[格之進]特別感とビジョンでコアなファンを掴む

参加するとファンになるイベントの秘密

岩手県・一関に本社を構え、都内を含む10のレストラン、さらにオンラインストアも展開するなど、熟成肉で人気を集める格之進。さまざまなメディアで取り上げられる同店は、こだわり抜いた肉を使用した数々の料理はもちろんだが、ある取り組みによってお客様とのエンゲージメントを高めている。

それが熟成肉の解体ショーや、寿司屋とのコラボ、白ワインとのコラボなど、各店で開催されるさまざまなイベントだ。とはいえ、レストランが特定のテーマを設けたイベントを開催するのはそれほど珍しいことではない。格之進のイベントがユニークなのは、イベントをお客様が企画して、集客まで行う点だ。

格之進のイベントの仕組み

たとえばある人が、熟成肉とチーズのマリアージュを楽しんでみたいと格之進のスタッフに相談すると、そのリクエストに沿った特別な料理の数々をイベントのためだけに考え、提供する。代わりに、発案者はそのイベントの幹事となって、友人などを誘って集客する仕組みだ。一見、いわゆる飲み会と同じようにも思えるが、多くの飲食店では、いくつかの価格帯のコースに応じて、決まったメニューを提供するのが一般的。それを格之進では発案者の要望にあわせて、ふだんは取り扱わない食材などもわざわざ取り寄せ、提供する料理を細かくカスタマイズする。それゆえ、発案者はもちろん、参加者の満足度も非常に高くなると、格之進を運営する株式会社門崎の代表、千葉祐士さんは言う。

「今は自己実現欲求の高いお客様や、いつもとは違う特別感に高い価値を見いだすお客様が増えているように感じます。そうしたお客様の『やってみたい』を、格之進の店舗や、お肉を使って実現するのがこの取り組みです。通常はないメニューを提供して、いわば特別扱いをするので、1度イベントを開催してくださったお客様とは、以前とまったく関係性が変わり、格之進の非常にコアなファンになってくださる方がほとんどです」

こうしたイベントを初めて開催したのは2008年。常連のお客様のリクエストに応える形で開催し、今では毎月、各店で1~2回は開催している。1回のイベントは約3時間程度で、30人前後が参加。1人あたりの料金は内容によって異なるが、1万円を下回るものはないという。こうしたイベントが成功する理由を、千葉さんはこう説明する。

「うちの店に来店されるお客様は、皆さんとても食への意識が高いので、ふだん食べられないようなもの、おいしいものには価値を感じてお金を払ってくださる。そうしたお客様が多いことが、イベントがうまくいっている理由だと思います。岩手に本社があるので、お付き合いが深くなったお客様が岩手に遊びに来る際にアテンドすることもありますね」

格之進

六本木にある「肉屋 格之進F」を旗艦店に、都内に7店舗、岩手に3店舗を展開するレストラン。熟成肉にこだわる同店では、お客様のリクエストに応じたさまざまなイベントの実現のほか、他業種とのコラボも受け付けている

 

ビジョンを伝えることで店への信頼感が向上

イベントは発案者がTwitterやFacebookなどを使って友人を誘い、集客するため、店舗側にかかる集客コストはゼロ。さらにテーマ性を持ったイベントには似た嗜好や興味を持った人が集まりやすくなるため、参加者は格之進の新規顧客になりやすいというメリットもある。格之進のユニークな取り組みとしては、ほかにユーザーミーティングが挙げられる。これは常連のお客様に店に集まってもらい、格之進について意見をもらう場だ。

「ユーザーミーティングは、格之進をよりよくするためにお客様の声を聞いたり、お客様がやりたいことを聞いたりする会。いわば格之進の経営に少し関わってもらうようなものです」

また、千葉さんが常々、強く意識していることが、お客様に店のビジョンを伝えること。

「日本の食と農の未来を、消費者と生産者とともにデザインするというのが私たちの考え方。未来に残すべき生産者の商品をお客様に知ってもらって、お客様に食べてもらうことで投資してもらう。こうした私たちのビジョンをお客様には伝えていきたいと思っています」

Webサイトでビジョンを伝える

格之進のWebサイト。トップに「一関と東京を食で繋ぐ」という同店のビジョンが大きく表示されているのが特徴

繋がりを感じさせるコンテンツ

Facebookによる発信のほか、ユーザーによる格之進についてのブログなどを許可を得て転載。ファンの“熱さ”が感じられる

http://kakunosh.in/history/

 

実店舗でブランディング オンラインストアで収益

さらに、お客様発案のイベントやユーザーミーティングなどを通してコアなファンが増えることで、オンラインの売り上げにもつながりはじめている。

格之進のWebサイトでは前述したイベントのレポートのほか、肉へのこだわりが伝わるコンテンツを展開。オンラインストアでは、店を代表する熟成肉のほか、地元食材を生かした素材にこだわったハンバーグやメンチカツを販売している。千葉さんは、オンラインストアの売り上げ向上に欠かせないのが、お店への信頼だという。

こだわりを伝えるコンテンツ

格之進の肉に関するこだわりが感じられるコンテンツも豊富にアップ。同店のこうした姿勢もエンゲージメントの向上に寄与している

http://kakunosh.in/kanzaki-aging-beef/

「店舗を信頼していただければ、オンラインでも買っていただける。今後は、実店舗でブランディングして、オンラインストアで利益をとるという方向性をより強くしていきたいと思っています」

利益はECサイトで

「今後、ビジネスの柱に育てたい」と千葉さんが話すオンラインストア。実店舗でブランディングしてファンを増やし、オンラインで利益をあげるのが理想だという

http://kakunosh.in/store/

お客様との強いつながりに興味を持ち、他業種の飲食店などから相談も増えているという格之進。だが、それはあくまで結果でしかない。

「エンゲージメントを向上させるために何をしようと考えたことはありません。お客様に喜んでもらうために、どうすればいいのかを考えた取り組みが、結果的にエンゲージメントの向上につながったということ。今後もお客様に喜ばれるような企画やコラボをどんどん実現していきたいですね」

実店舗をブランディングの最前線と位置づけ、特別な体験を提供することで、ユーザーのエンゲージメントが向上し、実店舗、さらにはオンラインストアの売り上げ向上にもつながっている格之進。同店の取り組みは、集客に悩みを持つ飲食店はもちろん、その他の業種にも参考になるだろう。

 

教えてくれたのは… 千葉祐士
株式会社門崎 代表取締役
  • URLをコピーしました!
目次