グロースハック実践①「心」グロースハックに必要なマインドセットを整えよ●特集「成長戦略 グロースハック」

【1】なぜグロースハックに「心技体」が必要なのか

グロースハックは、製品の中に成長する仕組みを組み込み、その仕組みの効果を定量的に判断して効率的な成長を達成していくプロセスだ。そのためには、単純な「最適化=【技】」に取り組むだけではなく、本丸となるプロダクトそのものに変更を加え、ともすればプロダクトが提供する価値やビジネスモデルなどの根本的な部分にも手を加えるものだ。だからこそ、その判断ができ、責任を持てる、プロダクトの成長にコミットする「マインドセット=【心】」と「チーム【体】」が必要なのだ。

 

 

 

【2】グロースハッカーは「マキャベリスト」であれ

「目的のためには手段を選ばない」こんな言葉を聞いたことがあるだろうか? これは15世紀に活躍したイタリアの政治思想家で、「君主論」の著者でもあるニッコロ・マキャベリに由来する有名なフレーズだ。このように目的達成のためならいかなる手段をも正当化して実行するような人のことを「マキャベリスト」と呼ぶが、グロースハックを実践する人間(グロースハッカー)は、まさにこのマキャベリストでなければならない。その理由はシンプルだ。世の中にリリースされているサービスのほとんどは多くのユーザーに使われることなく、成長せずに失敗に終わる。サービスを成長させることはさらに難しい。その難易度の高さを乗り越え、成長という目的を達成していくためには、手段を選ぶ余裕などないのである。常識を疑い、大胆に、マキャベリのごとく進んでいこう(ただし、当然ではあるが法を犯すようなことはけっして行ってはいけないし、まったく推奨もしない)。

 

【3】「銀の弾丸」はない。1%の改善を積み重ねよう

グロースハックの成功事例を見ていると「そうきたか!」と思わず膝を打つことが多い。ただし、そこで忘れてはいけないのは、それら成功をもたらしたグロースハックも、施策一つで成長してきたものではけっしてないということだ。今日のWebサービスやアプリを取り巻く環境は複雑でスピードが速く、不確実だ。そのような環境下でたった一つの施策で爆発的成長を成し遂げることなど不可能なのだ。コンピューター科学者のフレデリック・ブルックスが『銀の弾などない— ソフトウェアエンジニアリングの本質と偶有的事項』※で「すぐに役に立ちプログラマの生産性を倍増させるような技術や実践 (特効薬)は今後10年は現れないだろう」と述べたのと同じことだ。しかし、たった1%でも改善に成功し、その仕組みを製品に組み込むことができれば、改善は永続的に効果を出し、時間と共に大きな成長を獲得することができる。たかが1%だと思わずに、改善を積み重ねていくことが重要だ。

※『銀の弾などない— ソフトウェアエンジニアリングの本質と偶有的事項』(1986、英: No Silver Bullet – essence and accidents of software engineering)

 

1万人のユーザーがいるサービスが、1日に1パーセントの成長を繰り返すことができれば、「複利の効果」で、その成果は莫大なものになる。

 

【4】スマートに、何度も失敗を重ねる

グロースハックに失敗はつきものである。不確実な環境の中、誰も達成したことがないような圧倒的成長を獲得するのはそもそも難しい。そこで大切なのは失敗から学びを得ることである。施策の実施後には必ず計測をして、データに基づき次の施策を行う、「実施、計測、学び」のサイクルをできるだけ速く回転させていくことである。

 

 

 

グロースハックと同じように不確実な環境下でも成果を出し続けないといけない世界にアート、芸術がある。『アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方』※でデイビッド・ベイルズとテッド・オランドは、作品制作における「量」と「質」の関係について、高い質を持った作品の多くが大量の制作の中から生み出されると語っている。大量の試行錯誤の過程で質の高い作品を作る能力を獲得できるというのがその理由だ。不確実性の高い分野では量が質に転嫁していく。失敗のスピードを上げ、そこから学びを得る「スマートな失敗」を繰り返すのだ。

※『アーティストのためのハンドブック 制作につきまとう不安との付き合い方』(2011、フィルムアート社)

 

【5】成長がすべてを癒やす。そう確信すること

グロースハックにおける「心」の部分において「成長がすべてを癒やす」という言葉はチームのマントラとなるように、何度も何度も復唱し根付かせるべき心構えである。前述の通り、サービスを成長させることは難しい。しかも一度で大きな改善が見込めるような施策が出ない中で、数%の地道な改善を積み重ねていくには精神的なタフさが求められる。しかし成長が現実となり数字が見えてくると、これまでの困難はすべて忘れて、ただただ喜びにあふれる瞬間が訪れ、もっとこの瞬間を味わいたいと思う。まさに文字通り、成長がすべてを癒やすのだ。グロースハックに初めて取り組むチームは、この癒される喜びの瞬間をまだ味わったことがないはずだ。しかし、成長の暁にはすべてを癒やしてくれる至高の瞬間が必ず訪れるので、それを信じてグロースハックに邁進していってほしい。

 

Text:金山裕樹
Yahoo!にてX BRANDなどのライフスタイルメディアの立ち上げを行った後、株式会社VASILYを設立。VASILYのファッションアプリ「iQON」(http://www.iqon.jp、アイコン)はファッションアプリとして世界で唯一、AppleとGoogle両社のベストアプリに選出。さらに2015年には2年連続3度目のGoogleベストアプリを受賞。会員数は200万人を超え、日本最大級の女性ファッションアプリとしてファッション感度の高い女性ユーザーに支持されている。
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