
ショート動画で投稿するレストラン検索サービス「Atmosfy」
口コミサービスの課題を動画で一気に解決
日本においてレストランの口コミサービスと言えば「食べログ」や「ぐるなび」が主流ですが、アメリカでは2004年に誕生し世界32カ国で展開している「Yelp」がここ十数年の間、最もメジャーなサービスとして利用されてきました。しかし最近では、いよいよ次世代のサービスに注目が集まってきています。
今回紹介する「Atmosfy」は、動画を利用してレストランを紹介するサービス。レストランに行ったユーザーがその店の料理や店内の様子を動画で投稿するというものです。
従来の口コミサービスは写真の投稿などはできるものの、基本はテキストでの情報公開がメインでしたので投稿者の文章表現やその人の主観が強く影響された感想や評価になってしまっていました。それを読むユーザーも自分の主観に影響された捉え方をするので、どうしても偏った印象を与えがちでした。しかしAtmosfyのような動画投稿だと、料理だけではなくレストランの雰囲気などが直感的にありのままで伝えることができます。
同時に、従来のサービスの課題点の一つであった「写真の盛りすぎ」(提供する料理などの写真に手を加えられたりして、事実以上に豪華だったりする)による不信感も動画であることである程度解消されます。さらに、レストランによってはその料理をつくっているシーンや、料理やドリンクを実際に食べたり飲んだりする動きを動画を見ることでイメージを掴みやすく、オーダーする際の参考にもなります。
また、これも課題の1つである、店内の一部を切り取った写真では「雰囲気が伝わりにくい」という課題も動画という手段で解決します。
要するに、従来の口コミサービスの大きな課題であり解決が困難だった、「投稿情報の信憑性」、本当にこの投稿(レビュー)を信じていいの? というユーザーの不安を、動画という手段で一気に払拭したというわけです。
仕組み的には近年の「Instagramストーリーズ」や「TikTok」などでユーザーに浸透した短い尺の動画投稿(その閲覧)サービスに、口コミという古くから定着している個人のレビューを公開する・参考にするサービスを紐付けたといえばそれまでですが、それを時代のニーズにあわせてうまく融合し、新サービスとして昇華させたことが注目に値します。

動画を投稿するスタイルのレストラン検索・口コミサービス。レストランに訪れた客がショートムービーを撮影し投稿します。ユーザーは料理の種類や価格などで投稿動画の検索もできますが、現在いる場所の周辺で投稿されたレストラン情報がマップで表示されるので、「近所でたまたま見つけたよさげな店」にフラッと出かけるというような楽しみ方を提供します
「探し出す」体験から「眺めて見つける」体験へ
アプリのUIは、まさにTikTokやInstagram Reelなどをイメージさせる動画のブラウズをメインとしたもので、自分の現在地をベースとしたコンテンツが提供されます。これまでの「レストランを探す」という体験から、「自分の近くにあるよさげなレストランをブラウズする」といった、より楽しさに重点を置いたUXを提供しています。この変化は、商品を検索する「ヤフオク!」のUXと、なんとなくブラウズしながら気に入った商品がでてきたら詳細を見る「メルカリ」のUXの違いにもつながる内容です。
想定されるユーザーの利用用途としても、レストランを探して予約をするというよりも、自分のロケーションの近くでイケてるレストランやバーを見つけ、今からフラッと行ってみるというような内容になっています。気になるレストランを見つけたら、画面上のアイコンをタップすることでルートも表示されます。もちろん地図全体や利用目的、タイプなどのフィルタからレストランを検索することもできます。
当然ながら、見るだけでなくユーザー自身も動画を撮影して投稿することができ、Instagramなどと同じく自分のいったレストラン(食べた料理)の記録としても利用できますし、自分がお気に入りのレストランの投稿をしてインフルエンサーになることもできます。
ちなみに、アップされた動画は運営が2~3日かけてクオリティをチェックし、審査に通ったものだけが採用されるので、冒頭に述べたコンテンツの信憑性についても問題ありません。
「コロナ明け」からレストラン検索は新時代へ
Atmosfyは2019年にThe Batcheryと呼ばれるUCバークレーを拠点としたスタートアップアクセレレーターに参加。現在でもサンフランシスコの住宅街のアパートをオフィスとし、最小限のチームサイズと資金で運営されています。2019年よりニューヨークやサンフランシスコをはじめとして、アメリカの都心部からサービスをスタート。動画ネイティブのZ世代を中心に人気を拡大しています。
まだ余談を許さない状況ではありますが、新型コロナの影響が落ち着けば、レストラン検索サービスは動画が中心になっていく可能性が高いと感じられます。日本に上陸する日も遠くないかもしれません。



- Text:ブランドン・片山・ヒル
- 米国サンフランシスコに本社のある日・米市場向けブランディング/マーケティング会社Btrax社CEO。主要クライアントは、カルビー、TOTO、JETRO、伊藤忠商事、Expedia、TripAdvisor等。2010年よりほぼ毎週日本から米国進出を希望する企業からの相談を受け、地元投資関係者やメディアとのやりとりも頻繁。 http://btrax.com/jp/