ビジネス書売上No.1著者、安達裕哉と考える。AI時代のクリエイターに必須の能力「コミュニケーション力」の磨き方

クリエイターに求められるのは、表現力や技術力だけではありません。ワークフローにAIの力を取り入れることが当然の現代、クライアントの真のニーズを引き出す「コミュニケーション力」の重要性が、これまで以上に高まっています。

相手との状況を汲み取ったコミュニケーションは、AIに任せきれない領域の1つです。コミュニケーション力を磨くことが、他のクリエイターとの差別化につながり、クライアントからの支持を集める武器にもなるはずです。

AI時代を生き抜くために、クリエイターに必要なコミュニケーション力について、2年連続(2023〜2024年)でビジネス書(単行本)売上No.1(日販およびトーハン調べ)を誇る『頭のいいひとが話す前に考えていること』の著者、安達裕哉さんに、クリエイターがコミュニケーション力を伸ばしていくためのヒントや、具体的なコツをお聞きしました。

目次

「あの人に、相談するか」──仕事を一緒にしたくなるクリエイターとは?

──「仕事を依頼したくなるクリエイター」とは、どういう人でしょうか? ある程度のクリエイティブ力を持っていることは大前提として、それだけではないはずです。

安達 「何かを始めよう」となったときに「とりあえず、あの人に相談しよう」の、「あの人」になれるか? クリエイターやデザイナーは、アーティストではありません。クリエイターとは「お客様の要望に応える立場」の人だからです。クリエイターに限った話ではありませんが、仕事を進めるなかで「声がかかりやすい人」がいますよね?

──「とりあえず、あの人に相談しよう」の「あの人」ですね。

安達 「あの人」はなぜ、声がかかりやすいのでしょうか? そういう人たちは、相手の伝えたいことを理解する能力が極めて高いからです。

──人は、自分のことを理解してくれる人にこそ、依頼したいということでしょうか?

安達 お願いしたい側は、そもそもお願いしたいことをうまく言語化できていない可能性があります。そこで、相手の理解に長けた人が対応すると、相手(お願いしたい側)が「そう、それ」となるわけです。

──つまり、相手の意図を汲むのがうまいからということでしょうか?

安達 ええ。それは「技術」であり「能力」なんです。意図を汲むとは、相手の「役に立つこと」を読み取る能力だと言い換えられます。この能力を持っている人に対して、「私の役に立ってくれる人だ!」となるから、相手は信頼してくれるのです。

もっともダメなのが、自分がいいと思うことを押しつけてしまう人。私がコンサルタント時代にも、さんざん見てきましたが(苦笑)、そんなコンサルタントは一切人気がありません。

安達裕哉さんは、生成AI事業を手がけるワークワンダース株式会社の代表取締役CEOも務めている

──相手の意図を汲めないから、自分の主張を押しつけるしかないわけですね。

安達 クリエイターではなく芸術家ならいいのかもしれませんが、クライアントワークをする立場(=クリエイター)でできないのは、致命的な弱点です。

──心当たりのある人は、まずは意識改革がスタートでしょうか?

安達 ご自身がどういう状況にあるかを確認してください。相手の役に立ちたいのに、技術的にできないのか? それとも、自分のことを芸術家だと勘違いしているからなのか? 後者の人は、ただちに認識を改めましょう。

前者の人は、「相手に『また仕事がしたい』と思ってもらうにはどうするといいか?」という意識を常に持って、現場に携わる。ここを出発点としましょう。こう考えられるだけでも、物事に取り組みやすくなるはずです。

「察する」って、できる? クリエイターに大事な「しつこく確認する」こと

──やはり、AIに任せきれないことの1つが、「コミュニケーション」だと思います。

安達 AIと人間の関係性を考えると、制作については人間が不利です。特に、膨大でスピーディーな作業力には勝てないですから。

一方で、AIに代替できないことは何かと言えば、相手の真のニーズを引き出す「コミュニケーション力」に行き着きます。裏返すと、真のニーズを引き出せないクリエイターはAIに負けます

