CMS導入がもたらすビジネスメリット

近年の企業サイトでは、サイト構築はプロの制作会社に依頼し、運用は自社で行うというスタイルがスタンダードになっています。自社で簡単に更新できるCMSを導入することは、ビジネスにおいてさまざまなメリットを生み出しています。


教えてくれたのは…西牧八千代
プライム・ストラテジー(株)取締役CMO。プライム・ストラテジー(株)の創業メンバーとして16年間、経営全般のほか、ブランド戦略、Webマーケティングに携わる。企画執筆した『本格ビジネスサイトを作りながら学ぶ WordPressの教科書』(SBクリエイティブ)は2012年度「CPU大賞(書籍部門)」受賞。
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サイト運用のQCDを向上させる

CMSを導入することによって、Web運営にもたらされるメリットは一言でいうと「QCD(クオリティ、コスト、デリバリー)」の向上です。

CMSでは管理画面で集中管理ができ、テンプレートやプラグインなどの設定をしておけば必要な機能が自動的にWebページに埋め込まれます。HTML時代に1ページずつ制作していた頃に起こり得たリンクミスやナビゲーションの不備などといった人為的ミスが起こらないため、常にクオリティを担保できます。

また、管理画面の操作はとても簡単なので、Webへのリテラシーが高くなくても投稿ができます。そのため少し使い方を覚えれば、社員の誰でも投稿作業を簡単に行えるので、リソースや時間といったコストを抑えることに繋がります。そうすると当然、更新スピード(デリバリー)も速くなります。

企業の投稿の場合、マーケティングやPRといった業務目的を持ちますが、こうしてCMSがサイト運営の生産性向上に貢献すると、良いコンテンツの作成に集中しやすい環境が生まれます。CMSは優良なコンテンツ作成の大きな助けとなるものなのです。

01  生産性向上の3要素「QCD」とは?

Quality(人的ミスの軽減による運用品質の保持)
Cost(作業効率の向上による運用コスト削減)
Delivery(作業効率の向上による運用コスト削減)

CMSの導入によって、クオリティ、コスト、デリバリー(更新スピード)を高めることができます

自社運用できるメリット

多くの企業がCMSを導入する理由で一番に挙げられるのは、自社での運用が可能になるという点ではないでしょうか。Webページを増やすごとに外部の制作会社に依頼するとなると、費用が発生しますし、打ち合わせなどの時間や労力、実際に投稿されるまでのタイムロスが発生します。また、社内で更新できるとしても、Webのリテラシーが必要となる場合は限られた人しか投稿できず、その人の手が空かないと投稿できない、あるいはその人が辞めてしまうと他の人では投稿の仕方がわからないというようなことも、かつてはよくある問題でした。

しかし、CMSは誰でも投稿できるため多くの人で分業したり、それぞれが担当する分野ごとに更新を振り分けることができます。投稿の履歴が残るので、他の人が間違えて上書きして記事が消えてしまい復旧できないということもありませんし、自身が関わる部分だけを投稿できるように管理権限を設定することもできます。

スマートフォンが浸透し老若男女がインターネットを利用する現在において、企業情報がWebで調べられることは多いです。もし何年も更新されていないサイトを顧客や求職者が見たら、「この会社やお店は現存しているのだろうか?」「自身が望む最新の情報を得られなかった」という心象を持たれかねません。更新が容易になることで、Webサイトで最新の最適な情報を発信できているということは、ビジネスの面で重要です。

また、問い合わせが多くありそうな内容をあらかじめWebサイトで公開しておくようにすれば、電話やメールでの問い合わせ対応の手間が省かれるだけでなく、情報を知りたいユーザーにとっても負担が軽く済みます。お詫びなどの急な情報発信が必要となった際にも迅速に対応できます。

しかし、運用中にトラブルや不明点が発生することがあります。サポートしてくれる専門の会社は必要となるでしょう。

02  CMSでよく起きる問題

・ CMSのバージョンが古い
・ CMSのコアが編集されていてアップデートができない
・ 以前サイトをつくってもらった制作会社がなくなった
・ 制作会社が独自に作ったテーマを利用しているため、他社ではサポートしてもらえない
・ 社内の知識のある人がサイト構築をしたが退職してしまって誰も分からない
・ パスワードが分からなくなってログインができない
・ サイトが改ざんされてしまった

