
地域別攻略(3)アメリカ編 情熱と緻密なブランド戦略で挑む
挑戦者を受け入れる世界一のマーケット 成功は簡単ではない
アメリカと日本はビジネスにおいても多くの行き来があります。しかも事実上世界の公用語たる英語の世界なので、そのほかの言語の地域に比べて日系企業が目指しやすい国という印象もあるでしょう。しかし、まず知っておきたいのは「地の利」での障壁、そして現地の人件費など諸々のコストの点です。
オンライン上でのみサービスを提供するのであればよいのですが、物販やストア展開を考えている場合は、まず地の利の面で日本からは遠すぎるのが問題です。たとえ越境ECといっても、1商品ごと日本からコツコツ商品を発送していては時間的にも送料的にも高くつき、競争力が落ちてしまう商品が大半です。そうしたことがアメリカ展開を思い立った時点で意外と盲点になっている場合があります。もし本格的に販売を行いたいならば、現地に倉庫や製造場所などの拠点が必要となります。
次の問題はアメリカは総じてコストが高いという点です。日本と同じような生活水準の国と考えても、プロフェッショナルに支払うギャラは日本の同じ職種の人間に比べたら高目です。一言でいえば、起ち上げのコストはアジアで小規模な小売りを始めるのとは比べ用もありません。その数年分の起ち上げの出費を確保してでも進出しよう! という情熱と強い決心がアメリカ上陸へのファーストステップとなります。

日系の強みは「食」と「美容」技術力の高さや繊細さのイメージが活かせる分野
「アメリカには、日本製だからその商品を欲しいと考える人は基本的にいないと思ってほしい」と言う結城喜宣さん。アジアではまだ「日本製」が強い売りになる面があり、日本国内がインバウンドブームに沸いているため世界が「日本はすごい」と思っている感覚に陥りがちです。しかし、アメリカでは違います。
多くのアメリカ人にとって日本の存在は知ってはいても、基本的には極東の「遠い国」。憧れや具体的な知識を持つのは一部で、まったく興味がないのが普通と考えるべきでしょう。逆に日本製品だからという理由で売れないこともありません。本質的にバリューがあるものを買いたいという心理はむしろ強い傾向があります。
「もちろん、日本発のイメージをフックに成功するケースもあります。例えばラーメンブームはまだまだ続くでしょう」
アメリカでラーメン・レストランが流行りだしたのは2012年頃で、現在もブームが続いています。滞在時間が長く、日本より客単価が高いのも面白い点です。
「また、“KビューティからJビューティへ”というフレーズで、日本の基礎化粧品などが西海岸では人気を集めています」 これは、日本人の肌がきれいというイメージや、ハイテク技術で肌を変えるという信頼が価値を下支えしているようです。そのほかにも食品関連は引きが強く、肥満人口が少なく長寿という日本人のイメージが商品イメージを良くしています。ただ何事も「日本製だから良い」というセールス手法はNGです。技術や顧客にとってのメリットがハッキリわかるロジックを伝えることが重要です。
実際に「日本風」でいいなら韓国製でもベトナム製でもよく売れます。それを表しているのがアメリカの日本料理店で、日系オーナーの日本料理店がわずか10%以下という現実です(厚生労働省調べ)。「正統な本物」より「心地よくアレンジされた味」を好むのはどの国の人でも同じことと言えるでしょう。
なお、アメリカは地理的に広いためエリアを絞ってスタートするのが一般的です。東海岸はファッション、フード関連の進出が多く、ITや健康、食品、美容などは西海岸が多い傾向があります。
PRが行き届けば下火だったジャンルがアメリカで成功した例も
先に述べた以外の商品や業態でも、もちろんアメリカ進出は可能です。むしろ、日本ではありふれた業態が驚きをもって受け入れられるケースもあります。
そのひとつの例がワイズアンドパートナーズが行うブランド・キャンプ®にも参加し、アメリカ進出を成功させた地方発の古着ショップ「セカンドストリート」です。同社は日本全国に店舗とオンラインショップ、下取りのシステムを持ちますが、社長の昔からの夢だったアメリカ進出を果たしました。現地で注目を浴びたのは、アメリカでは「汚い」「臭い」「わかりづらい」ショップの象徴となっていたユースドショップのイメージを変えたことです。日本では比較的見慣れた風景であるサイズごとにきれいに並べられた古着や、丁寧な接客、オシャレなコーディネーターによるアドバイスなどが「きれいで楽しくて安い古着店」という好感度に結びついたのです。
また、ファストファッションの大量廃棄や労働者搾取などの倫理的な問題を抱えるファッション産業において「捨てようと思った服がゴミにならずに蘇る」ことが、エコ感覚に敏感な西海岸の文化に受け入れられました。このように「価値」をハッキリとアピールできることや、それを応援したくなる社会的な背景までをブランドに取り込むことができた点が、成功の大きなポイントになったと言えるでしょう。
日本以上に大きいソーシャルメディアやオンラインPRの威力
セカンドストリートの場合、地元テレビ局やクチコミメディアなどで紹介されたことも追い風となりました。アメリカでは日本以上にネットのクチコミ力は大きく、ユーチューバーやインスタグラマーも大きな影響力を持ちます。

また、PRに関しては個人から大手メディアまで「ストーリー」として価値があると判断すれば無料で取材や記事作成をしてくれます。バーターを気にする必要がないのはメリットですが、それには説得力のあるストーリーづくりが企業側に求められます。戦略なしにスタートしたビジネスは売り場の開拓や、PR面で展開が難しくなります。そのため、ブランドづくりというわかりやすい「価値創成」を進出前に行っておくべきです。
なお、ECに関してもアメリカは先進国で、アメリカ人は日用品など日本人以上に買い物をオンラインで済ませたがる傾向があります。AmazonのEC部門の売り上げは、うなぎ登りを続けており、2017年の販売総額は12兆円レベル。日本法人の1.3兆円の10倍近くのスケールです。米国向けにネットショップを自前で用意するのか、アマゾンセラーを使うか、どちらもメリット・デメリットがあるため、一考の余地があります。
現地感覚を大切にプロフェッショナルに任せる決断も必要
心構えについて注意点を述べましたが、どうしても日本人だけで日本の感覚で考えていると「アメリカでは通用しない」出来事に遭遇するはずです。
特にブランディングコンセプトや商品のネーミング、ターゲット、アピールポイントはネイティブの感覚を確かめる必要があります。この「感覚的な違い」はさまざまな面に表れます。日本人が好む至れり尽くせりなサービス精神よりも、シンプルで使いやすいものが好まれます。
Webサイトの構成やSNSに載せる写真1つとっても、要点がしっかりわかり、重複のないランディングページが好まれます。コピーも日本と大きく違うため、クリエイティブは現地人材に参加してもらうのが効果的でしょう。アメリカは細分化されたプロフェッショナルが存在し、価格がスキルに比例しますがクオリティは全体的に高めです。
まずは、情熱と自社の商品価値。そして最後にスピードが重要です。準備が1~2年での進出は珍しくなく、逆に急がなければすぐに安く誰かにマネされてしまうのが世界の現実です。自分たちの価値を信じてすばやく動くことが求められますが、そこから開ける世界は大きいことは知っておきましょう。

- 教えてくれたのは…結城喜宣_Nobu Yuki
- Ys and Partners, inc. および ワイズアンドパートナーズ ・ジャパン株式会社 取締役社長 エクゼクティブクリエイティブディレクター