ライセンス契約で留意すべき「当然対抗制度」
2020年の著作権法改正によって、以前本連載で取り上げた私的違法DLの拡張などとともに、10月から「当然対抗制度」という制度が導入されました。あまり注目されていないのですが、読者の皆さんのライセンス契約実務にかなり大きな影響がありますので今回ご紹介します。
著作権者からライセンスを受けて著作物を利用することは一般的ですが、ライセンシーの権利(利用権)はとても不安定なものでした。というのは、著作権者が著作権を譲渡してしまった場合、ライセンシーは譲受人に対抗(利用権の主張)ができないからです。つまり、著作物を利用すると譲受人への著作権侵害になってしまいます。
ライセンシーの利用権は、契約をした相手(ライセンサー)にだけ主張できるもので、契約の当事者ではない譲受人に主張できるものではありませんでした。そのため、譲受人から要求されたら利用を止めるか、譲受人との間で改めてライセンス契約を結ばないといけなくなります。
もちろん、著作権を譲渡したライセンサーに対して損害賠償の請求はできますが、著作物の利用を止めるのは大きな損失です。これではライセンス契約を結んでも安心して著作物を利用することはできません。
そこで、ライセンシーの地位の保護を強化するために導入されたのが当然対抗制度です。この制度により、ライセンシーは譲受人に利用権を対抗できるようになります。ですから、著作権が譲渡されても著作物の利用を続けることができるわけです。しかも、ライセンス契約を結んだ時点で著作権が譲渡されていたとしても、その譲渡について文化庁への登録まで行われていなければ、利用権を対抗することができます。著作権の譲渡をしても登録まで行う例は多くないので、利用権が対抗できるケースはかなり多くなると予想されます。
著作権者がライセンス契約を結びつつ著作権を譲渡することは考えにくいかもしれません。でも、著作権者が死亡して、相続人がライセンス契約のことを知らずに著作権を処分してしまうことや、著作権者の破産や債権者からの差し押さえで強制的に著作権が譲渡されてしまう場合もあります。
なお、この当然対抗制度は、10月1日以前に締結されていたライセンス契約上の利用権にも適用されます。ですから、今までに結んだライセンス契約上の利用権も、10月1日以降に行われた著作権譲渡の譲受人には対抗ができるわけです。
利用権の保護が厚くなったことで、ライセンシーの地位は向上しました。一方、譲受人の立場では、著作権の譲渡を受ける場合、ライセンス契約の有無に注意する必要がありますし、著作権譲渡の登録手続きを想定しておくことも必要になりそうです。
桑野雄一郎
※Web Designing 2020年12月号(2020年10月17日発売)掲載記事を転載