CMS運営において実際にクライアントからよくある問い合わせには、上記のようなものがあります

CMSの機能性でビジネスを助ける

CMSの機能性には、ビジネスをサポートしてくれることも期待できます。

たとえばQCDの向上によりコンテンツ作成に集中できるようになると、コンテンツのクオリティが上がることにも繋がります。優良なコンテンツは検索サイトで上位に表示されるので、検索からのサイト流入が増えます。CMSにはSNSへのシェアやいいね!ボタンをプラグインで簡単に設置できるので、そこからSNSへ広がり、さらに拡散されるというSMO(ソーシャルメディア最適化)の効果が期待できます。

また、ごく基本的な機能ではありますが、予約投稿も作業の効率化に繋がります。CMS以前は、任意の日時にプレスリリースなどを公表したいとしたら、投稿時間にWebサイトを更新可能な環境にいる必要がありました。毎日1本の記事を出すというような運用の場合も、CMSでは時間のあるときにコンテンツをつくり溜めしておき、アクセスが最大化する時間帯に予約投稿をすることで、効率的な業務と効果的な運用が可能になります。

また、社内で複数のサイトを運用している場合は、一つの管理画面で複数のサイトを管理することもできるので、都度ログイン・ログアウトする面倒臭さはありません。コンテンツの更新はスマートフォンやタブレットのアプリからも簡単に行えるので、社外から緊急でサイトの更新が必要になったときも対応しやすいという点でも業務を効率化してくれます。

最近は、ほんの数ページのWebサイトの場合でもCMSでの制作依頼が多くなりました。便利な機能を活用できるうえ、既存テーマやプラグインを活用すればより短時間で制作することができ、制作コストも抑えられるからでしょう。

03  SNSプラグイン設置によるSNS最適化

CMSを導入することでサイト更新の負担が軽減されることにより、コンテンツのクオリティを高めることに注力でき、検索順位が向上したとします。その場合、SNSへ拡散するプラグインを利用することで、検索から流入したユーザーからの拡散、さらにSNSからの訪問を期待できます

CMSが企業に求められる社会的背景

CMSの導入でQCDを向上させることは、現在企業に求められているさまざまな働き方の改善にも寄与します。

国内ではIT人材不足も問題になっているなか、「働き方改革関連法」が大企業は2019年4月から、中小企業は2020年の4月から順次施行されます。これにより、残業の上限規制や同一労働同一賃金といった決まりに企業は対応していかなければなりません。

さらに月45時間超の残業をさせる場合は「36協定」上、社員の健康対策が企業に義務付けられるなど、企業への制約が強化され、効率的な働き方・生産性の向上は企業がクリアしなければならない重要課題となっています。

そうした中、世界的にも「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が注目されるようになっています。「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という概念で、2004年にスウェーデンのエリック・ストルターマン教授によって提唱されました。簡単に言うと、「ITによる業務改善」ということになります。国内では、2018年に経済産業省から、DX推進のためのガイドラインが出されています。

日本マイクロソフト(株)の調査によると、DXでは「利益率向上」「コスト削減」「生産性向上」「生産・運用時間の短縮」「顧客獲得時間の短縮」という効果が期待でき、すでに取り組んでいる企業では、それらの効果が2020年までに80%以上向上すると予測されています。

また、世界的に見ると、大手企業の約4分の1がDXの推進・支援などを担うCDOのポストを設けるか、それに相当する役割のリーダーを採用しています。国内では2016年頃から増えはじめ、現在は大手企業の5%以上がCDOのポストを設けています。

CMSの導入はWebサイト運営においてコスト・人的リソースの削減、制作時間の短縮といったことを実現できます。企業が、特にITの技術によってさらなる業務の効率化を求められているなか、その一助としても有効なツールと言えるでしょう。

04   企業が置かれている社会的背景

働き方改革関連法や36協定によって、多くの残業をすることが困難になっていくうえ、IT人材が不足しています。そうした状況の解決策としてITによって業務改善をする「デジタルトランスフォーメーション」が有効だと考えられており、CMSによる業務効率化もその一助となるでしょう

Text:平田順子

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