
顧客満足度を高め継続性を促進するOisixのECショップ戦略●特集「リピーター&ファンを生む新法則」

2000年に設立されたオイシックス(株)が運営する、食材を扱うECショップ。2010年からは実店舗の出店も開始し、2016年現在で3店舗が営業中
11万人の会員を支える利便性
Oisixは、オイシックス(株)が運営する食品を扱うECショップ(定期宅配サービス)。年間の利用者数が約11万人、30代以上の女性層が全利用者の98%を占めるという顧客層を背景に、特に働く女性が週に一度の注文を短時間でストレスなくできるという設計が意識されている。
その一端を示す仕組みが「定期ボックス」である。これは、週に一度、その時期の旬の商品やおすすめの商品がカートにあらかじめ用意された状態で買い物(注文)がスタートする仕組みのことだ。ユーザーはそのまま注文(決済)できるので、定期利用者には注文するために選ぶ(悩む)時間をわざわざ割く必要がない。もちろん、カートの中身は自由に変更できるほか、注文そのもののキャンセルも可能だ。

この定期ボックスという仕組みは、今でこそ安定したサービスとなっているが、それまでの道のりには紆余曲折があったという。その状況を打開した施策の一つが、注文完了前のタイミングで送信するSMS(ショートメッセージサービス)だ。

注文確定日の前日を目安に送信されるSMS。注文確定に関するアラートの役割に徹するため、最小限のメッセージを送るように配慮されている
「定期ボックスはお客様の注文の負担を軽くしたい目的で設けたサービスでしたが、忙しくて注文する時間がないというお客様は注文自体を忘れるケースがあります。このサービスはキャンセルをしていただかないとそのまま商品が届くため、そういった忙しいお客様でも負担なく利用いただくための工夫が必要でした。そこで、注文期日が近づいていることを伝えるご案内を事前にメールだけでなく、前日のお昼12時を目安にSMSを発信しはじめました。SMSの内容はアラートのみに徹しています」(池山英人氏)
ユーザー本位でキャンセルしやすい仕組みに変えたことで、Oisixへのエンゲージメントが深まるような状況をもたらしている。

食材をコンテンツとして販売する
Oisixの特長は、食材にまつわる情報の開示が挙げられる。そこで着目したいのが、商品のネーミングだ。「シャキシャキ食感 フリルレタス(福井県産 益井さん他)」「さっぱりサラダにおすすめ サラダほうれん草(宮城県産 菊地さん他)」「ころんと真っ赤なみつトマト(千葉県産)」など、産地や生産者とともに、商品の特長を想像させる名づけ方にした。商品の詳細ページでは、食材のスペック情報のほか、生産者の声、訴求メッセージ、保存方法などが記載されており、そこに「お客さまの声」も掲載、徹底的に商品を選ぶ材料を提供している。

「商品へのメッセージや背景にあるストーリーも伝えることで、生産者が食材に向けて注ぐ思いや、食材のおいしさの秘訣をお客様と共有する狙いがあります。“おいしいです”と一言伝えるだけではわからない、食材に潜むストーリーをコンテンツとして伝えることができれば、食べるだけでなく、頭でもおいしいと感じていただけるかもしれない。こうした施策を行うことで、食を通した豊かな体験の提供になると考えています」
こうした考え方の延長線上に位置する施策が、お客様向けに発刊する冊子『VOICE』だ。定期的に商品とともに発送されるVOICEには、さまざまな食材について生産者などへインタビューを行い、商品に潜む裏側のストーリーを伝える試みを実践。もちろん取材から執筆、編集と社員自らが担当する。

「私たちが身にしみて感じているのが、お客様に伝えることの大切さと難しさです。どんなにコンテンツリッチな商品であったとしても、効果的に伝えないかぎり、お客様は商品のバックストーリーに気づくことはありません。食材が持つストーリーを伝えることで初めて、食材のおいしさの理由をお客様が感じられる。それは、味覚とは異なる、おいしいと感じる体験にもなります」

お客様の「声」でサービスを即改善
同時に、Oisixが大切にしているのは“お客様の声を聞くこと”でもある。ユーザーの声に真摯に耳を傾け、ユーザー目線によって、サービスが進化した例に「牛乳飲み放題」がある。その名が示すとおり、当初は1カ月間、月額980円(税抜)を払えば、1回につき牛乳を3本まで選べるというサービスだった。

「お客様がメインスーパーをどこにするかを決める基準となる商品の一つが牛乳であることがわかり、このサービスをローンチした背景があります」
いまやOisixの中でも主力の定期サービスにまで成長した「牛乳飲み放題」だが、実は今日ほどに定着するにはここでも苦難が続いたのだった。
「当初は、牛乳飲み放題の会員数が伸び悩みました。そこで、徹底的にお客様からご意見をいただきました。例えば、一度は利用したもののすぐに離脱したお客様から声を頂戴すると、牛乳しか選べないので飽きる、たくさんの牛乳を一度に冷蔵庫へ入れられない、といった声が多くありました。これらを解決するために、商品ラインアップの拡張を進めました。卵、果物、ヨーグルトなど牛乳と同様にデイリーで消費する食材まで取り扱いを拡げて、サービス自体が飽きのこない内容で提供するように一新しました」

実際、Oisixではメールを含めたお客様からの声に敏感に対応する。お客様データだけでは感じ取れない情報が、お客様からの生の声にあることを重視しているからだ。全社的にお客様のもとへ定期的に足を運ぶ取り組みもその一つ。同社代表取締役社長自らが率先して、毎月必ず顧客訪問を実践している。
ユーザーへの取り組みを可視化する
今後の展望も、顧客満足を高めるスタンスを基に、積極果敢な取り組みにトライする。その一つが、クチコミプラットフォームの立ち上げである。
「お客様からの“おいしい”という声を、もっとはっきりとわかる形で公開したり、社内の取り組みを積極的にお客様に向けて発信していきたい。そこで、発信する場をプラットフォームとして公開する予定です。この春からベータ版を立ち上げてブラッシュアップを重ね、夏から正式公開に踏み切りたいです」

もう一つが、顧客満足度向上の実践だ。すでにここまでの事例からもそのスタンスへの強い思いは伝わってくるが、さらに踏み込むことが企業理念でもある「日本の食を豊かにする」ことの実践だと考えるからだ。
「これまではユーザーのロイヤルティを測るための指標の一つであるNPS(Net Promoter Score:推奨者の正味比率)をもとに最善のあり方を模索してきましたが、これからはNPSをさらにブレイクダウンした指標を設けて、Oisixでのネットショップの体験自体がワクワクする、Oisixの食材が食卓を囲むと家族の会話が弾む、料理していて楽しくなるなど、買い物だけでなく、商品が届いて食卓で食べるまでの満足度を高めることが、私たちの究極の目標です」
顧客の生の声を重視しながら、ECショップとユーザーとの関係性に新風を吹き込むOisixの挑戦は、今後も快調に続くことだろう。


執行役員 EC事業本部 副本部長
池山英人氏