元号と商標
身の回りに溢れる写真や映像、さまざまなネット上の記事‥‥そういった情報をSNSを通じて誰もが発信したりできるようになりました。これらを使ったWebサービスが数多く誕生しています。私達はプロジェクトの著作権を守らなくてはいけないだけでなく、他社の著作物を利用する側でもあります。そういった知的財産権に関する知っておくべき知識を取り上げ、毎回わかりやすく解説していくコラムです。
(※この記事は2017年4月時点の法令等に基づいています。)
著者プロフィール
桑野 雄一郎さん
1991年早稲田大学法学部卒業、1993年弁護士登録、2018年高樹町法律事務所設立。著書に『出版・マンガビジネスの著作権(第2版)』(一般社団法人著作権情報センター 刊 2018年)など
報道によると2019年に皇太子殿下が新しい天皇に即位し、それにともない改元(元号を改めること)が行われるようです。そこで今回は元号と商標について解説をします。元号は日本人なら誰でも知っていますから、これを商標登録して独占的に使用できるとしたら、それはなかなか魅力的です。ところが、商標法3条1項6号は、商標登録を受けることができない商標として「何人かの業務に係る商品又は役務であるかを認識することができない商標」を掲げていて、現在の特許庁は現元号として認識される商標、つまり「平成」や「HEISEI」などの商標登録を認めていません。
もっとも、登録ができないのは「現元号」ですから、昭和、大正、明治などの「旧元号」は登録ができます。そのため、現在は登録できない「平成」も、改元後は登録ができることになります。具体的には出願を受理した特許庁が登録をするかどうかの判断(査定)をするのが改元後であれば認められ(登録査定)、改元前であれば認められないこと(拒絶査定)になります。
なお、商標法は、同じ商標について複数の人が商標登録出願をした場合、先に出願した者を優先するという「先願主義」を採用しています。そうなると、少しでも早い日に出願をしておきたいところですが、あまり早く出願をしては特許庁の査定が改元前になり、拒絶査定が出て登録はできません。ですから、「平成」という商標を手に入れるためには、特許庁の査定が改元後になるタイミングを狙い、しかも他の人より一日も早く出願をする必要があるわけです。なお、特許庁では「昭和」から「平成」へ改元した翌年、1990年12月に電子出願システムが導入され、特許庁の窓口に並ばなくても24時間365日PCから出願ができるようになったのです。出願から査定までは半年程度かかるのが一般的なので、改元の半年より少し前くらいから「平成」の商標登録出願をする人が続出するかもしれませんね。
ところで、現在、さまざまなところで新元号の予想が行われています。新元号については、改元後は「現元号」となりますから商標登録できませんが、改元前であれば登録可能です。ですから、改元前から新元号を予想して、先手を打って商標登録をしてしまおうと考える人もいるかもしれません。しかし、政府も新元号を決める際には商標登録や出願についてチェックをし、既にあるものは新元号の候補から除外するでしょう。それなら元号が決定し、発表された直後に出願をしてはどうか、というところですが、新元号が決定した後は特許庁は改元後まで判断を保留し、改元後に「現元号」であることを理由に拒絶査定を出すだろうと思います。ということで、新元号について商標登録ができる可能性も低そうです。
※Web Designing 2017年4月号掲載記事を転載