リモートワーク時代のCMS運用体制

CMSの導入には、必ず目的が伴います。導入後の運用を見据えた、社内外の最適な体制づくりも大切です。リモートワーク対応が増える状況にふさわしい、CMSにまつわる開発から運用までの体制のつくり方について、導入支援や開発業務で実績が豊富な(株)マイクロウェーブに話をうかがいました。

教えてくれたのは…

高田志郎さん(株)マイクロウェーブ 執行役員
関 俊春さん(株)マイクロウェーブ セールス本部 マネジャー プロデューサー

リモートワーク体制でのCMS案件の変化について

リモートワークが求められる昨今、さまざまな業種業態で、出社を前提とした従来の働き方が考えづらい状況となっています。まずは私たちマイクロウェーブが、この1年のCMSに関する案件で見られる傾向をここに共有します。

CMS導入を進める企業や組織が、リモートワークを念頭に置いて、CMSの「機能」自体に、従来と異なる要望が増えたかと問われると、そのようなことはありません。しかし、リモート環境での作業が増える背景を意識して、実装したい機能や更新体制の見直し、セキュリティ(保守)などの要望、開発中のコミュニケーションやリリース後の運用中のサポートなども含めた総合的な対応を相談される場面が増えています。

他にも、対面業務が減少したことで、顧客との接点の場としてWebサイトへの期待が増大する企業・組織が多々見られ、結果としてWeb案件への投資の増加傾向を感じています。簡単でタイムリーに更新しやすいCMSへの需要・関心が増している状況です。コロナ禍の状況も1年ほどとなり、手探りの状態から現場に適った状況を各企業が見出しつつありますし、以前までならデジタル施策そのものに消極的だった組織でも、現状の突破口の1つにCMSが考えられやすい状況があります(01)。

01 リモート時代のCMSへのニーズ

CMSの検討から導入、開発中から実装後の運用まで、リモートワークでも対応可能なことを想定したニーズが出てきています。

CMS導入を検討する前に自社内の体制を整備しよう

本格的にCMSを運用したい場合、お勧めするのが、あらかじめ社内のリモートワーク体制を整備しておくことです。CMSに対して、社内・組織内でリモート環境でどう対応するのかを事前に決めておくといいでしょう。今後、導入に向けてパートナーとなる開発・制作会社とやりとりする際にも、社内体制が事前に整理できていれば、パートナーもCMS導入の要件定義対応に専念できるからです。

例えば、そもそもリモート体制で、社内のCMSの更新作業ができるようにするのかどうか? これは組織としての判断になります。世の中がリモートワークを推奨するけれど、会社が運営するWebサイトの更新はセキュリティ上、社内環境のみで対応するという判断も考えられます。ただし、今後もリモートワークの比重が大きく、従来型の対面業務の働き方に戻る可能性が小さいと判断するなら、CMS対応はリモートワークを十分意識して導入・構築するのが無難です。その前提に立って企業・組織内の意向やルールを整えておくと、社外対応が必要な場合もスムーズです。

これまでデジタル案件そのものに積極的でなかった企業や、これから始めたい組織は、現状ではルールの整備が追いついていない可能性が高いです。自社内の整備は急務とも言えます。

その他、リモートワークに対応する前提で、CMSにどういう機能を望むのか、どれくらいの範囲の社員がリモート対応OKとするのか、対応OKに伴いインフラは整備するのか、コンテンツ更新に関わる部門はどこなのかなど、おおよその見通しをつけておくといいでしょう(02)。部門単位で考えずに、チャネルやコンテンツごとに権限設定を変えるという判断もあります。

こうして社内の方向性を決めておけると、パートナーはその状態にあわせた対応がしやすくなります。決めていないと、パートナーはリモート体制のあり方を問うところから交渉せざるをえず、その分リソースを消費し、納期も遅れます。

02 リモートワークを前提に、CMS導入へと動く前にすべき整備

CMSを導入して運用する場合、リモートワーク前提でOKなのか。その場合にCMSに絡めてどこまでCMSそのものに機能を持たせるのか。運用方法を含めて、CMSに求めることを洗い出しておくと、パートナー(開発・制作会社)にも相談しやすくなります。

