
「仕事をなくすボタン」を押し続けている──坪田朋(クラシル)×小島芳樹(chot Inc.)が語る、AI時代にデザイナーは何をすべきなのか?
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AIの進化によって、デザインと開発の現場は静かに、しかし確実に変わり始めています。クラシル株式会社でCPO(最高プロダクト責任者)を務める坪田朋さんは、AIに読み込ませることを前提にデザインシステムを再設計し、今やUIデザインの7割をClaude Codeで行っているといいます。一方、ちょっと株式会社の小島芳樹さんは、「ずっとやりたかった」という新しいUIの形が、いよいよ現実になる手応えを感じていると話します。AIによる産業構造の転換期を、どう生き抜くか。10年来の旧知である2人が語り合いました。

目次
“デザインの分業化”の10年と、AIが引き起こした再編
小島芳樹(以下、小島) もともと坪田さんとは、所属していた会社同士で合同の勉強会を開催していて、その担当同士だったことがきっかけで交流が始まりました。もう10年くらいのお付き合いになりますね。
坪田朋(以下、坪田) そうですね。当時はまだ、プロトタイピングツールを使いながら、デザインのプロセスをどう変えていくかを試行錯誤していた頃でした。

小島 あの頃と比べると、この3年の変化はそれまでの10年分を超えるようなスピードで進んでいる感覚があります。特に昨年末あたりから、AIのアウトプットが一気に変わった印象があって。そこで今日は「AI時代のデザインの役割」というテーマでお話を伺えればと思います。
坪田 はい。僕自身もAIの急激な進化は強く実感しています。
小島 デザインに関しても、「それっぽいもの」ではなく、かなり本物に近いアウトプットが出るようになってきました。このあたり、どのように見ていますか。


坪田 AIはデザインの領域にも確実に入ってきていますが、その中でも「置き換えられる領域」と「人が担い続ける領域」は分かれていくと思います。
AIが進んでいく領域としてまず挙げられるのが、リサーチです。「ChatGPT」でGPT-4が登場したあたりから、リサーチ業務はかなりAIで代替できるようになりました。その結果、これまでリサーチが得意でなかったUIデザイナーでも、AIを使えばスキルを補完でき、対応できる仕事の幅が広がっています。
UIデザインについては、エモーショナルで個性が強く出る表現はまだ置き換えが難しいでしょう。一方で、ロジカルに組み立てられるUIは、かなりAIで対応できるようになってきました。特に業務システムやSaaSではその傾向が強いです。従来はワイヤーフレームからFigma、UIデザイン、実装という流れでしたが、そのプロセス自体が一気に圧縮されてきています。
小島 確かに、AIによってプロセスが大幅に圧縮されてきていますよね。
坪田 ただ、AIが出してくるUIは「正解っぽいけど、どこか他人の家みたいな感じ」なんですよね。情報設計としては合っているけど、ユーザーがそのプロダクトに感じる空気感や世界観までは作れない。たとえば、ボタンひとつの角丸やマイクロインタラクションのタイミングに、そのプロダクトらしさが宿ります。なので、そこは今も人間が決めています。
UIデザインは、今や7割がClaude Code
小島 坪田さんご自身は、普段の仕事でどんなAIツールを使っているんですか。
坪田 圧倒的に「Claude Code」が多いですね。Claude Codeを使って、AIに読み込みやすいデザインシステムを構築しました。人間向けのドキュメントと、AI向けのJSONベースのデザイントークンを分けて設計しているんです。
そうすることで、AIがロジックを組み立てやすくなり、UIデザインを効率よく生成できる。さらに、そのデザインがシステムに沿っているかどうかのレビューも含めて、一連の流れをほぼ自動で回せるようになってきました。
小島 そうすると、今はもうFigmaでUIデザインはしていないんですか?
坪田 今でも使っていますよ。ただ、昨年の12月くらいまではFigma中心でしたが、Claude Codeの進化を見て、ロジカルに組めるUIはFigmaを使わず、コード中心で作る方向にシフトしています。
最初からAI前提で設計したデザインシステムを使えば、かなりスムーズに構築できる。現在は7割くらいをClaude Codeで、残りをほかのツールで補っています。
小島 僕はChatGPTやClaudeも使っていますが、最近はVercelが提供するUI生成ツール「v0」をよく使っています。プロンプトを入力するだけでUIを生成できるツールで、半年前と比べても精度がかなり上がっています。さらに、生成したページをもとに企画書や見積書まで出力できるんです。

