なぜ「Movable Type」は、約25年もWebの変化に対応し続けられるのか? 今だからこそ、「静的生成」が選ばれる理由

AI、ヘッドレスCMS、Jamstack、ブロックエディタなど、Web制作を取り巻く技術は絶えず変化しています。その中でMovable Typeは、流行を追いかけるのではなく、Web制作現場で求められる運用性や保守性を重視しながら機能を進化させてきました。

本記事では、シックス・アパートでプロダクトシニアマネジャーを務める早瀬将一さんへのインタビューを通じて、「何を変え、何を変えなかったのか」という視点からMovable Typeのプロダクト戦略を紐解いていきます。

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静的生成という選択。今、再評価される理由

──最近はJamstack(あらかじめHTMLを生成して公開する構成)などのトレンドによってHTMLの静的生成が注目されていますが、Movable Typeは登場当初から静的生成を基本思想としていますね。逆に、動的な生成には対応していないのでしょうか。

早瀬将一さん(以下、早瀬) いえ、実はかなり前からMovable Type(ソフトウェア版/クラウド版)は動的生成にも対応しています。動的にページを生成する「ダイナミックパブリッシング」という仕組みがあり、用途に応じて一部を動的に生成する、といった使い分けが可能です。ただ、やはり基本的には静的生成をメインに選ばれるケースが多いですね。

──改めて、今この時代に「静的生成」を選ぶ強みはどこにあるとお考えですか。

早瀬 まず大きいのは、アクセス集中への圧倒的な強さです。自治体の災害対策ページや企業のIR発表など、「絶対にダウンしては困る」という場面では、静的コンテンツとCDN(世界中にコンテンツを分散配置し、高速配信する仕組み)との相性の良さが圧倒的なアドバンテージになります。

もう1つはセキュリティです。昨今はAIを活用した脆弱性検査も広がり、サーバやCMSに関する脆弱性が発見される機会が増えています。Movable Typeの「サーバー配信機能」を使えば、生成されたファイルだけを公開サーバに送り、そちら側ではCMSのプログラムを一切動かさない形にできます。 CMS本体と公開サーバを分離することで公開サーバがシンプルになり、比較的安価に安全な構成を作れます。特に「Movable Type クラウド版」のお客様では、「サーバー配信機能」を利用される方が多いですね。

また、動的生成のCMSで公開サイトとCMS本体が一体化している場合、CMSのアップデートが公開サイトの表示崩れなどに影響を及ぼすリスクがあります。しかし、公開サイトがただの静的コンテンツであれば、そうした影響を排除して安全に運用できるんです。

──なるほど。安全性の持たせ方ひとつとっても、企業によって運用のバリエーションがありそうですね。

早瀬 そうですね。CMS部分にアクセス制限をかけて同じサーバで運用するシンプルなケースもあれば、先ほどお話ししたように公開サーバを完全に分離するケース、あるいは既存のサイトの一部(更新頻度の高いニュース枠など)だけをMovable Typeで生成して公開サーバに配信するケースもあります。企業ごとのニーズに合わせて、本当に千差万別な使い方ができる柔軟性があります。

取材中のシックス・アパート株式会社 プロダクトマネジャーの早瀬将一さん
シックス・アパート株式会社 プロダクト シニアマネジャーの早瀬将一さん。学生時代にアルバイトとしてシックス・アパートに加わり、卒業後そのまま入社。その後デザイン会社でWeb制作の現場を経験。2014年にシックス・アパートへ再入社し、現在はMovable Typeブランドのプロダクト全体に携わっています

Data APIが支える、ヘッドレス以前からの「多用途性」

──Movable Typeには、外部のシステムとコンテンツをやり取りできる「Data API」という仕組みがあります。近年ではヘッドレスCMSの実現手段としても注目されていますが、この機能は当初からヘッドレスを想定して開発されたのでしょうか。

早瀬 Data APIが登場したのはMovable Type 6の時代ですが、当初は今でいうヘッドレスCMSというより、コンテンツの「ワンソース・マルチユース」を主な用途と考えていました。スマートフォンアプリでの活用や、美術館などの公共施設におけるデジタルサイネージへの配信など、コンテンツをさまざまなシーンで利用することを想定していました。

──スマートフォンアプリが普及し始めた時代のニーズに応える仕組みだったのですね。

早瀬 はい。さらにData APIは、コンテンツを取り出すだけでなく、管理画面のカスタマイズにも活用できます。標準の管理画面を使わず、業務に合わせた専用の入力画面を構築するといった使い方も可能です。

実際に、あるECサイトを運営されている大阪のパートナー様は、Data APIを利用して独自の管理画面を構築されています。Data APIは後方互換性に配慮して開発を進めているため、Movable Type本体の管理画面がアップデートされても、独自システムへの影響を抑えながら運用を続けられます。

