ビジネス最適化につながるCMS選びのための準備
(株)アリウープは、Web 制作とコンサルティングで定評がある会社です。WordPressなどのオープンソース系CMSや、国内各種の商用CMSなど、さまざまなCMSの導入案件に携わるため、CMSの選び方に関して取材すると、「選ぶ前の準備こそ大切」だと、同社の田島邦彦さんが語ってくれました。
“CMSありき”で進めない先にCMSを選ばない
CMSとは、コンテンツを管理する仕組み(Content Management System)であり、Webサイトの効率的な「運用」のために導入します。
だからこそCMSを選ぶ際に、常に立ち返ってほしいのは、「なぜ導入するのか」です。ビジネスの最適化を念頭に置く場合、「CMSありき」であることは好ましくありません。CMSの導入はビジネス最適化の手段の1つであっても、必須条件ではないからです。
前提として、CMS以外の最適なソリューションは本当にないのか? 予算など諸条件も勘案しながら、CMS以外の選択肢の有無を確認してください。私たちが問い合わせに対応する場合、CMSの導入を前提にした相談は多いですが、必ずCMSありきにならないようにしています。新規にしても、乗り換えにしても、CMSの導入は課題を克服する手段の1つであること(他にも手段があること)は忘れないでください。
また、CMSと聞くと、頭に浮かびやすいのがWordPress(以下WP)という人は多いでしょう。私たちもCMS案件の中で、WPの導入を提案する機会は少なくありませんし、個人や組織を問わずWPが普及していること、サーバなどの諸経費は除くとしてWPそのものは無償であることから、WPを扱うベンダーやWPの開発に長けたWeb制作会社も多いです。企業のWeb担当者の中には、プライベートで使ったことがあるという方もいて、心理的にもハードルが低く話が進めやすいCMSなのは確かです。
ただCMSは、オープンソースだけで考えてもJoomla!(ジュームラ)やDrupal(ドルーパル)など、当然WP以外にも存在します。商用CMSとなると、さらにさまざまなCMSが、機能の違いや価格設定別で数多く存在します。
CMSを選ぶ上で大切なのは、CMSありきとならず、直面する状況がCMSの導入に向いた事案かを見極めること。CMSの導入が最善の選択だという根拠を導いて初めて、最適なCMS(WPなのか、他のオープンソースなのか、商用CMSなのか)を選んでいきます。
CMS導入に最適な4つの状況
私たちに寄せられるCMSに関する相談に対して、実際にCMSの導入や乗り換えを提案するケースを紹介します。
【1】コンテンツ編集担当者が複数部門にまたがっている
【2】コンテンツの公開/更新フローが決まっていない
【3】リモート(遠隔地)での公開や更新を可能にしたい
【4】多言語対応したい
おおよそこの4つが挙げられます。CMSを検討中の方は、これら4つと状況が似ているかを参考にしてください。
コンテンツを管理するCMSだからこそ、コンテンツの公開や更新の工程にボトルネックがあると、新規にCMSを導入するか、運用中のCMSを別に乗り換えて更新フローを立て直すという判断が浮上します。4つともに言える共通点は、コンテンツのあり方やフローにまつわる課題だということです。
【1】でよくあるのが、CMSの社内運用で、コンテンツ編集を異なる部署が担当するため、公開/更新ルールが一本化できず、更新ペースがまちまちになったり、更新しなくなるケースです。 【1】に限らず相談の中には、解決策が、CMSの導入や乗り換えよりも運用体制に求められるケースがあります。CMSと運用体制側の相性がよくない場合は、CMSそのものより体制を見直すことで支障が出なくなる場合もあります。となると、 【1】はCMSの導入と運用ルールをセットで確立したほうがいいでしょう。
【2】は、【1】にも通じる話ですし、同一部署内でも起こりえる問題です。きちんとした運用ルールがチーム内で確立していないと、一部の偏ったユーザーだけが更新、といったことが起きます。また、CMSと運用体制側の相性がよくないと、過度に運用負荷がかかり、更新の遅滞にもつながります。例えば、管理画面が思ったようにカスタマイズできなかったために、操作慣れしていないユーザーが管理画面を目の前にして戸惑うようなケースも出てきかねません(01)。
