見て伝える時代へ 3Dが変えるコミュニケーションのかたち

技術や通信環境が進化し、情報の形や受け取り方は多様化しているが、基本は言語と文字でコミュニケーションは行われる。ただし、時代に応じて情報の形は変容し、読み手の受け取り方も千差万別になっている。そこで3D専門家と意見を交わし、視覚的手法を通じて、現代の読み手に適した情報設計のあり方を探った。

話してくれたのは…

目次

Discussion_01|見て伝える 言語を超える力 3Dの力

鳥谷 ラティス・テクノロジーは「カジュアル3D」という考えのもと、設計者しか扱えなかった3Dデータをいつでもどこでも、誰でも使えるようにする事業を展開しています。「XVL」という技術で3D CADデータを100分の1以下に軽量化し、製造業のDXを推進しています。指示書の3Dアニメはひとつの例です(Webでも簡単に3Dモデルの確認やアニメーション再生などによる”伝える”ができるようになっている。コンテンツ提供:ラティス・テクノロジー)。手順の視覚的な確認が可能になることで、設計者への問い合わせは減少します。

安西 3Dモデルを使った情報伝達には、(1)静的、(2)動的、(3)体験、(4)状況という4つの手段が考えられると思います。(1)は従来の図面など、(2)はアニメーション動画などで、同社の技術が活きる領域です。(3)はAR/VRを通じた体験型情報取得、(4)はデジタルツインなど、現実と連動した情報提供です。

安西氏は、3Dを活用したコミュニケーションを静的、動的、体験、状況の4段階に整理。読み手の理解は、文字情報だけでなく動画や接触を介するようにもなっていて、ラティス・テクノロジーの技術がそれを加速させると考察した

鳥谷 わかりやすい分類だと思います。(2)の動画は、外国人労働者や非専門家にも操作手順や構造を視覚的に伝えるのに有効です。例えば、船舶部品の修理を海外で行う際、アニメーション動画が言語の壁を越えてスムーズな対応を可能にしています。

安西 グローバルな現場において多言語対応は重要ですが、翻訳の精度や専門用語の扱いが課題になってきますよね。3Dを使えば視覚的に伝えられるため、言語の違いによる誤解を減らすことができます。これは非常に有益な活用例です。

鳥谷 現在、異なる言語を話す人が同じVR空間で自動翻訳を通じて会話をする実験も進行しています。言語だけでなく、現実の空間を超えることができるようになってきています。

新堀 (3)のAR/VR活用は製造業で広がっています。工場の空間を点群データで再現し、遠隔地での開発や改善に役立てる使い方は、もはやメジャーになりつつあります。

鳥谷 遠隔作業の発想は以前からありましたが、5Gの普及で大容量データのやり取りが可能になり、実用化が一気に進みました。特に通信インフラが整っていなかった地域でも、3Dモデルの活用が容易になったのです。なにかの故障が発生した時には3Dモデル付きのパーツカタログと故障内容を照らし合わせることで迅速に部位特定ができ、作業効率が向上します。また、(4)の現実との連動という点では、かつて雨で濡れた切符を重ねて投入すると自動改札機が故障する事例がありました。実機では再現困難な状況をデジタルツインで再現し、原因を特定できます。XVLによって複雑な情報を簡素化することで、3Dが部門や言語を超えた共通言語となるのです。現実には発見しにくかった課題発見があり、ミスの減少にもつながります。

Discussion_02|現場で使う 実用性と安全性のバランス

安西 現場での3D活用は進んでいますが、運用面において考えられる課題はなんでしょうか。

鳥谷 組織間の連携はひとつの課題です。サービス部門が3Dデータを必要としても、それを設計するのは設計部門なので、必然的に交渉や調整が発生します。間を取り持つ旗振り役が必要になってくるということです。

またVRやARに関しての課題として、VR専用ゴーグルを装着するとVR酔いを発症することがあります。さらに、ゴーグルを装着することで視界が遮断されるので、安全面からも万全とはいえません。そのため、VRを使う際には必ず補助役をつける企業もあります。

