
「あなたのサイズ必ずあります」。なぜ白鳩は顧客の要望に確実に応えられるのか●特集「EC再強化」
驚異の品揃え。圧倒的な支持を得る白鳩のシステムとは?
白鳩が本社を構える京都府伏見。同社の副社長でWeb事業を担当する池上正さんに案内されたのは、見渡すほどに広い、ワンフロアのオフィスルームだった。
「2011年に建てました。人もモノも増えてきたので、少しでも大きなところへ、と考えてのことです」
このオフィスの様子から、実は、白鳩という会社のECにおける成功の理由を読み取ることができるのだが、それについてはおいおい触れることとして、まずはインナーウェアという商品の独特の性格を聞いておきたい。
「よくアパレルと比較されるのですが、実はまったく別のものなんです。例えばアパレルには流行廃りがあって、当たり外れが激しいのですが、下着はそれが少ない。外からは見えない、というのがその理由でしょうね。またアパレルと比べると、とにかくサイズやカラーが多いという特色がありまして、ブラジャー1つの商品で、最低でも12種類、多いものだと色違いを含めて54種類とか、そういう膨大な数になるんです。しかも、売れるサイズのみに絞り込むといったこともしにくいんです」
インナーウェアは、典型的な「少量多品種」の商品なのだ。
「しかも単価が安く、利益も薄い。手間がかかる割には実入りが少ないというわけです。とはいえ、そういった条件のもと、お客様の要望にしっかりと応えていければ生き残ることはできるのではないか思っています」
現在のECでは、以前とは比べものにならないほどにスピーディな出荷対応が求められる。白鳩では、ECサイトの上部に、常に出荷のタイミングを示す表示を掲出しているが、どう管理しているのだろうか。
「あれは僕がこだわっているところです。お客様と同じ視座で見た場合に、いつ届くかというのはもっとも大事な要素の一つ。大事な情報はやはり目立つところになければ、と」
しかし、少量多品種で薄利の商品を、スピーディに出荷するとなれば、その「手間」や「コスト」とどう向かいあうかが課題となる。まず思いつくのは、アウトソーシングしてコストを下げる方法だが、白鳩はそれとは別の、独自の考え方に基づく解決策を生みだした。彼らが「ワンストップ・エコシステム」と呼ぶ仕組みがそれだ。一つの場所で業務のすべてを行う、という意味が込められている。
「実は、この建物の1階と2階は物流倉庫なんです。レディス、メンズあわせて1万種類以上の商品を在庫しています。試行錯誤を繰り返してきた結果、現在は自動制御のロジスティックシステムも導入し、1日あたり1万5,000枚、個数にして5,000個の出荷が可能になりました」
外部委託は考えなかったのだろうか。
僕も15年、ECをやってきていますから、外に出すことで大幅にコストをカットしたという話も耳にしてきました。ただし、それで効果が上がるのは、ラインアップを絞って商品展開できるECサイトでしょう。我々のように多品種の場合はそこまでコストは下がらないでしょうし、かえって時間のロスなどの問題が発生しかねません。それに“そもそも論”として、商品をお届けするという大事な作業は自分たちでやるべきだろう、と。“商品と一緒に動く”ことで、業務改善のためのノウハウや、カスタマーサービスにつながるヒントが見つかるんですよ」
「ワンストップ・エコシステム」の思想は、流通部門にとどまらず、発注や在庫管理といった社内オペレーションや、ECサイトの制作にも広がっている。ワンフロアのオフィスに、ECを動かすためのすべての要素がパッケージされているのだ。
「一つひとつの工程を見ていくと、超一流のプロに劣ることもあるかもしれないのですが、それと引き替えに、かけがえのない経験を得られます。そりゃあ、たまにはミスをして、お客様から怒られたりすることもあります。でもそれもまた、貴重な経験なんですよ」
池上さんには、「サービスの質は、スタッフの質が決める」という持論がある。「自分たちでできることはすべて自分たちでやる」というワンストップの仕組みは、効率化のためのプランであると同時に、サービスの質を向上させるための最適解でもあるのだ。

お話を伺った人:池上正さん
株式会社白鳩取締役副社長(兼WEB事業部・海外事業部長)。同志社大学法学部卒業後、グンゼ株式会社へ入社。レディースインティメントの営業マンとして8年間在籍した後、白鳩へ入社。
お話しを伺った人:ラッセル佑子さん
Web事業部 営業企画課 店舗グループ。京都造形芸術大学通信教育課程卒業後、印刷会社にてDTPを経験し、2013年白鳩に入社。
クエスチョンのないサイトを。使い手の視点で突き詰めていく
白鳩のECサイトは、どういった点に力を入れてつくっているのだろうか。池上さんは、「Webサイトにはクエスチョンがあってはいけない」と話す。
「商品についてはもちろん、配送や決済といった部分についてもそう。イライラすることなく『ああ、なるほど』と納得して買ってもらえるような仕組みにしていかないといけないんです。そのためにはやはり、使う側の視点から、先回りして考えることが必要でしょう」
とはいえ、素材感とか着用感といった部分の表現はECでは難しい。白鳩では3D写真を使って、回転させながら形状を確認する仕組みを導入するなどしているが、全ての問題が解決したわけではない。
「ECにとっての永遠の課題でしょう。とはいえ、止まってしまったらそこで終わり。毎日のように見つかる課題に対して、その場その場で対応していかなければ、ECの世界では生き残れない。あっという間に脱落してしまうと思います。だからこそ、より高いサービスを提供し続けられる体制を、人材育成も含めてつくることが大事だと思うんです」

商品としての「インナー」とは?
特に女性にとって必須の下着類。その特色はというと、1アイテムごとの種類の多さ。特にブラジャーはサイズや形状ごとに驚く程の種類がラインナップされている。また、1商品あたりの金額も大きいわけではなく、他品種かつ薄利の商品だと言える。
顧客の動向にリアルタイムで対応するワンストップのデザインスタイル
同社Web事業部門に所属するラッセル佑子さんは、白鳩Yahoo!店の担当だ。Yahoo! のイベントにあわせた商品ページやバナーの制作、季節にあわせた特集の企画などを担当しているが、そこで求められているのは「判断」だという。
「私達の部署には全体を統括するディレクターが置かれていないので、各店舗の担当者が、それぞれのお客様の傾向や売れ行きなどにあわせてサイトを仕上げていきます。セールの時などは、動いている商品の様子を見ながら、位置やデザインを変更したりもします」
顧客と向きあい、その場にもっとも適した企画をリアルタイムに提供する。それこそが顧客に支持される最大のポイントだと考えているという。ところで、それぞれの店舗の担当はライバルなのだろうか?
「いえ、一緒のチームです。お客様不在の競争みたいなことはせず、全体のサービスの品質を高めることに主眼を置いています。私達の職場の場合、このとおり、話もしやすいので、一緒になっていいサービスをつくろう、と」
池上さんが最後にこんな話をした。
「笑われてしまうかもしれませんが、ECにとってもっとも大事なのは“根性”なんじゃないかと思うんです。商品を提供して、問題を見つけて、改善して、また提供する。その面倒な作業をひたすらに繰り返すことができるか。そこを諦めなければ、何とかなると思っています」
「白鳩」が売れてる理由
●スピードと質を重視し、配送は社内で対応
●サイト制作も社内で行い常に最新・最適化
●改善のヒントは業務の中からみつけだす