状況分析こそCMS選びの肝
【3】は、更新ルールに加えて権限設定に関する問題です。新規であればリモート対応しやすいCMSを選びつつ、権限設定の選択肢も広げましょう。乗り換えの検討は、既存CMSでも対応できることかを確認。対応できるなら本当に乗り換えの必要があるのかを精査します。“働き方改革”という言葉が定着してきた昨今、【3】の要望は増えています。
増えている、という点では【4】もそうです。【4】はグローバルサイトの生成に対応するCMSや、翻訳ソリューションと一緒に提供するCMSもあります。各商品、各サービスでそれぞれWebサイトを立ち上げたい場合、翻訳への対応CMSを導入していれば横展開がしやすいメリットも出てきます。【4】は、対象となるサイトの性質と対応したい言語の数、さらに翻訳の品質をどれほど求めていくかで判断が大きく変わります。多言語対応の案件に慣れたパートナーに相談して、課題を解消できるCMSを探したり、翻訳対応のワークフローを確立したほうがいいでしょう。
逆に無理してCMSで解決しないほうがいいのは、会員専用ページのようなセキュアな運用が求められるコンテンツを扱う場合です。選択肢として残るのが、顧客情報管理に長けた商用CMSでしょう。オープンソースの場合、対応するのに無理をしたカスタマイズが強いられる可能性が大です。厳しいセキュリティ体制が伴う案件ですので、コンテンツ管理以上を求められる案件には、あまりCMSそのものが向いていません。
ここまでの話を回り道に感じている人もいるでしょうが、いきなりCMSを選ぼうとしても選びようがないのも事実です。選ぶための手がかりをつかむためにも、直面している問題点の状況把握を怠らないことが、最適なCMS選びの近道です(02)。
「どのCMSを選ぶ?」の前に、社内で話し合おう
次に、CMSの導入について社内対応となるか、パートナーを探して外部に相談するか、どちらにすべきかを含めて、「CMSの導入を巡る事前確認」を社内で行ってください。個人事業主の場合もしかり、一人の運営者として客観的に整理をしましょう。具体的に導入を意識した事前確認ができると、対応が社内外のどちらになるにしても、現場の齟齬が生じづらくなります(03)。
今回は、私たちアリウープが現場での折衝を通じて得た知見をベースに、広く普遍的に活用しやすい形にまとめた事前確認用のチェックシートを用意しました(04)。
このリストは、現場に関わる関係者(社内スタッフ、外部パートナー双方)があらかじめ知っておくと話が進めやすい項目や、私たちが現場でクライアントと折衝してきた中で、抜けがちな観点を優先してリスト化しています。
中には、自分1人では思いつかない項目や判断がつかない項目も散見されるでしょう。そこで、あらかじめ関係部署、関係者にヒアリングをしておくきっかけになるのも、このチェックシートの価値です。自分1人や同じチーム内だけでは気づかなかった考えや要素を把握し、誤解や思い込みの是正にもつなげてください。
各分類について紐解きましょう。「全体」では、No.3「CMSに関する予算」については、ある程度金額を示して、社内外どちらに対しても、誤解が生じないようにしましょう。金額を示した上で、課題に対して最善のアプローチができる理想のCMSと、予算内で導入可能な理想に近いCMSが一致するのかどうか。予算を超えた場合でも、超えた範囲が大きいのか、小さいのかを確認してください。
実際に私たちの現場で、No.1~3の全体に関わる基本事項であっても、曖昧で整理されていない状態で相談しにくるケースが少なくありません。これら3項目だけでもあらかじめわかっておけると、その後の進行が明らかに進みやすく、具体化します。
これらの項目に限らず、どうしてもはっきりしない項目は、「はっきりできない理由」を洗い出しておきましょう。その内容は、社内のボトルネックをあぶり出したり、パートナーと一緒に考えるための手がかりにもなるはずです。