黒田 労働安全の観点からするとVR酔いを無視した議論はできません。ゴーグルを着けると没入感がありますが、それが安全対策に支障をきたさないことを証明しなければなりません。これがVR普及の壁になっているともいえるでしょう。

鳥谷 ARであればタブレットなどで表示している画像の上に3Dの情報を重ねて表示するので、VR酔いのハードルは超えられます。ただし両手が塞がってしまうので、工場などの現場ではストラップを携帯するなど安全性の担保が求められます。
 アプローチの方法としては、ユースケースの使い分けは行っています。教育訓練の段階では安全なスペースを確保した上でVRゴーグルを装着して作業を学び、実際の現場では必要に応じてARを活用しながら効率化を図るというような具合です。

中原 課題への対策を図るのと同時に、VRやARの導入を進めるための方法について考えなければなりませんね。まずは情報提供です。前衛的な例ではなくて、VRやARの活用による身近な作業への有効性を伝える必要があるかもしれません。製造業の現場で新しいものを導入するためには大きな労力をともなうので、「それは既存技術で解決できるのではないか?」という指摘が必ず入ります。だからこそ、「これもできる、あれもできる」と可能性の話を広げるのではなく、より具体的な課題に焦点を当てながら「この技術がなければ解決できない」というレベルで訴えていく必要があるでしょう。

XVL技術によるVRコミュニケーションの可能性

XVL技術を用いて開発された「XVL Studio VRオプション」は、3Dモデルで遠隔地の状況を再現し、VRを活用して確認・検証ができるシステムだ。このような手法は製造業の現場ではメジャーなものになりつつあるという。

Discussion_03|現場で使う 情報設計と世代の視点

安西 この先3Dを活用したコミュニケーションに関して、どのようなチャレンジをお考えですか?

鳥谷 異なる言語を持つ人が複数の遠隔地から仮想空間に同時アクセスし、3Dモデルに触れながらコミュニケーションを行えるシステムを考えています。また熟練者の技能継承を目的に、3Dのヒューマンモデルへの記録や再現にも取り組んでいます。課題や普及の壁もありますが、デジタルネイティブのように3Dを「空気のような存在」として認識する人々が増えるにつれ、状況は明るくなっていくでしょう。

黒田 その流れは、読み手の情報の受け取り方が変わっているからこそ生じています。一方で、情報をつくる側には文字や言語情報に固執して手段を変えられない人もいます。現代では元情報がそのまま伝わることは現実的ではなく、ユーザーインターフェイスは別物として考えるべきです。しかしその認識が浸透していないことには危機感を抱いています。

安西 作り手の意識を変えるためにはどのようなことが必要になるのでしょうか。

黒田 実証実験を行い、3D活用の効果を可視化することが大切です。工事や販売の現場で実際に3Dモデルを使った人々の声や、削減されたコストのデータを集めて有意差を示すのです。その上で、読み手が変化していることを理解し、寄り添った形で情報を提供することが重要です。

鳥谷 そうですね。ただし、トライと運用にはギャップがあることは忘れてはなりません。VRが現場に定着しないのは、データやVRコンテンツの準備に手間がかかるからです。その点、XVLさえあれば、ゴーグルをかぶるだけでXVL VRを即座に利用できます。現場の負荷をいかに減らすかが、3D普及の鍵となるでしょう。

テクニカルコミュニケーションシンポジウム2025(略称:TCシンポジウム2025)テーマ:ぼちぼちやろか データ活用~制作現場はどこまで進んだのか?

[期間&場所] 2025年10月8日(水)~10日(金)京都リサーチパーク

◆ 本記事登場の安西敬介氏が基調講演に登壇決定!

テーマ 「伝える」だけではない「価値を創る」アプローチへ

~データ活用時代の思考のアップデート~

◆ 申込方法: 8月末頃公開予定

◆ https://jtca.org/symposium/jtca-sympo-2025/tcsympo2025/

Text:久我智也 Photo:五味茂雄

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