──もっと具体的に考えていくと、相手と対話していると「察する」べき場面が出てきます。では、相手の理解に長けている状態とは、察することのうまさを意味するのでしょうか? 本年2月の近刊『コミュ力が高い人が話しながら意識していること』(以下、『コミュ力』)では、「察するのは無理」なので「しつこく質問」をしたほうがいい、と指摘されています。

安達 「察する」ことができる人はやったほうがいいですが、「察する」ことは簡単ではありません。察した結果、実は相手の想いと違っていれば、トラブルになりかねない。一種の賭けになるからです。

「察する」とは、経験に基づく直感が非常に優れているかどうかにかかわる能力です。今までのお客様との折衝パターンを数多く経験してきたから、お客様の考えが推測しやすいわけです。ベテランコンサルタントが、初対面の相手に「社長、こういうことがやりたいんでしょ?」と言い当てて、「だったら、これがいいですよ」と指南できれば……

──それは信頼しますね。

安達 ただし、これはかなり高度な技術力を要します。この力を伸ばすこと自体はいいとして、私自身も自分が達人とは思えない(苦笑)。そこで、しつこく「質問」というより「確認」することが大事になる。察するのではなく(察するためには)、むしろ「しつこく確認」を重視すべきです

5年、10年と、相手に「確認」していく作業の積み重ねが、「察する」達人になる唯一の道です。正直、「何度も確認したら、相手が怒らないか」と気になりますよね? そこは「確認しないと、トラブルが100倍増しになる」と思って、ためらわずに「確認」するべきなのです。

「しつこく『確認』する」と「『察する』精度を高める」をサイクルさせ、相手の理解を深める関係性を示す図
確信がないかぎり、厭わず相手に「確認する」こと。確認が相手の理解をさらに深め、「察する」ことにつながります

信頼を得るための秘訣は、相手の「苦手を拾う」こと!

──若手や経験の浅い立場ほど、コミュニケーションを尽くしても相手から信頼が得づらい局面があります。その場合は、どうするといいでしょうか?

安達 コンサルティングの現場で意識されていることで、クリエイターのみなさんにも参考になる技術があります。それは、お客様の信頼をいただくには「相手の苦手を拾え」ということです

どんな人にも得手不得手があります。人にとって、不得意なことは面倒じゃないですか。心の中で「誰かやってくれないかな」なんて思っているときに、スッとやってくれる人が現れたら?

──助かった、となりますね。

安達 つまり、その人のことを「いいね!」と信頼を寄せるようになる。新入社員の最初のお客様は「上司」です。上司こそ、身近にいる最初の相手(お客様)であり、上司の苦手(=面倒だと思うこと)を拾える(=代わりにやっておく)と上司に目をかけてもらえる。その結果、他の人より仕事の機会が増えるかもしれない。

上司の苦手を代替し、上司の信頼を得ていく関係を示した図。資料作成、スケジュール調整、タスク展開が苦手な上司は心の中で「誰か代わりにやってくれたら……」と不安げなのに対して、上司を相手にする当人は「やります!」と応えている
相手(上司)が苦手にしていることをすすんでやれば、相手からの信頼が増していきます

──「上司」を同じチームの「先輩」や「同僚」と言い換えてもよさそうです。

安達 信頼とは、相手が「役に立つ」と感じる行動を繰り返すことで、手に入ります。言葉でなく行動が求められる。「上司に気に入られる」ことを軽んじる人はいますが、「上司に気に入られる」ことはとても大事な技術です。私は「社内営業せよ!」と周りに発破をかけているくらいで(笑)。ピーター・F・ドラッカーも書籍『ドラッカー名著集1 経営者の条件』で、上司の弱みを補完することの大切さを説いています。上司の弱みを責めても意味がないのです。

──まあ、上司(相手)に対して、いろいろ思うことがあっても、ですよね(笑)。

結論から伝えたら失敗した? 場面に応じたコミュニケーションの「使い分け」

──コミュニケーションの難しさの1つに、自分の真意がなかなか相手に届かないこと、が挙げられます。安達さんの最新刊『コミュ力〜』では、人(相手)には「自分が聞きたいと思うもの(興味があるもの)」だけが「伝わる」と指摘しています。この意味を聞きたいです。

安達 イソップ童話を思い出してみてください。子どもは説教なんて聞きたくありません。だから、物語で聞かせるわけであり、「伝わる」の本質が、これです。聞きたくないことをストレートにそのまま伝えても、聞いてもらえません。聞きたいと思える形(ストーリー)にして、伝えるのです。

──クリエイターが実践するには、どうするといいですか?

