ブルーパドル 佐藤ねじさんが選ぶ「アイデアや表現がいい」サイト5選
選んでくれた人
佐藤 ねじさん
1982年生まれ。プランナー/クリエイティブディレクター。2016年ブルーパドルを設立。代表作に「隠れ節目祝い」「ボードゲームホテル」「アルトタスカル」「0歳ボドゲ」「小1起業家」など。著書に「子育てブレスト」(小学館)など。
カセットテープをWebに落とし込む表現力
waltz | カセットテープ & レコード from 中目黒
今の時代、Webサイトに演出なんて必要ないですし、邪魔せず必要な情報をサッと伝えたらそれでいいだろうと思っています。SNSがメインで、必要なときにだけWebサイトにちょっと立ち寄るっていうくらい。
そんな中でも、わざわざWebサイトに演出を入れるのであれば、そのブランドらしさを醸し出すための演出は、ほしい情報に邪魔しないように入ってる方が、私が好きです。クリエイターのエゴみたいなものでなく、そのブランドの人柄が出るようなWebサイト。
カセットテープ専門店「waltz」のWebサイトは、その例の1つ。カセットテープの店だから、Webサイトにもカセットテープが回っている。ただそれだけ。すごく明快で、それ以上でもそれ以下でもない。でもカセットテープだから、ページスクロールもない。カルーセルがカセットの一部に紛れ込んでいてかわいい。素敵です。
そしてPCサイトではカセットテープが回る演出を入れてますが、SPではその演出をカット。シンプルに店の写真とテキストがあるWebになっています。スマホ画面では縦位置になるし、その演出は邪魔になると判断されたのでしょうか。その対応の差も、丁寧でかっこいいと感じました。
まばたき演出という、1回しかできない大技
目がぱちくり:くりもと眼科
くりもと眼科のWebサイトは「目がぱちくり」します。TOPに入ったとき、下層ページへ遷移するときに、Webサイトがまばたきするのです。
眼科のWebサイトで、1回しかできない大技で、他はもう真似できない演出を見つけたなという感じで、この演出は僕もつくりたかったな〜とちょっと羨ましく思いました。まばたきの具合も、目っぽいぼやけた曲線も、文字がそのタイミングだけぼかされる演出も効いてて、本当にまばたきっぽく感じます。でもページは軽いし、デザインもすっきりしてて見やすくて、素敵なページです。
ずっとページをさわっていると、まばたき演出がうるさくなるって言う人もいるんでしょうが、そもそも眼科のWebサイトの回遊は短い時間ですし、もしその声が増えるようなら、演出カットボタン=「まばたきしないボタン」をどっかにつけるなども対策を取ればいいだけかなと思います。くりもと眼科は、印象に残るWebサイトです。
DAIEIの自由な思想を体現
DAIEI |ダイエー株式会社 石川県小松市の板金カンパニー
石川県小松市に本社を構える板金カンパニー「DAIEI」のWebサイト。Konelさんのデザインで、「これからのモノづくりは自由に道すじを示していくことが必要」というDAIEIの考えをデザインや表現に落とし込んだとのことです。
面白いのはグローバルナビのUI。今選ばれているものが上にきて、ぐるぐる回る演出になっています。ナビは当然使いやすくないといけませんが、このページはもともとスクロールで見れるタイプだし、使いやすさよりも、DAIEIの自由な思想みたいなものを体現することを優先させたのだろうなと思います。
グロナビのこういう見せ方は、ありそうでなかったので、とても新鮮でいいなと思いました!
つくりすぎないバランスがいい
発酵サウナ|完全予約制のプライベートサウナ|山形市新山
発酵サウナは、山形市新山に位置する完全予約制のプライベートサウナ。薪ストーブ、国産材のバレル型サウナ、セルフロウリュ可能、キャンプも楽しめる、すてきなサウナ施設です。
Webサイトでは、素敵な写真とは対照的に、とってもゆるいイラスト(GIFアニメ)が多用されています。ゆるい系のイラストで想像するボーダーラインよりも、もう少しゆるい(笑)。そしてサウナ室から、あちあち〜っと出てくる人々のアニメもゆるい(笑)。
さらに、イラストと画像のマージンの「間」も、なんだか不思議です。通常のバランスより多めに空いていたりして、ちょっとつくり途中のような、つくりすぎないデザインが、とても心地よく感じます。
そういうページの随所から「きっといいサウナなんだろうな〜」という雰囲気が伝わってきます。何ならWebサイトから、ヴィヒタの香りもしてきます。私の思う「アイデアや表現がいいWebサイト」というのは、まさにこういうWebサイトです。
ちなみにここ水風呂は天然地下水で、13℃と低めだそうです。Webサイトを見て、絶対いつか行きたいなと思いました。行きます。
無自覚なWebサイトらしさを払拭
村川拓也|Takuya Murakawa
「アイデアや表現がいいWebサイト」で書いてほしいとWeb Designing編集部の方に言われて、きっと面白くて派手な演出のものとか、ユーモアのあるものを期待されているんだろうなと想像しました。
でも前述したように、私の思う「アイデアや表現がいいWebサイト」というのは、その演出プランが、その人やブランドらしさを体現するもの。表現の濃さで決まるものではないと考えています。
その意味でぜひ紹介したかったのが、こちら。グラフィックデザイナーの菊地敦己さんが制作した、演出家である村川拓也さんのWebサイト。村川さんのプロフィールを日英で書いて、その下に連絡先、そしてニュースが数個。それだけ。シンプルなサイト。
そっけないけど必要なものが、必要な品位を保って、ただ存在している。ちょっと書籍のような雰囲気もあったり。素敵です。(SPサイトでは、プロフィールはアコーディオン式に収納されていて、よりシンプルになっています)
こういうの見ると、誰でもつくれそうじゃんって思う人もいそうです。でもおそらく、村川さんのサイトを依頼されても、普通はこうはならないだろうなと。無自覚にWebサイトらしいレイアウトになってしまったり、余分な何かが入ってしまったりするだろうなという気がします。
別にWebサイトらしくなるのが悪いとも思わないし、必要な情報伝達ができればそれで最低限目標は達成するので良いのです。良いのですが、こういうWebサイトを見せられると、何だか心の奥底にある罪悪感みたいなものを、ギュッと掴まれるような刺激を受けますし、結果的に村川さんのことも、かっこいいなと思えてきます。