《あのWebサイトの裏側 Vol.1|モンブラン ブランドサイト》自社が提供するブランディングを体現

熊本と福岡に拠点を持つ株式会社モンブランは2024年7月、同社のブランディングサービスサイトを公開し、大きな注目を集めました。「愛されることは、むつかしくないよ」というコピーのとおり、誰もに「かわいい」「すごい」と思わせ、“ブランディング”を自ら体現しています。その完成度へ至る背景を代表の竹田京司さんに聞きました。

話してくれた人

竹田京司 さん

株式会社モンブラン 代表取締役。同社はWebサイトの企画・制作・運用からブランディングまで行うクリエイティブ・チーム。「まるっとおまかせ」案件を得意とし、顧客の“ありたい姿”に寄り添う。竹田さんは今回のサイトのクライアントでありプロデューサーとして、全体をとりまとめる。制作中、サイトの全体像があったのは竹田さんの頭の中だけ。

目次

OVERVIEW

株式会社モンブランは熊本(mont.jp)と福岡(monf.jp)の2拠点でサイトを持ち、それぞれ地元を対象に「ホームページ制作」でSEOを図っていました。しかし、熊本のサイトをリニューアルしたところ、特にコロナ以降は県外からも多くの問い合わせが寄せられるようになりました。

そこで、福岡のサイトを「ブランディングサービスサイト」としてリニューアル。同社がこれまで紡いできた“やさしいブランディング”を体現し、事業のもう一つの軸とすることを目指しました。

POINT①|「むつかしくない」けれど「大変」なこと

私たちがお客様のブランディングに取り組むとき、最初に軸となるコピーをつくり、それを体現するための表現方法を探っていきます。今回はこのやり方を自分たち自身に適用していきました。

長年一緒に仕事をしてきた、信頼するコピーライター・福永あずささんに依頼し、生まれたコピーがこの「愛されることは、むつかしくないよ」です。一般的に、ブランディングというとどうしても話が難しくなりがちですが、私たちの考える“ブランディング”はもっと柔らかく、普通で当たり前のことです。これまでWebサイト制作の延長でやってきたいろいろな“お節介”がその原点にあるからかもしれません。事業を始めた当初からやってきたことに一番近い言葉が“ブランディング”だった、という方が正しいでしょう。

そんな私たちがどんなブランディングを提供するのか、このサイト自体がそれを体現するものになっていることが一番伝わりやすいと考えました。

自分たちで「むつかしくない」と言いながら、実は「(思いつくかもしれないけれど)大変」なのがブランディングです。いつもはお客様に「大変ですけれどアクセルを踏みますか? 私たちは踏むのがいいと思います」と、提案しているわけです。今回は自分自身がその立場になり、いろいろと考えた上で、心を決めてアクセルを踏むことにしたのです。

そしていざ走り出すと、やはり大変でした。やるべきことが次々に現れ、結局2年近い時間をかけることになったのです。

これまでのさまざまな案件で用いてきたアイデアをサイトの各所へ散りばめた、オムニバス形式のポートフォリオにもなっています。フッターが終わってもコンテンツが続く構成もそのひとつ

POINT②|ムダと非効率が生む“愛され”要素

私たちのブランディングをどのように説明すれば、Webサイト上で体現できるでしょうか。そう考えたとき、人間が説明するのでは押しつけがましくなってしまう気がしました。噛み砕いた言葉で伝えたり、人にお節介するような話は、可愛らしいキャラクターの方が嫌みがありません。

そこで、「モンブー」と「ラン」というキャラクターをつくることにしました。過去にも、堅くなりがちな言葉にツッコミを入れたり、補足したりする役割でキャラクターを用いた例がありました。二人組にした理由は、“やさしいブランディング”という漠然とした物語を探る上で掛けあいができたほうが進めやすいからです。

当初はイラストだけの構想でしたが、インパクトの強さや後の効果を考えた末に着ぐるみまでつくり、みなさんを驚かせることになりました。普通に考えれば着ぐるみはいらないもの、ムダなものです。着ぐるみをつくる大変さも過去に経験しています。でも、私たちはそのムダ・非効率を大事にしてお客様に提案してきました。“いらないもの”は“愛され要素”にもなり得るからです。私たちに興味を持ってくれる方はそうしたムダ・非効率に魅力を感じてくれているのだと思います。

