
「BtoBブランディングとは、選ばれる存在になること」──エイトブランディングデザイン・西澤明洋が2年間伴走した、ユポ社のリブランディング

2026年5月からWeb Desiningで連載中の「ブランドをつくるWebデザイン」。AI時代におけるWebサイトのあり方について、エイトブランディングデザインの西澤明洋さんが事例を交えながら語っています。今回は、西澤さんが2年間伴走してきた、株式会社ユポのリブランディングプロジェクトを紹介します。
2026年4月1日、合成紙メーカーとして知られる株式会社ユポ・コーポレーションが「株式会社ユポ」への社名変更を発表しました。そして7月1日には、新しいブランドロゴと新コンセプト「Value Co-Creator」を披露するリブランディング発表会を本社で開催。国内シェアトップを走ってきた企業が、なぜ今、リブランディングに踏み切ったのでしょうか。本記事では、西澤さんへのインタビューを通して、その背景にあった「BtoB企業のリブランディングに必要な意思決定のプロセス」を紹介します。
目次
「合成紙」から「クリエイティブ素材」へ
株式会社ユポ(旧社名:株式会社ユポ・コーポレーション)は、投票用紙や屋外広告、ラベルなどに使われる合成紙「ユポ」の製造・販売企業です。1960年代、森林資源の枯渇への懸念から国内で開発が進んだ合成紙という素材の中で、同社は国内シェアトップ、世界80カ国以上で導入される規模まで成長してきました。
今回のリブランディングで同社は、自社を「合成紙メーカー」ではなく「クリエイティブ素材を扱う企業」として再定義するという方針を掲げました。原料設計から生産、二次加工、アフターサービスまでを一貫して手がける体制を強みとし、「何を売るか」ではなく「どのような価値を一緒に創れるか」という発想に転換する姿勢を示しています。これに合わせて、これまで多岐にわたっていた製品ラインナップも、顧客が直感的に選びやすいようカテゴリ別に再構成されました。

発表会では、代表取締役社長の内藤勝弘氏と戦略企画本部長の宮口卓也氏によるプレゼンテーションに続いて、リブランディングを担当した西澤さんを交えたパネルディスカッションを実施。 西澤さんは、今回のリブランディングで特に時間をかけた領域としてWebサイトの全面刷新に触れ、「BtoBのブランドプラットフォームとして機能させるため、従来のSEOはもとより、近年の生成AI普及に伴うGEO(生成エンジン最適化)にも耐えうるデータ構造へと再設計した」と語っています。

ここからは、西澤さんへの個別インタビューをもとに、発表の裏側にあった意思決定のプロセスをたどっていきましょう。
「困っていない会社」から始まったリブランディング
──リブランディングに取り組みはじめた頃の印象を教えてください。
西澤明洋(以下、西澤) 率直に言って、ユポさんは非常に優良な企業です。外部から見ている分には“何に困っているのか”わかりませんでした。それにもかかわらず、最初から「経営戦略レベルでリブランディングをやりたい」という意思が明確に示されていました。

西澤 ユポさんに詳しくお話を聞くと、表面的なデザインだけを変更したいわけではなく、「社内の組織改革が必要」だという課題意識を感じました。僕たちエイトブランディングデザインが参画する1年ほど前に、同社では経営戦略を統合して推進する「戦略企画本部」が新設されています。そこで立案された改革案を、社内のいろいろな部門を巻き込みながら実現していくことでリブランディングが進んでいったわけです。
──BtoB企業ならではの難しさがあったのでしょうか。
西澤 「世の中にほとんど知られていない」というところからスタートするのが、BtoB企業の難しいところです。ユポの合成紙は、印刷物に携わるような業界ではよく知られた存在ですが、それでも「濡れても丈夫な紙」や「投票用紙に使われている紙」くらいの知名度でした。「合成紙」という枠を越えて、「クリエイティブ素材に取り組んでいる」という水準で知られているかと言うと、世の中にはほとんど伝わっていない状況です。売上規模は大きくても、BtoB企業であるがゆえに世の中全般では知られていない会社というのは、日本にはまだまだ多いのではないかと思います。
「合成紙」というポジションを“あえて”手放す決断
──今回のリブランディングで、もっとも大きな変更点はどこだったのでしょうか。
西澤 もっとも大きいのはポジションの変更です。今回、根本的に変わったのが、合成紙というジャンルで国内圧倒的No.1、世界80カ国以上に進出するグローバルニッチトップという立ち位置にとどまらず、新しい市場を開発していくという経営戦略を掲げた点です。これまで「合成紙」というポジションで商品を売ってきた会社が、「クリエイティブ素材」へと自分たちを再定義したわけで、社内では相当な議論がありました。
──社内で相当な議論を呼んだ「ポジションを変える決断」について、もう少し詳しく教えてください。
西澤 もともと、「合成紙」とWebで検索すればすぐにユポが出てくるほど、すでにその言葉で知名度を確立していました。それをあえて手放して、これまでとは違う存在だとアピールしていくのですから、簡単な決断ではありません。SEOの観点でもすでに確立された言葉を外していくことになりますから。これは会社が生まれ変わるのに等しい、大きな決断だったと思います。
実際、社内の方たちと開催したワークショップの際には「このまま合成紙メーカーのNo.1企業として着実にやっていこう」という意見と、「もっと業態を広げて挑戦していこう」という意見で二分されたほどでした。最終的には「モノをつくって売るだけの会社ではない」と結論が出たのですが、同社のみなさんは最後の最後まで、葛藤されていましたね。