坪田 それはすごい。もうWeb制作会社向けの支援ツールという感じですね。
あらゆる業界に迫る「構造転換」
坪田 今はAIツールを使いこなせる一部の人たちだけが恩恵を受けている状態ですが、いずれそれが一般ユーザーにも広がるタイミングが来ると思います。この2〜3年で、店舗や小規模な事業者でも、自分でWebサイトを生成できるようになるのではないでしょうか。
小島 すでにその兆しは感じています。先週、既存のクライアントから「これまでの制作をすべてAIに切り替えるので契約を終了したい」と言われました。こうしたケースは初めてでしたね。
ただ話を聞いていると、AIを過信している印象もありました。開発やデザインの経験がない方で「AIで全部できる」とおっしゃっていたのですが、Webの技術的な質問をすると答えられないんです。
坪田 それは危ないですね。ただ、それが実際に起きているということは、流れ自体は確実にそちらへ向かっているということでもあると思います。
小島 先日、GMOペパボが運営するレンタルサーバ「ロリポップ」がAI対応を発表していました。「ロリポップ AIエージェント Skills」という機能で、Claude CodeなどでWebサイトを作り、「公開して」と伝えるだけでサーバにアップロードできるようになります。
ロリポップはもともと初心者向けの定番サービスでしたが、そこがこうした対応をしてきたのは驚きでした。

坪田 そうしないと生き残れないのでしょうね。サービスの規模にもよりますが、トラフィックが少なく、複雑な動的処理が不要なサイトであれば、十分に成立する時代になっています。
広告代理店や制作会社も、これからは伸びる企業と伸び悩む企業で二極化していくと思います。印刷会社や広告代理店の倒産が増えているというニュースもありますし、産業構造の転換期に入っている感覚はありますね。
小島 僕自身、昨年は不安もありましたが、この2カ月くらいでかなり前向きになってきました。効率化が進んできた実感に加えて、「これまでできなかったことに手を出せる」という感覚が、充実感につながっています。
僕は以前から「ジェネレーティブUI」をやりたかったんです。訪問者の認知や年齢、属性に応じてUIがリアルタイムに生成される仕組みで、これまでは技術的に難しいと思っていた。それがAIによって実現できるフェーズに来たと感じています。
AI時代に何を学んでいくべきか?
坪田 AIを活用して自動化を進めるほど、自分の仕事が減るのではないかという不安を感じた時期もありました。でも今はむしろ、「AIを使って早く仕事をなくしたい」という方向にモチベーションが変わっています。

ただ、そこに至るまでは大変でした。自分の仕事をなくせる人は、世の中にあまりいないと思うんです。「このボタンを押したら自分の居場所がなくなる」という感覚で、なかなか押せない。
実際に僕も、デザインシステムをAIに読めるように整備して、Claude Codeに渡して、きれいなUIが一発で出てきた瞬間に「あ、これもう俺いらないな」と思ったんです。自分で設計したシステムが、自分を不要にしていく。正直、手が止まりました。でも、しばらくして気づいたのは、そのシステムを設計できたこと自体が価値だったということ。AIが再現できるレベルまで言語化し、構造化する力は、むしろ今まで以上に求められています。
今は、AI化の波から逃れられない状況になってきていますよね。そのストレスを抱えながらAIを学ぶことに、心理的な抵抗を覚える人も多いはずです。
小島 僕の会社の中でも、AIをどんどん活用している人と、そうでない人ではっきり分かれてきていますね。
坪田 これまでスキルを高めてきた人たちにとっては、「頑張って習得してきたのに」というがっかり感があって、AIに前向きになれない部分もあると思います。
一方で、若い人たちが素早くAI活用に取り組めるのは、そうした心理的コストが低いからかもしれません。いずれにしても、ストレスを感じながらでも先行して学んでいる人ほど、早く恩恵を受けられる。今はそういう時期ですね。
小島 ただ、若い人が今何を学ぶべきかは、悩ましいところでもありますよね。
坪田 そうですね。デザイン業界で重視されてきた基礎的なスキルはもちろん重要ですが、それをAIが体系化して出力できるようになったとき、何を学ぶべきかは大きな分岐点になると思います。
小島 今は高校・大学受験でも、思考力や創造性を問う問題が増えていますよね。昔は年号や人物名を暗記して答える問題が中心でしたが、今は記憶力だけでなく、その人の資質や能力を見る入試が増えている。不確実性の高い時代の中で、どんな能力を身につけるべきかという考え方自体が、30年前とは大きく変わってきていると感じます。

坪田 20年後には、そうした教育を受けた世代が社会に出てきますから、状況はさらに大きく変わるでしょうね。
小島 ところで坪田さん、「AIを使って早く仕事をなくしたい」とおっしゃっていましたが、その先でどんなことをやってみたいと考えていますか。
坪田 明確なビジョンがあるわけではないんです。ガラケーが普及したときも、スマートフォンが登場したときも、最初から未来が見えていたわけではなかった。ただ、その変化と一緒に進んでいく過程が面白いんですよね。そして、一番早く扱えるようになった人に、新しいチャンスが生まれる。
だから今は、仕事をなくすこと自体が目的ではなく、変化の先にある新しい機会を得るための準備という感覚です。
過渡期にしっかり学んだ人だけが、その後の新しい仕事を生み出せる。その権利を得て、また面白いことができたらいいなと思っています。

取材・文:小平淳一 写真:山田秀隆、企画協力:ちょっと株式会社
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