キャラを漫画に登場させて家宅捜索。知っておくべき引用の範疇
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
(※この記事は2015年11月時点の法令等に基づいています。)
著者プロフィール
桑野 雄一郎さん
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など
昨年の8月、スクウェア・エニックス本社に家宅捜索が入るという事件がありました。容疑となったのは、同社の発行している漫画『ハイスコアガール』の中に(株)SNKプレイモア(以下、SNK)が著作権を有するゲームのキャラクターやプレイ画面が無許諾で使われているという著作権侵害についてでした。
『ハイスコアガール』は対戦型格闘ゲームが流行した1990年代を舞台に、ゲームで遊ぶ子供たちを描いた作品で、かつてゲームに熱中した世代を中心に人気を集めています。右図ではマンガの登場人物が実在するゲーム「サムライスピリッツ」をプレイしていますが、その中で「橘右京」と「不知火幻庵」が描かれています。これらのキャラクターはSNKが著作権を有していますので、SNKが著作権を侵害すると主張し、その結果、家宅捜索が行われたわけです。ですが『ハイスコアガール』の作品の特性上、実在のゲームのキャラクターの登場は不可欠です。このような作品を描くことは、ゲームの著作権者の許可がない限りできないのでしょうか。
著作権法には、権利者の許可がなくても作品を使用して良い場合が列挙されています。その中で、他人の作品を利用して自分の作品をつくる二次創作に適用できる可能性があるのは「引用」(32条)です。
引用の要件については、昭和55年3月28日の最高裁判所の判決が示しています。(1)引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること(付従性)、(2)カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること(明瞭区分性)の2つが必要と考えられてきました。これに従うと、『ハイスコアガール』におけるキャラクターの利用は、少なくとも(2)明瞭区分性の要件を満たしませんので、引用には当たらず、著作権侵害ということになります。
この要件に従うとコラージュは著作権侵害となるでしょうし、オマージュも対象となる作品をそのまま使うと著作権侵害になってしまいます。そこで、この要件ではあまりに硬直的ではないかという批判が相次ぎました。そんな中、平成22年10月13日の知財高裁判決は引用に当たるかどうかを(1)他人の著作物を利用する側の利用の目的、(2)その方法や態様、(3)利用される著作物の種類や性質、(4)当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合的に考慮して判断するべきだとしました。最高裁が示したような形式的な基準ではなく、さまざまな要素を“総合的に”判断しようというわけです。高裁レベルではありますが、現在はこの判決に従った判断が主流になってきています。
基準としてはやや不明確ですが『ハイスコアガール』のような実在するゲームを扱った創作も、これなら「引用」として許される可能性もあるのではないでしょうか。いきなり家宅捜索が行われたということで反響も大きかった事件でしたが、先日両社の間で和解が成立し、刑事事件も不起訴ということで一件落着となったようです。和解という形で円満解決したのは良いことですが、もし先に進んでいたら裁判所がどのような判断をしたのか、興味深くもありました。
※Web Designing 2015年11月号掲載記事を転載