【特別対談 Vol.1】テキストコンテンツのプロに聞いた、AI時代の「文章力」向上の秘訣。ポイントは「編集力」!?

ワン・パブリッシング取締役社長・松井謙介さんと、以前Web Designing本誌で連載を担当していたRIDE Inc.の酒井新悟さん。ともに雑誌出身で、Webメディアでのコンテンツ制作の経験も豊富な2人のプロが、これからの時代に欠かせない「文章力」とはどんなものか、熱く語り合ってくれました(前後編の前編)。

話してくれた人

松井謙介 さん

株式会社ワン・パブリッシング取締役社長兼メディアビジネス本部長。長年にわたって文章編集・校正現場の最前線に立ち、雑誌『GetNavi』発行部数最大記録なども打ち立てた実績のあるプロ。雑誌、Webメディア、広告のコピーライティングなど、多岐にわたる制作を通じて読者の心に訴えるコンテンツを生み出してきた。2020年からは、『Web Designing』の連載「文章力を上げる鉄板ルール」を担当。2025年9月には『生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術』(マイナビ出版)を上梓。日々、コンテンツと格闘しながら生きている。

酒井新悟 さん

株式会社RIDE取締役。雑誌やWebメディアづくり、サービス立ち上げの経験を武器に、総合広告代理店や企業とオンライン・オフラインを問わず、さまざまなプロジェクトに携わる。と同時に、弊社のオウンドメディア「haconiwa」の立ち上げと運営を経てオウンドメディア構築やメディアプランニング、コンテンツ制作のディレクション、Webサイト制作、Webマーケティングなどに携わる。著書に『ビジネスの課題は編集視点で見てみよう』(マイナビ出版・2020年刊)

目次

テキストコミュニケーションが生み出した
独自の「打ち言葉」

松井 酒井さんとは媒体こそ違うけれど、同じ雑誌畑で育った仲。10年くらい前に初めて仕事をして以来、定期的に仕事をお願いしたり、お手伝いしたりみたいな関係が続いています。それは酒井さんが、Webの世界に軸足を移してからも変わっていないんですよね。

酒井 ひと口に10年というけれど、仕事の内容もやり方も、ずいぶんと変わってきましたよね。ただ、まったく変わっていないこともあって、それは「文章・言葉とどう向き合っていくのか」という点なんです。だから松井さんがWeb Designingで、「文章力」の連載をして、ついに本まで出したってことはすごく意義深いことだなと思っています。

松井 ありがとうございます。近年はWebの仕事もたくさん手がけている酒井さんにそう言ってもらえると、とても心強いです。

酒井 で、さっそくなのですが、今回、「文章力」がテーマだと聞いてぜひ松井さんと話そうと思っていたネタがありまして。それは「ゾス!」についてなんです。

松井 それって光通信の……。

酒井 そう、いろいろあったことで知られる光通信の営業チームで、気合とか熱意を示すために使われていた言葉である「ゾス!」が、なぜか最近、チャットやメールで使われ出しているんです。

松井 確か、「オス」の最上級的な位置付けの「何が何でもやります」といった意味の言葉ですよね(笑)。

酒井 そうなんです。いまは当時と違って、軽いノリで使われる言葉になっているのですが、これの面白いところは、コミニュティによっては、仕事の文脈でも使われはじめているところなんです。

松井 閉じた空間の中だけで使われた言葉が、テキストコミュニケーションを媒介して一般化しはじめている、と。

酒井 昔から同じようなことはあったと思うのですが、その流通のスピードも、広がり方の規模も、以前とは異なる次元にあるような気がしていて。

松井 確かに、日々新しい言葉や表現が登場している感覚はありますね。

酒井 ええ。ではなぜそんなことが起きているのかと考えてみると、その背景にチャットやメールといったテキストコミュニケーションの凄まじい広がりがあると思っていて。

松井 なるほど。

酒井 そこでは「書き言葉」とは違う、「打ち言葉」の世界というのがすでにできあがっていて、それが独特な進化を始めている。「ゾス!」の普及は、その現れなんじゃないかと思うんです。

松井 そういえば最近、若い人にビジネス調のメールを送ると「怒ってるんですか?」みたいなことを言われるようになったんですよ。

酒井 文末に「。」をつけると、断定している感じが出て怖いみたいな話もありますよね。

松井 「。(まる)ハラ」ですね。つまり、これまではなかったマナーやルールが進化したテキストコミュニケーションの世界で広がっていて、それがだんだんとビジネス領域にも浸透しはじめ、ついにはコミュニケーションの質をコントロールしはじめた、と。

酒井 そしてそれは時に、仕事に向き合うマインドすらも変えてしまうものになりつつある。だから、これからの時代の「文章力」には、そうした新しいテキストコミュニケーションを使いこなすスキルも含まれていくんだろうな、と。

関係性を理解できないAIは
「ゾス!」と書くことはできない

松井 おそらく酒井さんの頭の中にもあるのだろうけれど、「打ち言葉」はAIにはなかなかうまく扱うことのできない言語ですよね。「AIが新しい情報の処理が苦手だから」という理由もあるけれど、それよりも大事なのは打ち言葉が基本的に“書き手と読み手の関係性のうえに成り立つものだからAIに生成できない”という点ではないでしょうか。

酒井 おっしゃる通り、この相手にこの文脈で「ゾス!」と書いていいかどうかを、AIは判断できないでしょうね。

松井 こないだ一緒に食事に行って距離が縮まった感覚があるから、ここは思い切って「ゾス!」でいいだろう、とか。

酒井 判断できたら怖いですよ。その情報、どうやって収集したんだということになりますから(笑)。

<後編に続く>

書籍情報

生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術

●定価(紙/電子):1,980円(税込)
●著者:松井謙介
●判型:B6変/208ページ
●ISBN:978-4-8399-90271
●発売日:2025年9月24日

生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。

最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。

本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。

取材・文:小泉森弥
※本記事は「Web Designing2025年12月号」の内容を一部再編集して公開しています。

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