安達 ビジネスでよく使われる“物語”は「成功事例」ですね、これが参考になるでしょう。もちろん、成功事例を聞いたから成功するわけではありませんが、面白くなさそうな話でも成功事例という皮に包むとおいしそうに見える。具体性がある話に変わることで、ストレートに聞くよりも聞きやすく、腹落ちしやすくなるからです。著名人の伝記が売れるのが、いい例です。圧縮せず、ショートカットせずに伝えるからこそ、相手に伝わります。

──結論から伝えたほうがいい、とビジネスの場面では言われがちですが?

安達 結論から伝えないほうがいい場面があること“も”念頭に入れてください。「実は聞いた話なんですが……」みたいに話をして、2週間が経過したら「こういう話もありました」、1カ月後には「あの話は、その後こうなりました」みたいに話をしながら、少しずつ、少しずつ相手の理解を引き出す進め方が有効なこともあるんです。

──いきなり結論から言ってしまうことが、失敗に?

安達 覚えておきたいのが、人の考えや認識を変えることは決して簡単ではないこと。本来、時間がかかるものなのです。

──ですが、時間がかかると焦りますよね? 現場では先へ、先へと進めたいはずですし。

安達 相手が一刻も早く結論を求めている場面で、長くなりそうな話を始めても怒られるだけです(苦笑)。だからこそ、状況に応じて「使い分ける」ことが求められる。相手に「伝わる」には、結論から言うのが適する場面があれば、ストーリーに乗せて徐々に伝える形が適した場面もある。置かれた状況に対して、何が最適かを考えること。ここから逃げないことです。

状況別に伝え方を変えることを示す図。ケースA:結論を先に伝える、ケースB:例え話を交えて伝える、ケースC:手短に。例示も必要
状況によって、相手の理解を引き出す伝え方が異なります。その都度伝え方を考えるようにしましょう

他責は厳禁! 「実践」の繰り返しで、コミュ力アップを狙う

──結局、どうすれば相手の役に立てるコミュニケーションが身につくのでしょうか?

安達 こればかりは、知識を溜め込み理論を学ぶだけではなく、現場での「実践」で鍛えていくしかありません!

──「習うより慣れろ」ということですか?

安達 おっしゃる通りです。先ほど、「結論から話す」か、「ストーリーに乗せる」かという話をしました。これらを使い分けられるようになるには、実践を繰り返しながら「相手にどういう伝わり方をするのか」を体得するしかありません。失敗したら、ひたすら反省しながらコツをつかんでいく。会社に所属している人は、まずは社内で実践していきましょう。

──フリーランスで活動している人はいかがでしょうか?

安達 家族を相手に、はどうでしょうか? 家族の説得は、相当難しいですから。相手がどう思うかを想像しながら話をし、うまくいったかどうかを検証していく。この切り口でコミュニケーションを重ねていくことが、何よりの鍛錬になります。

──最後に、クリエイターに向けたさらなるアドバイスをお願いします!

安達 相手と意見の相違や解釈の食い違いが見られたときに、決して他責にしないことです。「あいつは何もわかっていない」ではなく、自分の何が原因で伝わらなかったのか、を反省するのです。

私が監査法人トーマツに在籍していた時代、もっとも肌身にしみて学んだことが、「伝える」のではなくて「伝わる」ことに重きを置くこと、でした。「伝わる」状態とは、相手が話をしてほしい内容通りに話すこと、を指します。伝わらないのは、相手が求める話ができていないからであり、そんな話をした自分が悪いのです。

──日々の地道な積み重ね、ですね。

安達 「なぜ伝わらなかったのか」と原因を徹底的に究明したら、次の異なる場面で、導いた改善策を実践してみましょう。この繰り返しを通じて、みなさんのコミュニケーション力が相当に磨かれていきます。

取材・文:遠藤義浩

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