
リスティング広告 ココを理解せよ!
Point 1 リスティング広告は集客ツールと自覚せよ
検索エンジンに入力したキーワードによって表示される「リスティング広告」。「どのキーワードが有効?」と考える前に、この広告の本質を知り、取り組むために必須の洗い出し作業から始めよう。
リスティング広告は、短期間で売上を上げるツールにあらず
リスティング広告は、GoogleやYahoo! JAPANなどの検索エンジンを利用した際に、キーワードにあわせて表示される広告のことだ。Googleでは「Google アドワーズ広告」、Yahoo! JAPANは「Yahoo! プロモーション広告」と呼ぶ。数万円から始めることが可能なネット広告なので、中には「数万円かければ数倍の売上を簡単に獲得できる」と誤解している人がいるかもしれない。これから始める人(もしくは、過去に失敗したリトライ層)はそうした誤解を抱かず、真正面から向き合うことが必要だ、と長橋真吾氏は説く。
「リスティング広告は、短期間で結果を残せるサービスではありません。一定の期間をかけて、広告費を払って“集客するためのツール”です」(長橋氏、以下同)
この認識が欠けていると、都合よくスポットでやってみたものの利益があげられない、と嘆く人が出てくる。
「例えば10万円を一度に使わず、3カ月で3万円ずつかけながら知見やデータを蓄積し、傾向をつかみ、改善していく地道な作業を継続する。その先に成果があるのです」
Check リスティング広告とは、広告費を投入し、時間をかけながら集客していくツール。

はじめの一歩は、自社を取り巻く現状分析
リスティング広告の「はじめの一歩」は何か?
長橋氏は自社と自社を取り巻く環境の「リサーチ」だと語る。
「リスティング広告で“集客”を行い、“売り”につなげなければいけません。実店舗であれば、どこに場所を構えるのか。人通りの多い場所に出したいというようなことです」
推奨したいのが、リスティング広告版の3C分析をすること。3Cとは、「市場(customer)」「競合(competitor)」「自社(company)」の頭文字である。
「最初に、GoogleやYahoo! JAPANなどの検索エンジンを使って、自社の業界や取り扱う商材ジャンルなど、想像しやすいキーワード(=市場)をひととおり検索しましょう。たくさんの広告が出てくれば市場が存在するということ。クリック単価が高くても、“市場=勝負できる場”がある。逆に、まったく広告が出てこない場合、リスティング広告向きでないワードだと疑うべきです。低予算しかないのでニッチを攻めたいという発想はおすすめしません。市場なきところに予算を投入しても、集客しようがないからです」
競合については、調べたキーワードのうち、中小企業がよく出てくるキーワードに着目せよ、と長橋氏は話す。
「大手ECサイトしか出てこないキーワードは、最初のトライには不向き。顧客は一度大手ECで購入すると、次回からは検索せずに直接流入するからです。中小企業が多いワードは、市場が固定していない証拠です」
3点目が自社についてだ。自社の強み=USP(ユニークセリングポイント)のことだけではない。詳しくは、LTV(ライフタイムバリュー)の算出について、次項で解説する。
Check リスティング広告をやる前に、徹底的に自社の現状を把握しておくこと。
Point 2 算出したLTVを基に大海原に挑む
リスティング広告で重要なのは、一定の期間をかけて利益を出していくという考え方。初月から偶発的なラッキーパンチを狙わず、コツコツ積み重ねるための指標を見出しておくべきなのだ。
LTVの算出方法を知り自社の強みを把握する
自社分析につながり、またリスティング広告でもっとも重要な考え方が「LTV」であると長橋氏は説明する。「顧客生涯価値」とも呼ばれるLTVは、「一定期間に新規顧客がどれほどの売上(もしくは利益)をもたらすか数値化したもの」。LTVの算出が、リスティング広告を具体的に進めていく確かな一歩なのだ。
「本来は1年が目安ですが、スモールスタートを検討するようなケースでは、長期間の広告費を検討すること自体が厳しいので、半年(それでも厳しければ3カ月)で考えてみましょう。1カ月単位で考えず、それなりの期間をかけて利益を出すのです」
ここでは英語学習を例にした。集客後の新規顧客にDVDを奨め、次回以降は英会話コースを行っていくビジネスモデルだ。これを半年間のサイクルで考えて、1人あたりの購買額を算出する。
もし直近だけで判断するなら、短期間でDVD分の利益相当額(ここでは約7,500円)で1人コンバージョンしないと赤字となる計算だが、半年間で考えると約1万2,500円のコストをかけて1人獲得できれば黒字となる計算だ。つまり、どれほどの期間を充てながら取り組むかを算出することでもある。
Check 高額商材となる場合、その分LTVの設定も長く置くほうが現実的。直近の獲得ばかりに意識がいくと失敗する。リスティング広告は中長期的な視野を忘れずに行おう。
迷うなら、レッドオーシャンを狙え
ここまでの工程で、自分が主戦場だと考えるキーワードをひととおり検索し、検索状況を確認してきた。おそらくビッグワードと呼ばれる、オーソドックスなジャンル名、業種、カテゴリで検索すれば、多数の広告が出てきているだろう。リスティング広告への参入は、こうした状況に飛び込むことだと再認識しておこう、が長橋氏のスタンスだ。
