魔法のような映像体験を生むカイシャ「NAKED Inc.」

記憶や現象を“体験”へ 純粋さが育むクリエイティブ

このインターネット時代、相手に最初の印象を決めさせるのは、悲しくもたった3つの情報なのです。顔写真、プロフィール、そして代表的な経歴。それだけで、第一印象を決めてしまう。話したこともない、記事も読まない、たった3つの情報を見ただけのどこかの誰かに良し悪しを下されてしまうのが、情報蔓延時代のおそろしい評価システムなのです。

そして今回の取材先の情報は以下の通り。「社長がガチなイケメン」で、その経歴には「俳優」と書いてあり、あの「東京駅のプロジェクションマッピングを手がけてお洒落カフェまでプロデュース」している。どうですか?

「チャラい‥‥」

はい、そう思ったすべての方にこの記事を読み進めて、誤解を解いていきたい。これほどにピュアで純情で、つくることに対して真摯な方々に出会えて、私は涙がこぼれそうなほど心から喜んだのです。彼らの社名は「NAKED Inc.」。代表の村松亮太郎さん、プロデューサーの大屋友紀雄さんにお話を伺いました。

 

Company Profile

(株)ネイキッド

組織形態:株式会社

資本金:4,300万円

事業内容:テレビ番組の企画・制作/映画制作・CG/テレビ番組映像計画およびプログラミング/グラフィックデザインの企画・制作/映画宣伝企画立案、運営業務/映画、テレビ広告の立案およびプロダクション全般業務

スタッフ数:80名(2015年11月現在)

設立:1997年10月

 

村松 亮太郎 Ryotaro Muramatsu 代表取締役CEO/Director

俳優としてキャリアをスタート後、映像を中心としたクリエイティブカンパニーNAKED Inc.を設立。TV/広告/MV/空間演出などジャンルを問わず活動し、長編/短編作品と合わせて国際映画祭で48ノミネート&受賞。主な作品に、東京駅「TOKYO HIKARI VISION」、東京国立博物館特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」「KARAKURI」、新江ノ島水族館「ナイトアクアリウム」演出など。

 

大屋 友紀雄 Yukio Ohya General Manager

NAKED Inc.の設立に参画し、コンテンツプロデュース/クリエイティブ・ディレクションとともにコミュニケーション・プランニングを中心に活動。主な仕事として、auスマートパスpresents 進撃の巨人プロジェクションマッピング 「Attack on the real」「ニコニコ超会議2015 NTTブース『NTT 超未来研究所Z』総合プロデュース」「山下達郎『クリスマス・イブ』20周年プロジェクト」など。

 

ーーあの、まず社名のNAKEDを直訳すると「全裸」なんですが‥‥。

大屋:まずそこですか(笑)。まぁ迷惑メールにフィルタリングされたり、海外に行って「映像つくってます」って自己紹介すると、「ニヤリ」とされたりしますけどね。

村松:でも、NAKEDを設立した90年代の終わり頃は突飛な名前だって言われましたけど、いまは随分と過ごしやすくなりましたよ。時代も変わりましたね。

ーーえっ、そんなに古い会社なんですか?

大屋:実はもう、設立18年になるんです。当時はパソコンで映像を作ることすら一般的じゃなかったし、デジタル映像では第一世代でした。ただ、この18年の歳月のうちに、IT起業ブーム、VJブーム、ミュージックビデオから着火した映像ブームなんかが短いスパンで到来しては、静かに終結していって。僕らは会社として承認欲求もあまりなかったし、世間の波には揉まれずに地道にやってましたね。でも、2012年の東京駅のプロジェクションマッピングが話題になりまして‥‥。

ーー確か、クリスマスシーズンで混雑がすごすぎて話題になったやつですよね! わたしもあの件でNAKEDさんのことを知りました。

大屋:一度世間に名前が出てしまったのであれば、今度は「一発屋だった」と言われないように定期的に露出しなきゃいけなくなった(笑)。それで最近は広報活動も比較的活発なんです。

村松:出たくないのに前に出されるようになりました‥‥。

ーーあれ、そうだったんですか。すみません、イケメンで、俳優さんで、あの、ちょっと勘違いしてました‥‥。でも、そもそも俳優だった村松さんが、どうしてクリエイターに?

村松:僕が役者をやり始めた10代の頃、映画監督は監督業、役者は役者業というふうに、まだ明確にわけられていました。そんな中で、役者のショーン・ペンが自身で監督をした映画『インディアン・ランナー』は、有名な俳優はおろか、自分すら出ていない。でも素晴らしい映画だったんです。そのスタンスに大きな勇気をもらって、つくる側にシフトしていきましたね。

ーーなるほど。制作の欲求がすごく純粋なところから湧き出てるように感じるのですが、いざクライアントワークとなると、違和感も抱かれるのでは?

