キーワード06「自動車」:IoTとして先行する「自動車」●特集「IoTの現在」

Android Autoの利用例。Android Autoでは運転を妨げないことが優先され、下に並ぶ五つのアイコンに対応するアプリのみが利用できる。左から「ナビ」「電話」「ホーム」「音楽」「戻る」のアイコン

自動車の情報化を促す二つの技術

現在、自動車とインターネットをつなぐ、二つの技術が同時に発展を見せている。一つは、ダッシュボードにディスプレイを備え、インターネットと繋がった「車載インフォテインメントシステム」と呼ばれる分野だ。

そしてもう一つが、各所で話題の「自動運転」の技術である。今のところ、市販車では人の運転を支援する「自動ブレーキ」(衝突被害軽減ブレーキ)が普及しつつある段階だが、これを発展させて、人の代わりに人工知能が自動車を運転する完全自動運転を目指して激しい開発競争が繰り広げられている。

この二つの分野がどう進展していくのか、それぞれの現状と将来を説明していこう。

 

CarPlay/Android Autoと自動車関連メーカーの思惑

自動車がインターネットに接続できるようになった理由は、言うまでもなくLTEや3G網がほとんどの地域をカバーする状況になったためだ。したがって、自動車をインターネットに接続する手段としては、スマートフォンがもっとも現実的な手段となる。そのため、スマートフォンのOSのシェアを握るAppleとGoogleは、早い段階で自動車の情報化に着目し、OSの対応を進めている。

Android 5.0からAndroid Autoアプリを通じてスマートフォンを自動車のインフォテインメントシステムに接続できるようになった。日本では正式にサービスが開始されていないが、2016年内にはサービスインする予定だ

先行したのはAppleで、2012年に「CarPlay」と呼ばれるコンセプトを発表した。iPhoneの電話機能やアプリの機能を自動車内でハンズフリーで利用できるようにするというコンセプトで、iPhoneを車載インフォテインメントシステムに接続して利用する。2014年には、Googleも「Android Auto」を発表した。CarPlayと、ほぼ同様のシステムだ。この二つは、自動車の情報化を実現する有効な規格といえるが、無条件に業界に歓迎されたわけではない。後発のAndroid Autoはもちろん、先行しているCarPlayに対応する車載インフォテインメントシステムも、まだ市場にはほとんど出回っていないという状況だ。

パイオニアがナビで展開している「スマートループ」は、「プローブ情報システム」と呼ばれる技術で、自動車のさまざまな走行データを通信機能を搭載したカーナビ経由で専用サーバに集約し、集積された情報をネットワーク上でユーザー同士が共有するというもの。上の写真は、それを活かして行き先の状況を画像で確認できるサービス「スマートループアイ」

しかし、2015年の東京モーターショーでは、いくつかのメーカーが対応システムを発表した。国内のメーカーではパイオニア(株)が他に先駆けて海外で両規格に対応する車載インフォテインメントシステムを発売しているほか、国内自動車メーカーも2016年には自社製品に両規格に対応したシステムを標準搭載すると見られている。一方で、最大手のトヨタ自動車(株)は、当面はAndroid AutoおよびCarPlayへの対応を行わないことを明らかにしている。IT企業の参入への警戒感があると見られ、独自のシステムを提供していく構えだ。

このように、各社それぞれ思惑の違いはあるとはいえ、2016年には自動車の情報化が一気に進展しそうだ。

 

情報化の先にある自動運転技術

 

Googleの自動運転カー。車体には「self-driving car」と書かれており、上部にセンサーが搭載されているのも確認できる

Googleが自動運転技術を開発していることを明らかにしたのは2011年のことだ。現在では、自動車メーカーやIT企業、家電メーカーなど、多数の企業が自動運転技術の研究開発に取り組んでいる。

自動運転は、周囲の状況を詳細かつリアルタイムに取り込むためのセンサー技術や、それによって取得した情報に柔軟に対応して運転を行う人工知能といったものが必要になる。また、道路状況は時々刻々と変化しており、それに必要となる情報をアップデートするためのインターネット接続技術も重要になってくる。

自動運転の目となるセンサーとして、パイオニアが開発中の「3D-LiDAR」(上)と、その搭載イメージ(下)

2016年1月に米国で開催された世界最大の家電見本市「CES 2016」では、自動運転に関する発表が相次いだ。トヨタ自動車がシリコンバレーに人工知能の研究拠点を開設したほか、フォードやGM(ゼネラルモーターズ)といった大企業も自動運転に関する発表を行っている。こうした動きから、すぐにでも自動運転が実現しそうに思えるかもしれないが、完全な自動運転に関してはハードルが高く、実用化はまだ先のことだろう。とはいえ、ディープラーニングと呼ばれる人工知能の技術が急速に発展しており、それを活かせば自動運転も夢物語ではなくなっている。

開発競争によって急速に進歩している分野なので、自動車の情報化とあわせて人々の生活を大きく変えていくに違いない。そこには新たなビジネスチャンスが眠っているはずで、先行するIoTの例としても参考にしていきたい。

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