──近年はヘッドレスCMSが注目されていますが、必ずしもそれが理想形というわけではありません。従来型CMSとは、どのように使い分けるべきでしょうか。

早瀬 ヘッドレスCMSは、複数のデバイスやサービスへコンテンツを配信したり、フロントエンドを自由に設計したりする用途に向いています。Movable TypeではData APIを利用するだけでなくJSONを静的ファイルとして出力することもできるので、ヘッドレスCMSとしても柔軟な構成に対応します。一方で、表示側の開発が必要になるため、フロントエンドエンジニアの存在が欠かせません。自由度は高い半面、小さな変更でも開発コストが発生しやすくなります。

一方、従来型CMSはHTMLの生成までCMSが担うため、HTMLやCSSの知識があれば、非プログラマーでもテンプレートの修正や運用に対応できます。Movable Typeは、従来型CMSとして利用することも、ヘッドレスCMSとして利用することもできるので、プロジェクトに合わせて最適な形を選べる点が強みです。

ブロックエディタとコンテンツタイプ。「自由度」と「品質」の両立

──編集画面についてもおうかがいさせてください。昨今のノーコードツールと比べると、「従来型のCMSは自由なレイアウトが難しい」という先入観を持たれがちですが、その点はいかがですか。

早瀬 Movable Type 8で導入され、現行バージョンにも受け継がれているブロックエディタでは、「自由度」と「サイト品質」の両立を強く意識しています。ノーコードのホームページ作成ツールは、誰でも自由にレイアウトを編集できる半面、運用のリテラシーによってはデザインがバラバラになってしまい、サイト全体のブランド品質を保てなくなるリスクがあります。

そこでMovable Typeのブロックエディタでは、標準ブロックだけでなく「カスタムブロック」を制作会社側が自作できるようにしました。たとえば「左に見出しと文章、右に画像」といったデザインパーツ(モジュール)をあらかじめ複数用意しておけば、企業の更新担当者はそれを組み合わせるだけで整ったページを作成できます。デザインを崩すことなく、更新の自由度を確保できるわけです。

──なるほど。自由奔放にさせるのではなく、あらかじめ整ったレールを敷いておくわけですね。

早瀬 そうです。ただし、これは制作会社側が事前に「どんなコンテンツを更新していきたいか」をお客様としっかり相談し、パーツを設計しておくことが前提になります。もし運用後に新しいレイアウトが必要になれば、後からカスタムブロックを追加すればいいので、長く運用していく上でも非常に合理的です。

Movable Type 8から搭載された新しいブロックエディタより、カスタムブロックの説明
Movable Type 8から搭載された新しいブロックエディタは、独自のブロックをカスタムブロックとして作成できる機能です。登録したカスタムブロックは、記事編集画面から簡単に呼び出せます

AIは“代替”ではなく“支援” 。人が責任を持つコンテンツ運用を貫く

──AIについてもうかがいます。現在、Movable TypeではどのようなAI機能を提供しているのでしょうか。

早瀬 現在は、記事本文からタイトルを提案するプラグイン「AIAssistant」を提供しています。SaaS型の「MovableType.net」でもベータ版として同様の機能を提供しており、ほかにもさまざまな機能を検証しています。AIは今後のCMSに欠かせない存在になると考えています。

──一方で、「あえて実装しない」と決めているものもあるのでしょうか。

早瀬 あります。生成AIを使えば、記事の作成から公開までを自動化することも技術的には可能です。しかし私たちは、コンテンツはあくまで人が責任を持って管理すべきものだと考えています。そのため、AIが記事を生成し自動で公開するといった使い方は想定していません。AIはあくまで制作や運用を支援する役割に位置づけています。

今後はタイトル提案に加え、概要の生成や文章の校正、テンプレート制作の支援なども検討しています。

──早瀬さんご自身も、日々AIを活用されているそうですね。

早瀬 ニュース記事やブログの校正によく使っています。以前は、下書きを作成してマーケチームに回すと多くの修正が返ってきていましたが、AIで一度校正してから提出するようになって、修正量が大幅に減りました。こうした「人を支えるAI」は、製品としても積極的に取り入れていきたいですね。

──テンプレート制作へのAI活用についてはいかがでしょうか。

早瀬 現時点で具体的な予定はありませんが、可能性は感じています。実際に生成AIへ指示してMovable Typeのテーマを作成したところ、十分実用的な品質になりました。

一方で、インターネット上には古いMovable Typeタグの情報も多く残っています。AIが常に正しいコードを生成できるよう、最新のリファレンスを整備していくことも重要だと考えています。

AIで記事の内容を分析し、記事タイトルを提案する「AIAssistantプラグイン」画面
AIで記事の内容を分析し、記事タイトルを提案する「AIAssistantプラグイン」。タイトルの雰囲気をドロップダウンメニューから選択することも可能です

25年使われ続けるCMSの条件

──数多くのCMSが登場しては消えていく中で、Movable Typeは約25年という長い年月使われ続けてきました。このように長く使われるCMSに求められる条件とは何でしょうか。