運用のあり方を支える3要素「予算」「品質」「期限」

社内体制の整備を確認したら、次にパートナー企業を交えての動き出しです。そこで、ビジネス最適化などの「目的」に基づく「運用」(例えば、目的達成のためにタイムリーに更新し、成果を導くこと)ができるためのCMSを導入する必要があります。運用フェーズに至る前に押さえておくべき、重要な工程です。

導入には、目的に紐づく「予算」「品質」「期限」の3要素を明確にできると、しっかりとスタート段階で「要件定義」を固めることができます。

さらに今後は、「リモートワークでの対応」という要素も加味します。その分、将来的な汎用度が増します。CMS案件は、開発が進んだ段階で足りない要素に気づいても、リカバリー対応が難しいことがあります。予算内だと機能追加が厳しい、開発工数が重なれば納期に間に合わないなどが出てくるからです。

中でも、顕著に感じるのは、「品質」への相談です。例えばコーポレートサイトの場合、機能面だと情報ログの管理。誰がいつコンテンツを用意して公開したのか。機能としてCMSにログが残るように実装するのか? リモート体制を見越して多段階承認機能を実装する選択肢もある一方で、機能の追加は予算や開発工数が上乗せされ、納期も延びます。そもそも実装機能を使いこなす社内フローづくりが必須です。

非機能面では、セキュリティの強化やシステム障害を避ける可用性について、以前より議題に上がりやすくなっています。目に見える機能面と異なり、保守などの非機能面は予算想定に入っていない場合もあります(03)。VPNを設定して、リモート環境でも社内CMSへ安全にアクセスできたり、更新機会を考慮しながら、アクセス可能な社員ユーザーの範囲を限定することなども検討します(他にも、ECサイトなど個人情報を取り扱う場合、リモート対応のレギュレーション自体が異なってきます)。

03 リモートワークに対応する要件定義のつくり方

導入目的に関連する事項を、予算・品質・期限の3要素別で洗い出し。特に品質面は、機能面と非機能面に分けて洗い出し、 検討項目を見落とさないこと。最終的に予算や期限も考慮しながら要件定義を固められれば、開発後のトラブルを回避できます。

リモート時代のCMS案件の社内外体制

要件定義をきちんと固めることと双璧をなす、CMS案件で大切なことが社内外の体制づくりです。CMS開発で遭遇しがちなことが、予算のほとんどを開発に回し、開発後の保守や、運用などの更新作業に予算が残っていないケースです。運用目線で言うと、「いざ更新」となった場合に社内外のフローの構築が検討されていないことを意味します。要件定義を固めながら、並行して開発~運用体制も見据えておけば、「設計」段階の前に要件定義の足りない要素や不備にも気づける可能性が高まり、後工程への支障も最小化できます。

リモートワークという環境も加味すると、開発や運用フェーズではリモート体制で成立するコミュニケーション方法を確立しておきましょう(04)。対面の機会が限られると仮定すると、その中でも対面となる場合、どういう場面だと対面で打ち合わせをするのか? 対面が必要となる際の条件や状況について、事前にパートナー側と決めておきます。他に、日常業務上の軽めのやりとりはSlackなどのチャット系ツール、フェーズ別のプロジェクトの進捗状況はBacklogなどを活用するなど、用途によって使うツールも定めておきましょう。

弊社が各企業とやりとりしてきて、多くの相手はこの1年でリモートワーク用のレギュレーションができつつある一方で、まだ手をつけきれていない企業も見受けています。もしその状況であれば、社内で利用可能なデジタル系ツールを決めておきましょう。その内容がパートナー側が提案するツールと合致しない際は、使えない理由を伝えつつ、代替ツールの提案(似た役割を果たすツールの目処)もつけておきたいところです。

また、各フェーズの区切りが来たら、ドキュメントも残しましょう。パートナーには必ず作成依頼をします。ドキュメントは、決めごとの明文化ですので、後々のトラブル回避にもつながります。

04 リモート環境を加味した社内外の開発プロセス体制

導入段階から開発後の運用フェーズまでを含めて、社内外の立場の異なる人たちの関わり方、関係性を確認できる体制の一例です。リモートワークを意識して、日常業務で連携できる仕組み(ツール連携、ドキュメント作成、保守・サポート)を十分に考慮して、体制を組みましょう。

Text:遠藤義浩

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