Making of「三密堂書店とテクノ」

ここでは、これまで工藤俊祐さんが携わってきたプロジェクトの裏側について、工藤さん本人に解説していただきます。雑誌『Web Designing』の連載「MISH MASH」では、工藤さんの視点から見るWebやグラフィックなど普段考えられていることについて執筆しています。ぜひ本誌とあわせてご覧いただけると嬉しいです。

著者紹介

目次

本とDJ、受け継がれ、紡がれる共通性

大正初期創業、京都の古本屋・三密堂書店にて、クラブイベントをする。そんな魅力的な企画に声をかけてもらったのは今年の春頃だっただろうか。古本屋とテクノ・ミュージック、一見交わることのないような2つが融合する場のためのグラフィックを考えることになった。

古書店での新たな本との出会いとイベントでの新しい楽曲との出会い、人から人へと受け継がれていく本と曲から曲へと紡がれていくDJ……クラブイベントと古書店という場には、新たな出会いと時間を超えたつながりが内包されている。そもそものイベントの企画は、この共通性に着目したことからスタートした。

場を表すグラフィックを設計するには、実際にその場に自らをおいてみる必要があった。第一回「文字とクラブ」で京都を訪れていた私は、共同企画者のレヲ チバ、タイラーとともに、三密堂書店を散策する。壁にびっしりと並ぶ本の数々、今自分が手に取っている本が明日にはなくなっているかもしれないという一期一会の面白さ。その瞬間にしか出会えないからこそ、本と真剣に向き合う自分がいた(そして実際欲しかった本も手に入れることができた)

グラフィックでも純粋に「本と向き合う」ことにした。ポスターというメディアの形式・枠組みを一旦取り払った上での設計。手元にあった70年代の月刊誌の広告欄や次回予告などの様式に目がとまる。活字と写真のみで組み上げられた禁欲的ともとれるデザインとそこに宿る美が目を引いた。今回のデザインがイベントの告知という性格を持っていることからみても、これらの様式はサンプリングするのにぴったりであった。

出来上がったデザインは、栞のような縦長の体裁のもの。丸ゴシック、明朝体、サンセリフ体などさまざまな書体が入り混じり、記号や罫線とともにミックスされるような組み上がりとなった。写真は谷太志による三密堂書店での撮り下ろし、書店の看板や本と向き合う姿などを3〜4種類使用した。

ポスターにおいては大きな紙面の左上に栞をポツンと置いただけのような形である。ページを繰っていく中で現れる広告のような雰囲気をまとわせた。Instagramに投稿するようなスクエアや16:9のデジタルフライヤーでも同様に、栞は変化せず、周りの紙面が拡張する形でのレスポンシブ展開としている。

アーカイブデバイスとしての栞

「栞」というくらいなので、実際に栞として刷ることも行った。参加者特典としてこの図版部分を亜鉛板に起こし、活版印刷機で実際に栞を作成。栞の裏側にはNFTタグが貼られ、当日DJがかけた曲が登録されたプレイリストを閲覧することができるアーカイブデバイスとしても機能する。

書体を組んで並べてみる、記号を何種類か選んで吟味する、罫線を一本追加してみる。一つひとつの調整は地味であまりパッとしないが、一息ついたところで遠くからみてみると、これまでの細かな調整や遊びが一つの塊としてデザインが立ち上がってくる。時間を忘れて本棚を見つめた先に、奇跡的に現れる出会いのような喜び、それと同じような感情がデザインという行為にも詰まったプロジェクトであった。

CREDIT

三密堂書店とテクノ: https://shunsukekudo.com/projects/sanmitsudo-and-techno/

三密堂書店 X: https://x.com/sanmitudo

三密堂書店: https://sanmitu.com/

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