早瀬 1つ目は、徹底した「データの後方互換性」です。バージョンアップのたびにデータの構造がガラリと変わり、手作業での修正作業が必要になるようでは、企業が長年蓄積してきた「データという資産」が生きてきません。

Movable Typeが誇れるのは、今でもMovable Type 3や4といった、10年以上前にサポートが終了している大昔のバージョンからであっても、最新版へデータを引き継いでバージョンアップができる点です。もちろんデザイン(テンプレート)の調整は必要ですが、Movable Typeの記事やWebページのデータそのものは、システム構造を壊さずにそのまま持ってこれます。

──新しいCMSに変える際、移行コストの高さから過去の資産を諦めてしまう企業も多いですから、そこが担保されているのは心強いですね。

早瀬 比較的スムーズに資産を移行できる仕組みがあることは、大きな安心感につながると思います。

そして2つ目は、「日本企業としての安心感と開発体制」です。先ほども触れたとおり、最近はサーバの脆弱性に対する報告件数が増えています。だからこそ、何かあれば国内の開発チームが迅速に対応版を提供し、クラウド環境も素早くアップデートできる体制を維持しています。

トラブルが発生した際には、開発元へ日本語で直接問い合わせができるのも強みです。海外製のオープンソースソフトウェアのサポート体制に不安を感じるという利用者からの声も聞きます。Movable Typeの日本語サポートは、お客様に提供できる安心材料の1つだと考えています。

加えて、SaaS型の「MovableType.net」では、サービス基盤が国内にあることを重視して導入を決められるお客様もいらっしゃいます。実際に、他社サービスと比較検討されたお客様から、「サーバが海外ではなく東京にあること」や「準拠法と合意管轄裁判所が国内であること」が決め手になったというお話をうかがったこともあります。

開発体制だけでなく、サービス基盤も含めて国内で安心して利用できることは、多くのお客様にとって大きな価値になっていると感じています。

──長年築き上げてきた、制作会社やコミュニティとのエコシステムも、重要な点ではないでしょうか。

早瀬 本当にそのとおりです。私たちのパートナー制度である「ProNet(プロネット)」に加入いただいているみなさまや、長年支えてくださっているコミュニティ、そしてエンドユーザーのみなさまとの関わりがあってこそ、今のMovable Typeがあります。Movable Typeは「誰でも簡単にWebサイトをつくれるノーコードツール」ではなく、プロの制作会社様がお客様のために最適なサイトを構築するための道具です。だからこそ、ビジネスの基盤として信頼して使い続けられる製品であり続ける必要があります。

そして最後にもう1つ、「毎日使う人が、ストレスなく快適に使えること」。これも長く使われるための絶対条件です。

たとえば、管理画面での画像アップロードの手順を短縮するといった、一見地味ですが日常のストレスをなくすUI改善を繰り返し行っています。パフォーマンスの最適化も含め、管理画面の「使い勝手の良さ」こそが、企業のコンテンツが途絶えることなく更新され続けるための原動力になると信じています。

シックス・アパート株式会社 プロダクト シニアマネジャーの早瀬将一さん
シックス・アパート株式会社 プロダクト シニアマネジャーの早瀬将一さん

新機能を採り入れるかどうかの判断基準

──最後に、次々と生まれる新しい技術やトレンドに対して、それを製品に採用するかどうかの「判断基準」を教えてください。

早瀬 私たちは「新しい技術だから」という理由だけで飛びつくことはしません。その技術が、CMSとして、そして何よりユーザーにとって「本当に役に立つか」をまず徹底的に考えます。

加えて、新機能を追加することで「既存のユーザーにどのような影響が出るか」という視点も非常に重視しています。特にSaaS型のサービス(MovableType.net)の場合、アップデートによってすべてのユーザーの環境が一斉に変わるため、慎重な検討が必要です。

最近の傾向としては、「SaaS型でまず試し、磨かれた機能をソフトウェア版(本体)にフィードバックする」といういい循環ができています。たとえば、複数人で公開前の確認ができる「共有プレビュー機能」や、新しい「ブロックエディタ」も、まずは自由度の高いSaaS型で試験的に導入し、ユーザーの評判が良かったものをさらにブラッシュアップしてソフトウェア版に組み込みました。

──つまり、「新しい技術を採り入れること」そのものが目的ではなく、ユーザーにとって価値があるかどうかを基準に判断しているわけですね。

早瀬 流行の波にむやみに乗るのではなく、「何を変え、何を変えないのか」という本質を見極めながら、ユーザーの資産を守りつつ進化を続けてきたこと。それこそが、Movable Typeが25年にわたってWebの変化に対応し続けられている、最大の理由だと考えています。

取材・文:小平淳一 写真:黒田彰 企画協力:シックス・アパート株式会社
※本記事はシックス・アパート株式会社とのタイアップ企画です。

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