円滑な運営のために。「CMS責任者」を立てよう
チェックシート内の「製品」に関しては、No.5~8が特に企業担当者と話し合う項目です。例えばWPを希望しながら、導入検討側の社内サーバ要件がオープンソース不可だったケースもあります。商用CMSについて、机上の説明に加えてデモ実演の希望があるか、導入後にCMSに携わる関係者向けの説明会や教習が必要かも確認します。ベンダーにお願いすると別途費用がかかるので、事前の社内同意が必要です。
よく認識違いが起きるのがデモの必要性(No.6)や説明会(No.7)です。No.6の場合、各製品で調整する必要があるので、当然費用も生じます。また、企業の担当者側は「CMS導入後にレクチャーがある」「分厚い紙のマニュアルが渡される」と考えて、ベンダーや制作会社側は「依頼がないかぎりやらない、つくらない」と逆のことを考えがちですので、認識のズレをなくすための現場のすり合わせが必須です。
No.8の「CMS実績」は、CMS自体の実績だけでなく、該当CMSを導入したベンダーや制作会社側の実績を問う項目です。Web担当者側からすれば、検討中のCMSだけでなくパートナーとなるベンダーを選ぶ根拠にもなります。
次に「体制」を見ると、No.10の「CMS責任者の擁立」は、CMS導入以降も含めた体制づくりの根幹につながる大事な項目です。CMS責任者が不在で、今後も擁立する予定がないという場合でも、CMS責任者は、運営規模に関わらず、他業務との兼任となってもいいので擁立することを勧めます。というのも、CMSに複数部門が関わる場合、各部門でミッションは違います。仮に「製品情報」を伝えたくても、技術的な商品説明に注力したい技術部門と、売りたい営業部門、認知を広げたい広報部門ではKPIが異なるため、これらを取りまとめる存在(CMS責任者)が必要です。そのほか、保守やサポートなどの諸問題も含めて対応できる立場を、独立して設けたほうがいいです(05)。
CMS責任者は、導入後のミスマッチ回避にも一役買います。部門や人の数だけCMSとの相性はさまざまですので、導入後に「使いづらい」となるミスマッチはもっとも避けたいところです。そのためには、導入前から関係各所に横串を通す、部門を越えたCMS責任者の存在が必要です。
導入後ではNG! 導入前からガバナンスを意識する
「要件」では、No.13「CMS適用範囲」に着目です。特に部分的な導入には注意を払いましょう。例えば、全体をまとめるWebサイトがある状態で、ニュースページや製品情報ページなど、更新機会が多いページだけを別のCMSで管理する場合は、別々の管理が求められます。まずヘッダやフッタなどUIの統一をどこまで担保するかを決める必要があります。また、期間限定の情報ページを公開する場合、管理側の仕組みが別々だと、ページごとのリンクを手動管理する必要もあります。CMS側では約束どおり3カ月後にページを非表示にしたら、全体のWebサイトもあわせてリンクを切るなど、情報の更新を忘れずに行う管理が求められます。
チェックシートの事前確認とともに、望ましいのがガバナンスの見通しをつけることです。ワークフローの核は「編集/制作」→「承認」→「更新/公開」の3つです。編集/制作なら複数の部署、承認なら部門長など“公開OK”を出すセクションが控えていたりします。理想はCMS責任者のもとで、3ステップに関わる社内の部署やチーム、人材の動きを整理しておくことです(06)。
ボトルネックになりがちなのが、公開までのフローで時間がかかりやすい「承認」です。ニュース性の高い企画ページなどは、承認で手間取ると公開時にはすでに鮮度を失いかねません。全コンテンツで難しくても、種類や内容によって承認フローをシンプルにして、公開までの時間を短縮する工夫も必要です。逆に、承認フローを厳重にして、意図的に限られた人だけが編集できるようにすることもできます。
外部パートナーは助言したりできるかぎりのサポートまではできても、直接のハンドリングはできません。CMS責任者を中心に、最終的には自社できちんとCMSを運用してください。
Text:遠藤義浩