も「オープン」ということを意識しはじめている。もちろん、まだまだ中途半端だったりするけれど、もうこの流れは止められないよ。だってさ、今さらクローズなネットワーク、クローズなAPIだなんて、世界の流れから見ても、どう考えたって流行らないに決まっているじゃない(笑)。オープンにして、利用者を増やして新しいビジネスを考える。それが今の時代のやり方だよね(01)。

01 東京メトロオープンデータ アプリコンテスト

東京メトロが主催した「オープンデータ活用コンテスト」(2014)は、オープンデータ化された運行状況や列車の位置情報を使ったアプリのコンテスト。2,328ユーザーが登録し、281件の応募があった。グランプリを受賞したのは、時刻表アプリの「ココメトロ」。運行情報や前後の列車の位置を見られるため、遅延などがわかる。データをオープンにすることで、さまざまなビジネスの芽が生まれる可能性を示唆したコンテストとなった

 

ーーその一方で、さまざまな機器がIoT化され、いろいろなところにセンサーが設置されることに不安を感じるという声もあります。

 

確かにね、情報が流出するリスクはゼロにはならないし、家や車の操作系が外部から操られてしまったらどうするとか、いろいろと指摘されているよね。もちろん、そういった問題には真剣に取り組む必要があるけれど、一方で、きりがない部分もあるってことを知っておかないと。銀行の金庫って見たことある? 直径にして数メートルもあるような、すごい鍵が付いているよ。もちろん、金庫の前にたどり着くことも大変だしね。でもさ、『ミッション·インポッシブル』のトム·クルーズが本気で盗みにきたら、どんなに強固な鍵でも破られちゃうでしょ(笑)。まあ、それは冗談だとしても、世の中に悪意のある人がいる限り、セキュリティはどこかに限界がある。リスクがゼロでない限りIoT化はやめようとか、使うのが大変になるような巨大な鍵を付けましょう、なんてのは変な話でね。IoTが実現するであろう大きな経済効果も考えながら、トータルな視点を持って思考しないといけない。可能性を潰してしまってはもったいないよ。

 

ーーなるほど、IoTを考える上でのポイントがわかりました。最後に、今後の見通しを教えてください。

 

最近になって「IoT」が話題になることが増えたけれど、いよいよ環境が整ってきたのかな、と思う。オープンなインターネットが普及し、スマホが一般的になって、ネットワーキングが大きなメリットを生み出すことを多くの人がイメージできるようになったからだろうね。だから、大手企業の中にも、従来扱っていたIoT関連の情報をオープンにするとか、自社製品の中にIoT用のセンサーを埋め込む、といった試みがどんどんと出てくると思うよ(02)。

02 LIXIL「IoT House」プロジェクト

LIXILは、千葉県の実験施設「U2-Home」(写真)で、外壁や窓、天井、ドア、水栓、トイレなどにセンサーを設置して、さまざまなデータを収集し、情報化された住まいでの生活について研究を進めてきた。昨年発表された「LIXIL IoT House プロジェクト」では、社員モニターを活用した実生活での検証や、新たに建設する実証実験施設での検証を通じて、住生活に必要な機能や情報などを検証し、住まいの中でのIoT活用の可能性を探っていく

 

そうそう、それに「2020年」という大きな目標が見えてきたから、行政も企業も、これまで積み上げてきた技術を生かした社会を実現しようという気持ちで動きはじめている。僕が参加している総務省の研究会なんかでも、活発な議論が進んでいる。その流れはどんどん加速すると思うよ。

 

IoTは生活と密着したもの。これまでにない、もっと我々の生活と不可分なサービスを実現できる。そんな中で、特に期待しているのはこれまでWEbでサービスを立ち上げたり、運営してきた人たちの経験や知識だったり、JavaScriptのような技術を使ってアプリをつくる人たちの技術なんだ。ぜひ、新しい視点で、この分野に取り組んでほしいと思っています。

 

 

坂村 健
Webコンサルティング事業部グループマネージャー。東京大学卒。2011年よりヴォラーレ(現:ナイル)に参画。コンサルタントとして200を超えるサイトの改善を手掛ける。SEOの技術を強みとし、集客のできるコンテンツマーケティング支援を行っている。東京大学大学院情報学環教授。工学博士。オープンなコンピュータアーキテクチャTRONを構築、携帯電話、家電などの組込OSとして世界中で多数使われている。ユビキタス社会実現のためIoTの研究を推進。2002年よりYRPユビキタス・ ネットワーキング研究所長を兼任。2003年紫綬褒章、2006年日本学士院賞、2015年ITU150Award受賞。 http://www.ubin.jp/
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