
「謝罪文」を制作せざるを得ないときは、「自己責任」「寄り添い」「具体的」で!《文章力を上げる新・鉄板ルール #6》

現代は、すべての文章作成を効率重視でAI任せにもできる時代。だからこそ、読み手との関係性を踏まえた“ならでは”の文章を書ける人の価値は増す一方です。本連載では、株式会社ワン・パブリッシングの取締役社長・松井謙介氏が、「売上につながる文章術」を徹底解説。今回は、「謝罪文」の作り方を伝授します。
目次
対向車のライトに幻惑され目を逸らした!?
仕事していると、トラブルなんて日常茶飯事です。自分の場合、仕事が「メディア」という特性上、情報を間違えて発信し、取材先にご迷惑をお掛けすることもあります。そうなったらやはり「謝罪」が必要。自身が起こした問題で謝罪することもあれば、仲間が起こしたトラブルで同行謝罪することもあります。
もちろんどんなときだって謝罪は楽しくありません。「怒られること確定」で先方に向かう足取りは、いつだってso heavy。さて一体どう謝ろうか? 謝罪のノウハウはいつだって後回し。緊急事態になって初めて「謝罪の仕方」と向き合うことになるのです。
焦りに焦ってちょっとネットで調べてみれば、「ビジネスにおける謝罪術」みたいな方法が大量に見つかるでしょう。曰く、「言い訳しない」とか、「誠意を伝える」とか、「対策案を出す」とか。そこで思うのです。「知ってるわ!」。はっきり言って、調べるまでもない。そこに書かれていることの大体が、小学生のときに身に着けておくべきスキルと言っても過言でもありません。きっと謝罪にウルトラCはない、ということなのでしょう。
昔の自動車運転免許試験で、こんな問題があったそうです(作家・森博嗣さんの著書で読みました)。
「対向車のライトに幻惑されたので、目を逸らして対処した」これが間違いかどうか、というのが問題だ。幻惑されたのだから、目を逸らさざるをえない、そのままでは危険である。だから○か、というと、正解は×。そして、解説にはこうあった。「幻惑されるまえに、目を逸らさなくてはならない」 。
これは問題の前提から覆す、超難題と言えます。ただ、謝罪については、実は「これこそが正解」と思っています。私がいつも謝罪のときに思い出すのはこの話。 謝罪に行くとき「あ~、こんな謝罪になる前に、取引先ともっとコミュニケーション取って、仲間になっておくべきだったなぁ」。こんな思いに苛まれるわけです。
要するに、謝罪などが「発生しえない」関係値を、日常の対話やコミュニケーション(場合によってはノミニケーション)によって作っておくべきなのだと思うのです。
その作業を怠って、シビアな、かつドライなビジネス関係のまま仕事をしている自分がいけない、というワケ。幻惑されるまえに、目を逸らさなくてはならない––––––そんな前提破壊の発想が、「謝罪」のシチュエーションにも当てはまるのではないでしょうか。
ビジネスシーンで「あれ、なんか、この件こじれそうじゃん」という予感は、誰もが持ちうるもの。そのときに「なんだか面倒くさそうな相手だな」とビジネスライクな対応を決め込むのではなく、その「予感タイミング」でなんとか相手の懐に入り込みたい。もっと言うと「仲良くなっておくべき」なのです。私は、これを目指しています。
免許試験でいうと「幻惑される」という前提自体が間違いでしたが、ここで言うと「謝らざるを得ない関係のままであった」という前提がダメということ。「足取りの重い謝罪」を発生させない関係値を築く。いまのところ、なかなかできてはいませんが、そういうビジネスパーソンになりたいと私は思っています。
「謝罪文」をAIにすべて書かせるのは絶対NG
さて、本連載は「文章術」でした。上記のような「関係値構築」による「謝罪」の避け方も一つ重要ですが、それも叶わず、しっかり謝罪メールなどを書くこともあります。今回はその際に気を付けるべきテクニックをお伝えしましょう。
あっ、当然ですが、まずもって「AI任せ」はNGですよ。AIは、立派な謝罪文例を提示してくれると思いますが、大事なのは「相手への誠実な姿勢」です。精神論に聞こえるかもしれませんが、この「相手への」という点がとにかく重要。AIには「私と謝罪相手」の関係値を完璧に把握することは不可能なのですから、やはり「二人にとって誠実な謝罪文」は作れないはずなのです。
謝罪文では、次の3点を意識してほしいと思います。
責任の所在を明確にする
謝罪文において最も避けるべきは「責任の回避」です。受動態(「〜という事態になった」)ではなく、能動態(「私が〜を判断ミスした」)を用いることで、徹底的に当事者意識を示さねばなりません。「考えられます」といった曖昧な表現は、「環境や運のせいにしている」と受け取られ、被害者の感情を再燃させてしまいがち。最も気にしたいポイントです。
被害者中心の言葉で書く
マーケット用語でいえば、4Pではなく4Cで書く。「自分がどう思っているか」ではなく、「相手がどう感じたか」にフォーカスした表現を選ばないといけません。 「意図したことではありませんでした」「私なりに一生懸命やった結果です」などは最悪です。大切なのは相手がどうなったか、どう感じたか、でしょう。「長年築いていただいた御社との信頼関係を、私の身勝手な判断で踏みにじってしまいました」。このように、相手が失ったもの(信頼、時間、面目)を言葉にして認めることで、初めて「謝罪」として機能します。
具体的な解決策を伝える
感情的な謝罪だけで終わらせず、損害をどう補填し、未来をどう変えるかを提示します。程度によっては「今回発生した追加費用については、全額弊社にて負担させていただきます」という宣言が必要かもしれません。再発防止策も同様。とにかく「具体的」です。「物理的に二重チェックが入るよう、来週月曜までに承認フローのシステム改修を完了させ、ご確認いただきたいと考えております」。「二重チェック」「来週月曜」「ご確認いただく」。こうした言葉でアクションに体温を持たせることが大切です。「以後気をつけます」という曖昧な表現は、まったくふさわしくありません。
「責任の所在」「相手視線」「具体性」。この3つこそが、「誠意」の正体。本来は書きたくない謝罪文ですが、どうしても…というときはここを意識してみてください。なんで詳しいかって? それはもう社会人人生28年でこうした文書は幾度とな(以下略)。
| 謝罪文で意識する3つの点 |
| 責任の所在を明確にする ➡受動態の利用を極力避け、自身の言葉で発信する。 |
| 被害者中心の言葉で書く ➡4P思考ではなく4C思考で。相手が失ったものに寄り添う。 |
| 具体的な解決策を伝える ➡「以後気を付けます」「細心の注意を」などはNG。誰が、いつ、何を、を意識。 |
著者