一方、現実的な課題として、着ぐるみは動きや表情が極端に限られます。そのため、大きくて包容力あるキャラクターを表現するにはイラストも必要でした。両方を用いるのは私たちとしても実験的な試みでした。

メインビジュアルは、フォトグラファーの内村友造さんと、クリエイティブディレクター/コピーライターの福永あずささんによるコーディネート。イラストはこのカットをもとに制作されました
モンブーとランのキャラクターデザインは、イラストレーターの村井健太郎さんが担当。ランはモデルの女の子を先に決め、イラストの方を人物に寄せてデザインされました。下の図は初期の設定画

POINT③|情報量に企画力をかけ算する

ブランディングを強みにする制作会社はすでにたくさんあり、後発である私たちが検索で見つけてもらうには、同じことをしていては足りません。王道は情報量で攻めることですが、その一点のみで先行に並ぶのは難しく、また最初にある程度話題をもらうことも必要だと思いました。そこで、情報量と私たちが自信を持つ企画力とを組み合わせようと考えたのです。

サイト訪問者は家に遊びに来てくれた人のようなものです。できれば楽しませたいし、せっかくならどのページを見ても一つはためになったり、クスッと笑えたりできる部分があってほしい。それを1個ずつ形にしていくことで、いわゆる“コンテンツマーケティング”を私たちなりに昇華することができるのではないだろうか。そう考えての試みでした。「対談」や「実績紹介」には、一般的に定番と言えるスタイルがあります。それはそれでひとつの正解であるとして、一方で私たちなりにもっとブラッシュアップできることがあるはずです。当たり前のものを当たり前と思わずにちゃんと考え直すという地道な作業を、すべてのページに対して施していきました。

私たちのブランディングを知っていただくには、最終的にお客様との対談や実績紹介まで見てもらうことが最善です。では、どの内容をどんな順番で伝えれば見てもらえるのか。それを意識した全体の設計と各ページの構成づくりは、一番時間をかけた部分です。

顧客との対談「ブランディングの副音声」は、温泉地やデイキャンプなど友達と過ごすようなシチュエーションで実施
ブランディングの具体例となる「実績紹介」。成果を信頼感につなげるだけでなく、顧客と向き合うモンブランの視点や考え方が伝わる内容に
SEOコンテンツ「はるかの営業日報」。読み応えのあるマンガは九州のクリエイティブ集団「MONSTAR」で過去に制作したものをリバイバル

POINT④|Webサイトは未来を指す“北極星”

自分たちのことを人に伝えるには、やはり第三者の視点が必須です。先に述べたように、今回はこれまで多くの仕事をご一緒してきた福永あずささんにその役割をお願いしました。ですが、いざ私たちのブランディングをコピーにしてもらうと、それはとても“飲み込みづらい”ものでした。

私たちがお客様の企画を考えるとき、お客様の“今”を表現するのではなく、3年後、5年後にありたい姿を深掘りして聞き、未来の状態を表すものを提案しています。お客様企業の皆さんがそれを目標に進んでいける、いわば“北極星”となるものをつくりたいからです。ですから、提案する時点ではお客様にとってしっくりこない、受け入れるのに勇気がいる内容であることが少なくありません。しかし、そうした飲み込みづらいものの方が、後で振り返るとよかったと思うことがこれまでに何度もありました。

私も「愛されることは、むつかしくないよ」というコピーを最初にもらったときは、正直なところ「恥ずかしい…!」と思ってしまいました。ですが、福永さんへの信頼や、これまで勇気をもって私たちの提案を受け入れてくれたお客様の、3年後、5年後の姿に背中を押され、私も勇気を持って受け入れることにしたのです。

今の私たちは、まだこのサイトの内容に追いつけていないと思っています。これに見合う組織になっていくことが現在の目標であり、そこを目指してこれからも仕事をしていきたいと思います。

Webサイトがお客様の“今”ではなく少し未来を表現することで、みんながそれを目指して進んでいくための北極星になります
“少し未来”の表現に対して、社内からは「ハードルが上がる」という声も聞かれたそうです

取材・文:笠井美史乃
※本記事は「Web Designing 2024年12月号」に掲載された内容を一部修正・再編集して公開しています。

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