「リスティング広告が今日ほど普及している状況で、まだ誰も目を付けていないお宝ワードを追いかけるほうが非建設的です。“思ったより大変だな”“結構覚悟がいるのだな”、という認識が大切です」
大手企業、名だたるサービスがひしめくビッグワードと、たまたま見つけたスモールワードと、どちらか選ぶなら、迷わず長橋氏は前者だと強調する。
「市場があれば、方策が打てるからです。先ほど3C分析に絡めてお伝えしたとおり、リスティング広告に向いていないワードに力を注いでも、結局は時間と費用が無駄になるだけです。LTVを算出した上で改めて考えていただければ、先ほどより実感を持って納得いただけると思います」
ただし、である。レッドオーシャン(競争市場)に飛び込んだ後こそ追う者の知恵を働かせる。
「ビッグワードや有望なミドルワード(広がる市場)で勝負するには、ランチェスター戦略と呼ばれる、弱者が強者に挑むための有利な戦いに持ち込みます」
次からレッドオーシャンでの戦い方を解説する。
Check ここまでの長橋氏の経験より、スモールワード狙いこそが危険だという。「クリック単価が低いスモールワードが狙い目という考え方はロジカルに聞こえますが、実際はすでにみんなが群がっているものです」(長橋氏)
Point 3 集客後の「売り」と「リピート」がキー
リスティング広告で「集客」を達成できれば、売り(コンバージョン)とリピートというサイクルに顧客が乗ってもらわないといけない。どうしたら乗ってくれるのだろうか?
売上の確保には集客→セール→リピート
いよいよ覚悟を決めて‥‥だが、百戦錬磨の上位表示の猛者にはかなわない。レッドオーシャンでは、周りと異なる泳ぎをする(独自性を出す)ことだ。
「競合と違う訴求軸を打ち出すのです。価格重視が多いなら、品質重視で攻めると決める。商材に自信があるなら、高価格高品質訴求はアリです」
リスティング広告の原点は、調べにやってきたユーザーの心理を捉えることだ。調べる姿勢に入っているユーザーに響きやすいのは何か?
「価格重視のサイトが並ぶ中に、価格とは違う軸の攻め手があると、際立ちます。ユーザーが比較モードに入った際に、振り向かせることができるか。セール(売り)につながるかどうかの分かれ目です」
次に、王道の訴求軸を選ばなくても、同じ競合軸の相手はいる。その中で最上位を徹底マークするのが長橋流だ。
「自分は品質訴求で勝負と定めた場合、例えば上位3番手や4番手あたりの候補が品質重視の訴求をしているなら、その相手に関する広告テキストの文言やランディングページ(LP)のあり方を検証します。広告テキストに磨きをかけて、LPを最適化する。競合相手より少しでも印象のいいLPをつくりましょう。そうすれば、自分のところに誘導できる確率が高まっていきます」
Check あらかじめ集客後の導線設計をしっかりとつくっておくこと。LPを充実させる、さらに商品力を高めておく。集客ができてもLPの質が厳しければセール(売り)に至らず、商品力に疑問があればリピートとはならない
リスティング広告は営業担当を一人雇うのと同様
一定の期間を見ながらLTVを算出し、市場のあるキーワード(レッドオーシャン)で勝負を試みたが、なかなか思うようにいかなかった‥‥その際はどうすればいいのだろう? 長橋氏は続行か撤退か、最後はビジネス判断だと強調する。
「リスティング広告は、期間をかけて行うほど当然ながらデータが貯まってくるので、対策に磨きがかけやすくなるのは確かです。少しでも予算があるなら続行をおすすめしたいですが、続けるにはどうしても予算が厳しいという場合、撤退や一時的にステイするという判断を否定するつもりもありません」
つまり、リスティング広告=収益のためのビジネスであり、優秀な営業を雇うのと同義だということだ。あとは、磨きをかけ育てていくべきなのか、もういらないとするのか。
「すでに伝わっていると思いますが、ウルトラCは存在しません。人材に投資するように、リスティング広告に対して投資するのかどうか、なのです。人材への投資と違うのは、リスティング広告を通じて得たデータは、ユーザー属性や行動履歴など、ユーザーデータの塊を入手している、ということです。データの解析を続け、継続的に改善していれば、着実な結果が出しやすいのです」
ここまで、第一歩を踏むためのあり方について解説してきた。率直に、知識や経験がいる難しい主戦場であることがわかる。
「裏返すと、適切な知識に基づいて行動すれば、成果の出しやすい世界なのです。その意味では、厳しい局面であっても十分に備え、勉強しておけると、準備期間での数々のコストが実りに変わってくれるでしょう」
Check 成果に向けての、地道な一歩の基本は、検索エンジンを使ったリサーチ。「競合会社のサイト分析はSimilarWebなどの競合分析ツールを利用すると便利です」(長橋氏)

- 教えてくれたのは…長橋真吾
- (株)リスティングプラス代表取締役社長。著書に『なぜ8割の企業がリスティング広告で失敗するのか?』(海拓舎出版刊)。https://ppc-master.jp/