
CMS運用でどこまでAIに任せるべき?──制作会社が語る、AIに任せたい業務TOP5と“あえて”人が担う領域の線引き

AIの台頭により、Webサイト制作や運用の現場では、AIを活用して業務効率を高めることが当たり前になりつつあります。こうした状況において、CMSを実装・運用する立場では、CMSとAIの関係をどのように捉え、活用していくべきなのでしょうか。
今回は、事業支援やサービス開発を中心にUXデザインに強みを持つ制作会社であり、CMS案件を多数手がけている株式会社シナップのメンバーにインタビューを実施。クリエイティブディレクターの大川貴裕さんと、同社でAI活用を推進するAX(AI Transformation)チーム責任者の三國翼さんに話をうかがいます。
そして、現場に根ざしたプロフェッショナルの視点から、「積極的にAIに任せたい業務」トップ5をあげていただきました。その背景にある考え方を紐解いていきます。あわせて、AI時代に求められるCMSのあり方や、人が担うべき役割についても考察していきます。
目次
データ移行、マニュアルの自動生成……現場が求める「AIに任せたいこと」TOP5
──まずは、CMSを取り巻くワークフローの中で、「AIに任せたい業務」TOP5を教えてください。実装の有無にかかわらず、今後の可能性も含めてお聞かせください。
大川貴裕(以下、大川) 私は日頃、クリエイティブディレクターとして、CMSの新規立ち上げから運用フェーズまで、クライアントに伴走する形でプロジェクトに参画しています。その立場から、「AIに任せたい業務」TOP5を考えてみました。優先度の高い順に挙げます。
① データ移行とスキーム(構造)の整理
② コンテンツの多チャンネル展開
③ 更新スケジュールの進捗管理と催促
④ アクセス・行動データの解釈と改善提案
⑤ マニュアルの自動生成および更新
──①〜⑤それぞれ挙げた理由を教えてください。
大川 私たちが手がけるCMS案件は、新規よりもリニューアル案件が多いです。新たなCMSへ移行する際には、既存CMSからのデータ移行が必要になりますが、その過程ではデータ構造の照合や変換、クリーニングなどに多大な工数がかかり、ミスも発生しやすいのが実情です。こうした作業を①のように自動で判別・最適化してくれれば、大きな負担軽減につながります。
次に②についてですが、1つの記事を制作した際に、SNSやメルマガ、プッシュ通知など、複数のチャネルに適した形へ自動でリライトやリサイズまで行える点が非常に有用だと感じています。
続いて③の「更新スケジュールの管理と催促」は、各コンテンツについて「誰が」「いつまで」「何を」更新するかを、AIが把握して、滞っているタスクにアラートやリマインドを行うなど、進捗に関する管理業務をAIに任せられると、属人的な運用負担を軽減できます。
④の「アクセス・行動データの解釈および改善提案」は、とりわけAIが得意な領域だと特に期待している項目です。コンバージョンや離脱の要因を分析し、ページ改善などの具体的なアクションまで示唆してくれれば、データをより実践的に活用できるようになるでしょう。
──なるほど。では最後に、⑤の「マニュアル」についてはいかがでしょうか。
大川 最後の「マニュアル」については、CMSの改修にあわせて、操作マニュアルの更新が必要になるケースが多くあります。機能追加や変更に伴う既存状態との差分を検知し、該当箇所を自動で更新、あるいは改訂の提案まで行えるようになると、作業負担の軽減に加え、更新内容の抜け漏れ防止にもつながります。
管理画面はいらない? 開発者目線で考える、AIとCMS開発現場の未来
──次に、AI活用推進チームに所属する立場から、三國さんはどのようにお考えですか?
三國翼(以下、三國) 私は、CMSがどのような状態であれば開発しやすいかという観点から、TOP5を挙げました。
① 「Claude Code」からAPI/MCP経由で直接作業
② CMSの仕様をAIに学習させる「前処理」の自動化
③ ローカルでの安全な構築・実装と本番環境への反映
④ データ移行・スキーム(構造)の整理
⑤ 管理画面に、非技術者向けAI運用サポート機能
──①について、もう少し具体的に解説していただけますか。
三國 ①を挙げた理由は、自律的にコーディングを行うAIエージェント「Claude Code」を用いて、APIやMCP(AIが外部ツールやデータと直接つながり、自律的に機能するための標準規格)を介して作業ができるようになってほしいと考えているためです。つまり、開発者がWebブラウザ上の管理画面を開いて操作するのではなく、AIがCMSを直接操作できる仕様にCMS側が対応していくことを望んでいます。
──開発者としての実感が伝わる内容です。ほかの項目についても詳しく教えてください。
三國 ②は①を支える「前処理」にあたる部分です。AIにCMSを正しく操作させるには、そのCMSの操作方法や最新仕様、エラー時の対処などが、AIにとって読み取りやすい形で整理され、常に最新の状態で参照できるようになっていることが重要です。こうした情報設計がCMS側で整っていないと、AIが古い仕様のまま動いて失敗してしまう、ということが現状でも起きています。
──AIがスムーズに動くための事前準備ということですね。
三國 はい。そして③を挙げたのは、私がCMSはミニマムな構成であることが理想だと考えているためです。CMSはコンテンツを保存する役割に特化し、デザインや拡張機能はローカル環境で管理します。その実装をAIが担うような構成を想定しているからです。ローカルで構築した後は、Gitを用いて本番環境に反映します。多くの要素をローカルで管理できれば、企業サイトの安全性も担保しやすく、Webサイトの維持も低コストで済むでしょう。
④に関しては、大川さんと同じくAIによってデータをスムーズに管理できると考えています。
──では、⑤についてはいかがですか。
三國 ⑤を挙げたのは、「運用担当者の使いやすさ」も担保したいと考えているためです。①で「API/MCP経由」を前提とした話をしているため、管理画面についてあまり重視していないと思われるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。
コンテンツの新規投稿や更新を、開発者ではないサイト担当者が行う際、誤字脱字や文体の揺れを検出したり、SEOに配慮したタイトルやディスクリプション、OGPやALTなどのメタデータを自動生成したりと、コンテンツの更新業務に紐づく作業をAIが管理画面上で支援できるようになると、運用側の生産性向上につながると考えています。
最終判断はAIに任せない! 人間が背負うべき「責任」のあり方
──「任せたい」業務がある一方で、AIに「任せたくない」ことは何でしょうか?
大川 AIに任せたくないというよりも、「AIを補助的に活用しながら、最終的な判断を人が担うべき領域はどこか」と言い換えると、整理しやすいと考えています。
たとえば、企業サイトにおけるトーン&マナーの判断です。文章のニュアンスや文体については、AIに学習させてチェックすることが可能であり、人手に比べて網羅的かつ短時間で確認できるという利点があります。しかし、その企業らしさの定義は、文脈を深く理解している社内の人間が担うべき領域です。新たな表現に対して、定義を更新するのか、それとも逸脱と判断するのかといった最終的な意思決定は、文脈や意図を踏まえた上で人が行う必要があります。
──網羅的な確認はAIに任せつつ、最終的な判断は人が責任を持つ、という役割分担になるのでしょうか。
大川 はい。炎上リスクの回避や倫理的な配慮が求められる内容については、記事をAIに通すことで、過去のデータからリスクパターンを学習し、アラートを出すことは可能です。ただし、社会的な文脈や受け手の感情をどのように捉えるかについては、AIが不得意とする領域でもあります。最終的な判断については、人が責任を持つべきだと考えています。
三國 私も大枠では同様に捉えています。ファクトチェックや、もっともらしい誤情報を見抜くハルシネーションへの対策も含めて、最終的な公開判断や品質に対する責任は、人が担うべきです。
たとえば、コンテンツが人によって書かれたのか、AIによって生成されたのかは、今後ますます意識されなくなっていくと思います。しかしそれは、品質に責任を持つ人間が、適切な判断のもとで公開していることが前提です。AIの出力をそのまま使用するだけでは、多くのユーザーの期待に応えることは難しいでしょう。