松井 謙介
株式会社ワン・パブリッシング取締役社長
株式会社ワン・パブリッシング取締役社長兼メディアビジネス本部長。20年間雑誌制作に従事。現在はメディア運営のマネジメントをしながら、コンテンツの多角的な活用を実践中。自社のメディアのみならず、企業のメディア運営や広告のコピーライティングなども手掛ける。「生成AI時代にこそ学びたい 自分で文章を書く技術」(小社刊)発売中
書誌情報

書籍:1,980円
電子版:1,980円
B6変:208ページ
ISBN:978-4-8399-90275
発売日:2025年09月19日
■概要
生成AIの進化により、議事録やレポート、マニュアルといった事務的な文章は効率的に自動化できるようになりました。しかしビジネスの現場では、それだけでは不十分。企画書や提案書、人材募集文、オウンドメディアの記事など──人の感情を動かし、行動へとつなげる文章には、書き手自身の思考や意見、そして「相手にどう動いてほしいか」という意図が不可欠です。
最新のAIは流麗な文章を生み出し、表現力も増しています。しかし、「誰に向けて、何を伝えるのか」という視点は、人間にしか持ち得ません。読み手を意識し、関係性を踏まえて言葉を選ぶことこそが、成果を生む文章の鍵なのです。
本書では、生成AI時代にあっても欠かすことのできない「自分で書く力」を、実践的かつ最新のテクニックとともに解説。あなたの仕事に直結する「伝わる文章術」をお届けします。
■目次
はじめに
第1章 文章を書き始める前にやるべきこと
1-1 文章の「価値」を見直しておく
1-2 準備段階で、文章の90%は完成させよ
1-3 「マクロからミクロの視点」を意識する
1-4 「結論から書けぃ!」は絶対的ルール?
1-5 書く前に「統一表記」を作ろう
1-6 「だ・である」「です・ます」を統一せよ
コラム 「普通に」って一体どの程度?
第2章 文章執筆の基本ルール
2-1 文章は「短く」、「能動態」で書こう
2-2 読み手の時間を奪う「冗長表現」を排除せよ!
2-3 カタカナ語はバランスを模索しよう
2-4 漢字と平仮名は「3:7」を目指せ!
2-5 「話し言葉」と「書き言葉」を使い分けよう
2-6 「尊敬語」「謙譲語」「丁寧語」の秘密
コラム 「言葉の繰り返し」の新潮流とは?
第3章 文章が美しくなる7つのポイント
3-1 「読点」は感覚で打つべからず
3-2 「修飾」の正しい扱いを守る
3-3 デリケートな「並列」の扱いに注意しよう
3-4 げに恐ろしきは「主語と述語の呼応」
3-5 「は」と「が」の使い分けを知る
3-6 生成AI時代は「接続詞」の活用をマスターせよ
3-7 時代とともに変化する「副詞の呼応」
コラム 疑問文はこの上ない「断定」になる
第4章 文章の神は細部に宿る
4-1 類似表現は「ニュアンスの僅差」を把握すべし
4-2 誤解しやすい日本語表現を把握せよ
4-3 「比喩」はいまどきの若者言葉に学べ
4-4 日本語は「オノマトペ」を攻略せよ
4-5 雑誌編集者流の文章校正を学ぼう
コラム 意外と身近にある「リスクのある言葉」
おわりに
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