村松:いや、ないですね。

大屋:会社としてアート的なのか、商業主義であるべきかというのは重要ではなくて、むしろ両立できると思っています。メジャーなものを否定しながら居酒屋でクダ巻いてても仕方ないし、新しい価値は形にして初めて生まれるものなので、とにかくつくって実証したいです。

村松:それよりも、僕らの仕事を通して、いかに作品を見る人に憑依していくか、世界と一体化できるかということの方がもっと重要です。一つの映像作品をつくることより、現象や、記憶や、シーンとして残していきたい。時間軸や作品単体で切り取れないものをつくっていって、世界と一体化したいんですよ。でも、やってもやっても、満たされない。

 

OFFICE

さまざまなクリエイティブをこなすNAKEDのオフィスは、

あらゆる作業が行える環境が整っていました

写真左上は、村松氏がディレクションとプロデュースを手掛けるレストラン「9STORIES

 

——すごい言葉をいただきました。なんだか村松さんの創造力の源泉みたいなものをひしひしと感じるのですが、一方で組織としてどのように実現していくのでしょう?

村松:あ、最近組織図をつくったのですが、見てください。(放射状にグラデーションで色分けされた円。「赤=映像」「青=Web」といった明確な色に役割が振られているものの、グラデーションのため境目がない)

ーーなんだか、食品栄養一覧表みたいな組織図ですね(笑)。明確に区切りがないし、円だから上下左右もなくて。

村松:今の時代って、組織のあり方が野球的なものからサッカー的なものに変わっていると思うんです。「はい出番です」とバットを持たされるのではなく、各々が自発的に動く中で自分で判断してキラーパスを出す。時にはディフェンダーがゴールを決めることもある。NAKED内でも、映像、Web、デザインと区切るのではなく、穏やかなグラデーションの中でそれぞれが領域をまたぎながら、動いていってほしいので、このようにしています。

大屋:実は、組織化して上手く機能しそうになると村松が解体して、またバラバラにされるんです(笑)。組織分けって、一時的には効率的なのですが、実はどんどん活性化しなくなる。

村松:自分の仕事はこれだ!って思いに捉われてほしくないし、NAKEDでいろいろと挑戦していきたいんです。頭の中を星空だと思えばいいんですよ。星座だって人が決めたことだから、自分自身が浮遊して視点を変えれば、別の星座を組むことだってできるじゃないですか。

 

 

 

CREATIVE

見るのではなく、“体験”するNAKEDの映像世界を紹介します

FLOWERS BY NAKED

東京・日本橋三井ホール(COREDO室町1 5F)にて行われている、NAKEDが企画・演出・制作を手掛けた体感型イベント。「花遊び」をテーマに、音、オブジェ、マッピングなどさまざまな要素を組み合わせた7つの作品が体験できる。「都会に生まれたシークレットガーデン」をコンセプトにした現代的で都会的な花のイベントは、NAKEDにとっても一つの集大成と位置づけるほどの力作揃い。2月11日(木)まで

SNOW AQUARIUM by NAKED

東京・品川の「エプソン アクアパーク品川」にて開催されている体感型のイベント。デジタルテクノロジーと水族館を融合した都市型エンターテインメント施設としてグランドオープンした同館にて、“氷の世界”をモチーフにした空間演出を企画/制作。各所にプロジェクションマッピングを展開するほか、お酒を飲むことができる「フローズンバー」では、氷をイメージした空間でドリンクを置くと結晶が広がるインタラクティブな演出を施している。4月10日(日)まで

CITY LIGHT FANTASIA by NAKED

2015年3月に大阪の超高層ビル「あべのハルカス」の展望台ほか主要都市にて行われた、夜景とプロジェクションマッピングを融合した新体験イベント。JXエネルギー社製の透明フィルムに映像を投影し、夜空に魚たちが泳ぐイメージを夜景に映しだした。その後、東京タワー、名古屋テレビ塔でも開催しているほか、今冬は日本各地の水族館とコラボレーションした作品を展開し、全国で30万人以上を動員中

お台場・ヴィーナスフォート Venus Starium

東京・お台場の「お台場・ヴィーナスフォート」館内の天井に写し出す、日本最大級の天空型3Dプロジェクションマッピングショー。中世ヨーロッパの街並みを模した館内で、星空と海の世界が融合したエンターテインメントを映像で展開する。58台のプロジェクターを利用したダイナミズムと、買い物という日常を非日常へと昇華する映像世界の演出が館内を包み込む。12時から毎時00分と30分にスペシャルショーを開催。3月13日(日)まで

 

◎取材後記 NAKEDの根源にあるのは承認欲求ではなく、生存欲求だ!

NAKEDさんが開催している展覧会『FLOWERS BY NAKED』。こちらも別の日に取材させてもらったのですが、人間のしかるべき生存欲をそのまま体験できる空間になりそうな予感。「お花の展覧会ですわよ」とホンワカした気持ちで挑むと、おおいに裏切られるんじゃないかと思います。気合を入れて、体験し に行こう!

 

 

Text:塩谷舞(しおたん)
1988年大阪生まれ、京都市立芸大卒。PRプランナー/Web編集者。(株)CINRAにてWebディレクターとして大手クライアントのコーポレートサイトやメディアサイトなどを担当。その後、広報を経てフリーランスへ。お菓子のスタートアップBAKEのオウンドメディア「THE BAKE MAGAZINE」の編集長を務めたり、アートに特化したハッカソン「Art Hack Day」の広報を担当したり、幅広く活躍中。 ciotan blog:http://ciotan.com/ Twitter:@ciotan
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