これからのCMSの潮流。AIとの親和性は高い?
──ここまでのお話を踏まえると、CMSの実装や運用では、品質向上のプロセスにAIを活用しつつ、最終的な責任は人が担うという理解でよろしいでしょうか。
大川 その通りです。公開までのプロセスの中には、積極的にAIを組み込むべき工程があると考えています。先ほども触れた通り、品質管理の観点では、ファクトチェックや炎上リスクの検知、アクセシビリティ対応、誤字脱字の確認と修正など、網羅的かつ迅速に対応が求められる領域が多くあります。こうした業務は、AIが得意とする分野です。
三國 開発者の立場からすると、あらゆる機能を備えたUI重視の多機能なAI搭載CMSは、必ずしも望んでいる方向ではありません。一方で、管理画面において運用担当者が日常的に触れる領域については、徹底的に使いやすさを高めるべきだと考えています。理想は、運用側のタイミングとリソースで、やりたいことを実現できるCMSです。外部の制作会社に過度に依存せず、自走しやすい設計であることが重要だと考えています。
──最後に、これからCMSとAIの関係を、どのように捉えていくべきでしょうか。
大川 AI活用には、大きく分けて「CMS自体にAI機能が組み込まれる」ケースと、「API連携によって外部のAIと連携する」ケースの2つがあると考えています。たとえば、特定の業務ごとに専用のミニアプリを開発し、CMSと連携させるような形です。
いずれにしても、活用範囲はある程度絞っておくことが重要です。現在、身近なAIサービスは、チャット形式で自然言語を自由に入力できるインターフェースが主流ですが、自由度が高いがゆえに、現場では「何をどう使えばよいのか」が分かりにくくなるケースもあります。そのため、操作対象を特定の業務に絞った形でインターフェースを設計するほうが、実務には適していると考えています。
三國 API連携によって裏側でAIを動かす開発は、最近のシナップでも手がける機会が増えています。ヘッドレスCMSは、CMSの構築・運用に関わる領域において、CLI(コマンドラインインターフェイス)からMCPやAPIを介して、AIが直接操作しやすい構造を持っています。こうした特徴は、将来的にCMS全般に求められていく流れではないかと感じています。
今後は、こうしたAIとの親和性が高いCMSが、「開発者に選ばれるCMS」になっていくのではないでしょうか。たとえばMovable Typeにおいても、MTタグの仕様がよりオープンになれば、AIが学習しやすくなり、AIの力によってゼロからテンプレートを生成できる未来が現実味を帯びてくると思います。同様の傾向は、他のCMSにも当てはまるでしょう。

大川 これからのCMSは、長年にわたり蓄積されたデータベースとしての価値を、いかに引き出せるかが重要になります。今後、CMSとAIの関係は、Webサイト運営を支援する方向と、開発者がより開発しやすくなる方向という、2つの軸で発展していくと考えられます。こうした動きの根幹には、蓄積されたデータベースとしてのCMSの存在があることを、今回のテーマを通じて改めて実感しました。
取材・文:遠藤義浩