次世代に委ねる、意思決定のデザイン
──新しいブランドロゴについてお聞かせください。
西澤 発表会で披露された新しいロゴは、ユポを表した長方形を中心にして、そこから拡がるように揺らぐ有機的な造形を一体化させたデザインです。多方面へと拡がっていく造形は、顧客やパートナーと手を取り合って共に価値を創造する「Value Co-Creator」の姿勢を表しています。

西澤 以前のロゴも素晴らしいデザインで、当時の社員のみなさんによる投票で決めたという経緯もあったそうです。そのため、ロゴを変えることについては慎重な意見もありました。

西澤 しかし、新しいメッセージにふさわしい(新たな)ビジュアルを用意しなければ、せっかくコンセプトを新しく発信しても伝わりにくくなってしまいます。 ロゴデザインは、同社にさまざまな案を提案したのですが、最終的に採用されたのはもっとも攻めたものになりました。比較的堅実な印象がある素材メーカー業界の中で、揺らぐような不定形のロゴというのは、珍しい部類に入ると思います。
──今回のリブランディングを通して、社員のみなさんに、どうような印象を抱きましたか。
西澤 社員のみなさんが積極的に各々の意見を発言されていて、風通しのいい社風だと感じました。こういったプロジェクトは経営陣のトップダウンになることも多いのですが、ユポの内藤社長は意図的にワークショップへの参加を控えられていました。「次世代のメンバーで考えて決めてほしい」というスタンスでしたね。社員が自立的に意思決定できる状態をつくることが、今回のリブランディングにとって重要だと、繰り返し話されていたのが印象的でした。
BtoBブランディングとは、選ばれる存在になること
──今回のプロジェクトを振り返って、その本質はどこにあったとお考えですか。
西澤 合成紙という概念にとらわれず、クリエイティブ素材として多様な用途に使ってもらえる存在になる。これが極めて重要な転換で、それをどう実現するかという問いに対する答えが、今回のブランドコンセプト「Value Co-Creator」。つまり、一人でやるのではなく、みんなでやらなければ社会課題は解決できない、という宣言です。
その象徴的な取り組みが、技術ノウハウを公開したことです。ユポの合成紙は多層構造を持つ素材ですが、競合他社からのキャッチアップを防ぐ意味でも、これまでは詳しい構造を秘密にしてきました。しかし、これからは外部の技術者やクリエイターとコラボレーションをしていく存在を目指すのですから、技術は開示するべきだという議論があったわけです。Value Co-Creatorを、単なる言葉ではなく姿勢として示した好例です。

──はい。実際に、なかなかできないことを実行されたわけですよね。
西澤 BtoB企業におけるブランディングとは、選ばれる存在になっていくことだと考えています。数あるパートナーや取引先の中で、「何か困ったことがあればユポさんに頼みたい」と思ってもらえる状況を確立していく。そこで僕たちは、そのためにデザインという手法を用いてサポートする、という体制で臨んできました。
一般的に、安定した状況の会社であれば、どのような提案をしても反対され、今のままで良いという意見の方が多くなるのが自然です。そこをユポさんは、「違うポジションへ進む」という方向性を社内のみなさんが選んだのです。それを実現するために必要なことを、一つひとつ内部で決めていかれた。その積み重ねこそが、今後の発展に大きくつながっていくのだと思います。

発表会で語られた新Webサイトの詳細については、本連載でも詳しく紹介する予定です。
あわせて読みたい


「Webデザイナーはググるな!」エイトブランディングデザイン・西澤明洋が語る、「他とは違うWebサイト…
AIが検索を代替し、SNSや動画サイトが存在感を増す今、「Webサイトをつくる意味」をあらためて問い直す人も多いのではないでしょうか。クラフトビールCOEDOや、抹茶カフ…
あわせて読みたい


「他を捨てる」ことでブランドは伝わる──エイトブランディングデザイン・西澤明洋に学ぶ、安産祈願にフ…
AIが検索を代替し、SNSや動画サイトが存在感を増す今、「Webサイトをつくる意味」をあらためて問い直す人も多いのではないでしょうか。クラフトビールCOEDOや、抹茶カフ…
取材・文:藤井亮一